186 / 388
第一四話 交わす約束
第一四話 四
しおりを挟む
さらに秋が深まり、本格的な冬の到来を感じるようになった頃。
この日もあかりは町へ仕事をしに出掛けていた。今日の仕事は北の地にある小さな医院での受付業務だ。あかりの仕事ぶりが評価され、ここに仕事で来るのは今回で三回目だった。
院長は優し気な雰囲気の四〇代の男性だ。彼はふわりとした笑みを湛えて言った。
「あかりちゃんが来てくれると助かるよ。君がいるだけで医院が明るくなる気がする。今日もよろしくね」
あかりは元気よく頷いた。来院する患者は少ないに越したことはないが、ここに来たからには少しでも元気を取り戻してほしいと思う。院長の期待や患者の希望のために、あかりは自分にできることを頑張るつもりでいた。
幸か不幸か、その日の患者数は前回、前々回に比べて多くなっているような気がした。
受付開始から一刻ほど経って、あかりは違和感を抱き、顏を曇らせた。
(やっぱり、気のせいじゃないよね)
当初は考えすぎかと思ったが、今日はいつにも増して目まぐるしい。来院簿に記された名前の数も確実に多かった。
午前中の忙しさをなんとか凌いで、少し遅い昼休憩の時間となった。このときは一度医院自体を閉めてしまうので室内には院長とあかり、数人の職員がいるだけとなった。
あかりがふうと息を吐いていると、休憩室に院長がやってきた。
「お疲れ様、あかりちゃん」
『お疲れ様です』
「今日は朝から忙しかったよね。疲れただろう?」
『疲れたというよりも、患者さんが多いのが気になって……』
顔を曇らせたあかりに、院長は重々しく頷きを返した。
「そうだよね。わたしもそれが気になってね」
あいまいに頷いたあかりはそれきり黙ってしまった。
(……凶兆……)
感覚を研ぎ澄ませてみると僅かにだが空気が濁っていることに気がついた。覚えのありすぎるこの感覚は陰の国から運ばれてくる邪気の気配そのものだった。このくらいならばすぐにこれ以上の悪影響がでることはないだろうが、後で昴に知らせて邪気払いを提案した方が良さそうだ。
それはそれとして、あかりまでいつまでも暗い顔はしていられない。午後からは気持ちを切り替えて業務に集中しようと思った。
この日もあかりは町へ仕事をしに出掛けていた。今日の仕事は北の地にある小さな医院での受付業務だ。あかりの仕事ぶりが評価され、ここに仕事で来るのは今回で三回目だった。
院長は優し気な雰囲気の四〇代の男性だ。彼はふわりとした笑みを湛えて言った。
「あかりちゃんが来てくれると助かるよ。君がいるだけで医院が明るくなる気がする。今日もよろしくね」
あかりは元気よく頷いた。来院する患者は少ないに越したことはないが、ここに来たからには少しでも元気を取り戻してほしいと思う。院長の期待や患者の希望のために、あかりは自分にできることを頑張るつもりでいた。
幸か不幸か、その日の患者数は前回、前々回に比べて多くなっているような気がした。
受付開始から一刻ほど経って、あかりは違和感を抱き、顏を曇らせた。
(やっぱり、気のせいじゃないよね)
当初は考えすぎかと思ったが、今日はいつにも増して目まぐるしい。来院簿に記された名前の数も確実に多かった。
午前中の忙しさをなんとか凌いで、少し遅い昼休憩の時間となった。このときは一度医院自体を閉めてしまうので室内には院長とあかり、数人の職員がいるだけとなった。
あかりがふうと息を吐いていると、休憩室に院長がやってきた。
「お疲れ様、あかりちゃん」
『お疲れ様です』
「今日は朝から忙しかったよね。疲れただろう?」
『疲れたというよりも、患者さんが多いのが気になって……』
顔を曇らせたあかりに、院長は重々しく頷きを返した。
「そうだよね。わたしもそれが気になってね」
あいまいに頷いたあかりはそれきり黙ってしまった。
(……凶兆……)
感覚を研ぎ澄ませてみると僅かにだが空気が濁っていることに気がついた。覚えのありすぎるこの感覚は陰の国から運ばれてくる邪気の気配そのものだった。このくらいならばすぐにこれ以上の悪影響がでることはないだろうが、後で昴に知らせて邪気払いを提案した方が良さそうだ。
それはそれとして、あかりまでいつまでも暗い顔はしていられない。午後からは気持ちを切り替えて業務に集中しようと思った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
理不尽に追放されたので、真の力を解放して『レンタル冒険者』始めたら、依頼殺到で大人気な件
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極めるお話です。
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
- カ ミ ツ キ 御影 -
慎
BL
山神様と妖怪に育てられた俺は… ある日、こっそり山を下りた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
山神の杜に住む妖怪と山神に育てられた俺は人でもなく、純粋な妖怪でもない… 半端な存在。
ーーまだ物心がついたばかりの頃、
幼い俺は母に雇われた男達に追われ追われて、地元の人間からは山神の杜と呼ばれているこの山に逃げ込み、崖から落ちても怪我した足を引きずり幾つも連なる朱い鳥居をくぐり冷たい雪路を肌足で進む…
真白の雪が降り積もる中、俺の足も寒さと怪我で動けなくなり…
短い一生を終えようとしたときーー
山神様が俺に新しい生命を吹き込んでくれた。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる