33 / 388
第四話 希望の光と忍び寄る陰
第四話 一〇
しおりを挟む
仕事着の緋袴から私服の単衣の着物に着替え、それに合わせて巫女のように一つに束ねていた髪もお嬢様結びに変えた。
あかりよりも早く着替え終わった結月たちは、お供え物の花や線香、果物を用意していたらしい。あかりが合流すると早速南朱湖に向かった。
昨日と同じく玄舞大路を通り、中央御殿を通り過ぎる。さらに南に下っていくと朱咲大路に入った。
朱咲大路はかろうじて道だと判じられる程度だった。辺り一帯何もない更地だったからだ。真南を向くと南朱湖が望める。遮る物は何一つない。
住むべき者も治める者もいない南の地を再建する余裕などなかったのだろう。それでも瓦礫や朽ちた家を残さずに管理だけはしてくれていたようだ。あかりにとってはそれだけで十分だった。
あかりの反応を伺うような沈黙だったが、当の本人は「行こうか」と穏やかに言って歩を進めた。三人も後に続く。
朱咲門があったところ、朱咲家の屋敷跡を通過して、あかりはまっすぐ南朱湖に向かった。いつかの惨状が悪夢であったとしか思えないほど、目の前に広がる湖は静かだった。
湖の前にはきれいな花束やまだ新しい果物などが複数供えられている。あかりたちもそれらに倣って持ってきた物をお供えした。
あかりは自身の狐火で火をつけた線香を足元に置くと、固く目を閉じて手を合わせた。
(ただいま、みんな。遅くなっちゃたけどちゃんと帰ってきたよ。優しかったみんなならおかえりって笑って迎えてくれたんだろうね。声が聞けなくて、顔が見られなくて、寂しいな……)
それから二年間の出来事や陽の国に戻ってきてからの出来事を話した。
(御上様の勅命は、私の使命でもあると思ってる。この国を護ることも大事なものを失わないことも、……みんなの仇をとることも)
さらにきつくまぶたを閉じる。ほとんど無意識の動作だった。
(まずは基礎の稽古からだけどね。どうか見守っててください。……また来るからね)
あかりが語り終わるのを結月たちは急かすことなく待っていてくれた。腰を上げたあかりは振り向くと、来たときよりも幾分晴れた顔付きで微笑んだ。
「待っててくれてありがとう」
三人は首を横に振った。朱咲門の方へと踵を返しながら、秋之介が提案する。
「せっかくここまで来たんだし、寄り道して帰ろうぜ」
「いいね。私もまだ見てないところ一巡りしたいな」
あかりが結月と昴の顔を覗き込むと、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「あかりちゃんにおねだりされちゃうと断れないよねえ」
「うん。秋だけなら稽古に連れ戻してたけど」
「ゆづも昴も、あかりに甘すぎねえ⁉」
「あかりはどこ行きたいの?」
「まずは西と東の地かな。できればおじ様たちにも会いたいし」
「じゃあ行こうか」
昴を先頭に、皆は東に向かった。
あかりよりも早く着替え終わった結月たちは、お供え物の花や線香、果物を用意していたらしい。あかりが合流すると早速南朱湖に向かった。
昨日と同じく玄舞大路を通り、中央御殿を通り過ぎる。さらに南に下っていくと朱咲大路に入った。
朱咲大路はかろうじて道だと判じられる程度だった。辺り一帯何もない更地だったからだ。真南を向くと南朱湖が望める。遮る物は何一つない。
住むべき者も治める者もいない南の地を再建する余裕などなかったのだろう。それでも瓦礫や朽ちた家を残さずに管理だけはしてくれていたようだ。あかりにとってはそれだけで十分だった。
あかりの反応を伺うような沈黙だったが、当の本人は「行こうか」と穏やかに言って歩を進めた。三人も後に続く。
朱咲門があったところ、朱咲家の屋敷跡を通過して、あかりはまっすぐ南朱湖に向かった。いつかの惨状が悪夢であったとしか思えないほど、目の前に広がる湖は静かだった。
湖の前にはきれいな花束やまだ新しい果物などが複数供えられている。あかりたちもそれらに倣って持ってきた物をお供えした。
あかりは自身の狐火で火をつけた線香を足元に置くと、固く目を閉じて手を合わせた。
(ただいま、みんな。遅くなっちゃたけどちゃんと帰ってきたよ。優しかったみんなならおかえりって笑って迎えてくれたんだろうね。声が聞けなくて、顔が見られなくて、寂しいな……)
それから二年間の出来事や陽の国に戻ってきてからの出来事を話した。
(御上様の勅命は、私の使命でもあると思ってる。この国を護ることも大事なものを失わないことも、……みんなの仇をとることも)
さらにきつくまぶたを閉じる。ほとんど無意識の動作だった。
(まずは基礎の稽古からだけどね。どうか見守っててください。……また来るからね)
あかりが語り終わるのを結月たちは急かすことなく待っていてくれた。腰を上げたあかりは振り向くと、来たときよりも幾分晴れた顔付きで微笑んだ。
「待っててくれてありがとう」
三人は首を横に振った。朱咲門の方へと踵を返しながら、秋之介が提案する。
「せっかくここまで来たんだし、寄り道して帰ろうぜ」
「いいね。私もまだ見てないところ一巡りしたいな」
あかりが結月と昴の顔を覗き込むと、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「あかりちゃんにおねだりされちゃうと断れないよねえ」
「うん。秋だけなら稽古に連れ戻してたけど」
「ゆづも昴も、あかりに甘すぎねえ⁉」
「あかりはどこ行きたいの?」
「まずは西と東の地かな。できればおじ様たちにも会いたいし」
「じゃあ行こうか」
昴を先頭に、皆は東に向かった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる