【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第四話 希望の光と忍び寄る陰

第四話 七

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 記憶とは微妙に異なる北の街並みを眺めながら、玄舞大路を南に下っていく。
 決して大きくはない陽の国では噂が回るのも早い。北の町民は十日前にあかりが帰還したことをすでに知っているようだったが、あかりの姿を遠巻きに嬉しそうに見つめるだけで、声を掛けたり道を遮ったりするようなことはしなかった。どうやら昴が予め人払いを頼んだらしい。
 中央御殿に向かう間、あかりは昴にいくつか質問しておくことにした。
「御上様って二年前に変わったんだよね」
「そうだよ。黄麟司様、現在八歳ではあるけれど、代替わりしてから初代御上様以降の記憶を完全に引き継いだらしくて中身は大人と変わらないんだ。とにかく見た目に惑わされたら駄目だよってこと」
 うんうんと頷きながら、あかりは質問を重ねる。
「司様も半妖なんだよね」
「うん」
「ちょっと親近感湧くなあ」
「……あかりちゃん、くれぐれも粗相のないようにね」
 昴が若干笑みを引きつらせた。
「大丈夫だよ。年下でも御上様相手に失礼なことしな、わっ」
 注意力が散漫だったせいか、あかりは何もない地面につまずき体勢を崩しかけた。すかさず隣を歩いていた昴があかりの腕を引く。
「言ってるそばから、ものすごく心配だよ」
「あはは……。ごめんなさーい……」
 あかりは苦笑いを浮かべながら昴の腕から身を離した。
 二人のやり取りを見ていた秋之介が後ろから茶々を入れる。
「ほんとそそっかしいよな、あかりは」
「また秋はそういうこと言う……」
 結月が秋之介の隣でぼやく。聞こえていたらしい昴が「でもこれが僕たちの日常だったんだよね」とぽつりと呟いた。
 あかりと秋之介は恒例の言い合いを始めていて聞いている様子ではなかったが、結月だけは昴をちらりと見遣って頷いた。
「また『日常』が戻ってきて、良かった」
 昴は「本当にね」と声柔らかに相槌を打ってから、視線を厳しくしていつの間にか到着していた中央御殿を見上げた。
「……もう、失わない」
 今度の昴の呟きは、結月にさえも聞き取れなかった。
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