【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第八話 喪失の哀しみに

第八話 一〇

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乾の結界は玄舞家と白古家のちょうど中間、北西に位置している。碁盤の目状に整備された道をこのときばかりは忌々しく思う。直線で突っ切れたら最短の道のりになるのに、それができないからだ。
 もどかしく思いながら、あかりと結月はひた駆けた。
 やがて目的の乾の結界周辺にたどり着いた。そこではまさに秋之介と昴が、式神に囲まれ応戦しているところだった。
 気配を消し、木立に隠れながら、あかりは式神と式神使いを確認した。
「式神使いは少ないね」
 目算で式神使いは四人。対して式神は十数体はいそうだ。
 一人あたりの戦力が強いことが予想されるが、裏を返せば一人でも倒したら式神の数はぐっと減るということだ。
 あかりは隣で同じように身を隠す結月に視線をやった。
「遠当法がいい?」
 結月が頷く。
「おれが、霊符で式神使いの動きを、止める。その間に、お願い」
「……よし、行こうっ!」
あかりは承知すると、相手の隙を見て木立から飛び出した。結月も追随して、霊符を使役する。
「動静緊縛、急々如律令」
「安足遠、即滅息、平離乎平離……」
 あかりと結月の登場に、秋之介と昴も驚いた式神使いの動きを封じては、式神を無力化していく。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
 あかりを取り巻く赤い光の奔流が次第に輝きを増していく。
「……絶命、即絶、雲、斬斬足、斬足反」
 舞い終えたあかりは、円を描くように周囲を斬り払った。
「急々如律令!」
 動きを制され、光の波紋を当てられた式神使いたちが次々と気を失って倒れていく。それで式神も符に姿を変えた。しかし、一体だけ消えない式神がいた。
「主が倒れても消えないか……。ちっ、厄介だな」
 式神の包囲から解かれた秋之介が舌を打った。
正面には獅子の式神が身を低くして構えている。いつでも飛び出せる体勢だった。
あかりが一歩前に出る。
「邪気を払えばいいんだよね」
 結月たちが頷いたのを見て、あかりは霊剣で相手に向かって宙を斬った。
「朱咲護神、急々如律令!」
邪気を払えば囚われた魂も元の持ち主のもとへ還っていくはず。少なくともあかりはそのつもりで邪気払いを買って出た。しかし、現実は違った。
式神は光を発し、つま先から消滅していっているようだった。
まただ、とあかりは呆然と思った。
昔はこんなことなどなかった。邪気を払えば穢れた魂は浄化され、無事持ちのもとへ還っていった。
だが、最近はどうも勝手が違うことが多くなった。囚われた魂は穢れきり、浄化では済まされなくなる。結果として邪気を払うと、魂ごと消滅してしまうのだった。
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