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第七話 邂逅と予兆
第七話 三
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足音が遠ざかるのを焦れた思いで待ち、あかりは小声で結月に呼びかける。
「結月」
「わかってる。おれも、助けたい」
人一倍優しく思いやりある結月もまた、見ず知らずの追われる妖を放っておけないらしかった。しかし、たった二人で陰の国の者七人を相手取り、かつ、妖を救い出すのは至難の業だ。あかりのように感情のまま飛び出すことはせず、結月は冷静に計画を練っているようだった。やがて顔を上げた結月は、ゆっくりとあかりに向き直った。
「あかりは、一度の遠当法で七人を気絶させられる?」
「結月が援護してくれるなら」
「もちろん」
結月はしっかりと頷いて見せると、即席の計画を語った。
「あかりには、敵の背後から遠当法を仕掛けてほしい。護符を渡すから、あかりの安全は確保できる。おれはあかりを援護しながら、妖に近づいてみる」
結月は袂から取り出した護符をあかりに持たせると、真っ直ぐにあかりの瞳を見つめた。
「あかりのこと、信じてるけど。でも、危険だと判断したらすぐに撤退して」
真剣な青い瞳を正面から受け止めて、あかりは頷きを返した。
そして互いに目配せをし、あかりと結月は足音の消えていった方へ駆けだす。そう遠くには行っていなかったようで、妖と陰の国の者の集団はすぐに見つかった。結月をちらりと見ると、彼は袂から数枚の霊符を取り出すところだった。それを合図に、あかりは瞬時に霊剣を顕現させ、木の陰から飛び出すと遠当法を唱えた。
「安足遠、即滅息、平離乎平離……」
あかりの登場に、敵の一人が驚きながらも素早く応戦する。
「行け、狗……!」
相手の構えた符が狗を象り、実体を伴うと同時にあかりに牙をむいてきた。咒言を唱えたままあかりが身を躱そうとする前に、間に結月の護符が飛び込んできた。
「身上護神、急々如律令」
結月の声に呼応して護符がまばゆい青の光を放つ。光が収束すると狗の式神は符の姿に戻っていた。
式神使いは舌打ちすると次の式神を召喚しようとする。その人数は次第に増えていく。いつの間にか召喚された烏の式神が、あかり目掛けて上空から垂直に下降してきた。あかりはそれには気づかず、結月もまた黒狐の妖と別の式神使いの間で戦っていたため援護どころではなかった。
いよいよ烏のくちばしがあかりに突き刺さりそうになった、その寸前であかりの胸元から澄んだ青が閃いた。それはさきほど結月から受け取った護符だった。青の光に包まれながら、あかりは咒言を唱えきろうとしていた。
「……即絶、雲、斬斬足、斬足反!」
式神使い七人に向かって、あかりは霊剣であたりを斬り払った。霊剣で燃える赤々とした狐火が残光を放ち、宙に軌跡を描く。邪気を払う神聖な光に当てられた式神使いたちはばたばたと気を失っては倒れていった。幸い式紙は倒した狗と烏だけだったようで、その場に残されたのはあかりと結月、そして黒狐の妖だった。
式神使いの背後を狙って戦いを仕掛けたために、狐を背に戦っていた結月とは自然と目が合った。結月にも妖にも怪我がないことを目視で確認して、あかりは安堵の息を吐きながらそちらへ駆けて行った。
「結月」
「わかってる。おれも、助けたい」
人一倍優しく思いやりある結月もまた、見ず知らずの追われる妖を放っておけないらしかった。しかし、たった二人で陰の国の者七人を相手取り、かつ、妖を救い出すのは至難の業だ。あかりのように感情のまま飛び出すことはせず、結月は冷静に計画を練っているようだった。やがて顔を上げた結月は、ゆっくりとあかりに向き直った。
「あかりは、一度の遠当法で七人を気絶させられる?」
「結月が援護してくれるなら」
「もちろん」
結月はしっかりと頷いて見せると、即席の計画を語った。
「あかりには、敵の背後から遠当法を仕掛けてほしい。護符を渡すから、あかりの安全は確保できる。おれはあかりを援護しながら、妖に近づいてみる」
結月は袂から取り出した護符をあかりに持たせると、真っ直ぐにあかりの瞳を見つめた。
「あかりのこと、信じてるけど。でも、危険だと判断したらすぐに撤退して」
真剣な青い瞳を正面から受け止めて、あかりは頷きを返した。
そして互いに目配せをし、あかりと結月は足音の消えていった方へ駆けだす。そう遠くには行っていなかったようで、妖と陰の国の者の集団はすぐに見つかった。結月をちらりと見ると、彼は袂から数枚の霊符を取り出すところだった。それを合図に、あかりは瞬時に霊剣を顕現させ、木の陰から飛び出すと遠当法を唱えた。
「安足遠、即滅息、平離乎平離……」
あかりの登場に、敵の一人が驚きながらも素早く応戦する。
「行け、狗……!」
相手の構えた符が狗を象り、実体を伴うと同時にあかりに牙をむいてきた。咒言を唱えたままあかりが身を躱そうとする前に、間に結月の護符が飛び込んできた。
「身上護神、急々如律令」
結月の声に呼応して護符がまばゆい青の光を放つ。光が収束すると狗の式神は符の姿に戻っていた。
式神使いは舌打ちすると次の式神を召喚しようとする。その人数は次第に増えていく。いつの間にか召喚された烏の式神が、あかり目掛けて上空から垂直に下降してきた。あかりはそれには気づかず、結月もまた黒狐の妖と別の式神使いの間で戦っていたため援護どころではなかった。
いよいよ烏のくちばしがあかりに突き刺さりそうになった、その寸前であかりの胸元から澄んだ青が閃いた。それはさきほど結月から受け取った護符だった。青の光に包まれながら、あかりは咒言を唱えきろうとしていた。
「……即絶、雲、斬斬足、斬足反!」
式神使い七人に向かって、あかりは霊剣であたりを斬り払った。霊剣で燃える赤々とした狐火が残光を放ち、宙に軌跡を描く。邪気を払う神聖な光に当てられた式神使いたちはばたばたと気を失っては倒れていった。幸い式紙は倒した狗と烏だけだったようで、その場に残されたのはあかりと結月、そして黒狐の妖だった。
式神使いの背後を狙って戦いを仕掛けたために、狐を背に戦っていた結月とは自然と目が合った。結月にも妖にも怪我がないことを目視で確認して、あかりは安堵の息を吐きながらそちらへ駆けて行った。
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