命の灯火

ばんご

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芽生え

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私には心がない  
感情やぬくもりがどういうものか知らない
ただ一つあるものは、『憎しみ』
それが私が今ここに存在する理由の一つだから


銃声の声が聞こえる
銃声の音に混じって子供や、大人達の悲鳴も
また関係のない人達が殺されていく
無差別だ

立ち上がると通信機から指示が入る

『デリス、出動しろ』

『了解』

銃声の雨が降る中、彼女は怯むこともなく
その中に入っていく

(いつもと変わらないこの残酷な惨状…
 いつかこの世界に平和が訪れるのかしら?)

敵に交渉するが、聞く耳持たず
銃声は鳴り止むことはない
デリスは笑みを浮かべ、敵へと立ち向かっていく
まるでその笑みは、殺人鬼のようだったと

彼女、デリスは『兵器』だ
戦うことが彼女の全て、存在理由
戦争が終われば、用済みとされ破棄される運命
けれど彼女は望んでいるものがある

この世界に平和が訪れるように
皆が幸せに暮らせるようにと

その為に彼女は指示された通りに動く
戦地へ足を踏み入れる
たとえ、自分自身が壊れてしまったとしても

デリスが戦場から帰還すると、出迎えてくれたのは一人の青年

『デリス、お疲れ様 今回も大活躍
 だったね』

青年の名は、『レン』 この軍隊の隊長だ

『いえ、結局殺し合いでしか解決できません
 でした 
 私は…無力です』

拳を握りしめて、彼女はその場を去る

荒れ果てた荒野に向かい、一人座る
荒れ果てる前は花畑だった
色とりどりの花、香りが印象的だったが
今はもう見る影もない

しばらく感情に浸っていると、夕焼けがデリスを照らした
そろそろ戻らなくては、と立ち上がると背後から足跡がした

敵かと思い、武器を片手に振り返ると村人達だった
恨んだ瞳がデリスに突き刺さる

少し動こうとすると、一人の青年が
『動くな!』と声を張り上げた

青年は震えながらデリスと向き合う

『お前、兵器なんだろ…!
 なのに、何故戦争は終わらない
 いつまで俺達を苦しめれば気が
 済むんだ!』

青年にならって他の村人達も不満、罵声を浴びせてきた
村人達もわかっている
だけど、誰かのせいにしなければならないほど切羽詰まっていたのだろう

デリスが反論しないことをいいことに、村人達はデリスに石を投げた
彼女は石が当たっても微動だにしない

そんな彼女の態度に、怖気付き村人達は去っていった
去っていった瞬間、彼女の胸に痛みが走った
一瞬だった為、彼女は気にしなかった

軍の基地へと帰ると、人だかりができていた
真っ直ぐ休憩所へ向かおうとすると、レンに呼び止められる

『デリス、こちらにおいで
    紹介したい人がいるんだ』

レンのところへ向かうと、隣には見知らぬ青年がいた
漆黒の髪が印象的だった
自分と同じ髪色に親近感が湧いた気がした

『彼は僕の知り合い、『セイン』
    軍からの指示でここにきたんだ
 まぁ、仲良くやってよ』

『はい、セインさん よろしくお願い
 します』

『ああ、こちらこそ』

お互いに挨拶を交わし、明日とある為解散となった

『レン、お前に一つ問いたい』

『何かな?』

真剣な表情のセインに、変わらず笑顔で接するレン

『お前は、あの子を…デリスを『兵器』と
 しか見てないんだな
 他の連中だってそうだ』

『だって、デリスは兵器だ
 それはかえることはできない

 彼女の存在理由は戦場に赴くこと
 それだけだ
 彼女もそれを望んでいる』

その言い張るレンに言葉が出なかった
彼女の瞳は悲しみで満ち溢れていた
デリスは孤独だ
『兵器』という存在意味が彼女をそうさせたのだろう

『兵器だからなんだ?
 そんなの理由にならない
 俺は認めない』

そういいその場を去る
そんなセインにやれやれと微笑を浮かべる

『彼女の、デリスが兵器になってしまった
 理由を知ったら
 あいつ、もっと怒るだろうな…
 いや、怒るじゃ済まないかもしれない』

デリスは深夜見張をしていた
いつ、何が起こるかわからない 念の為だ

他の隊員達は眠っている
だが、デリスは眠ることができない

眠くもならない、目を瞑っても
彼女自身もいつからそうなのかわからないくらいに

見張りは自発的にやってることだから、苦ではない

デリスは昼間にあったセインのことを考えていた
はじめて会った人なのに、懐かしい気持ちになった
どこかであったのだろうか?
自分が覚えていないだけで

土の踏む音がする
隊員が起きてきたと思ったが違った
足音の正体はセインだった

『眠らないのか?』

ゆっくり頷くと、そうか…といい隣りに座る
沈黙が続くがセインは喋ることもなく、立ち去る仕草もなかった
ただ、空を見上げていた

少しするとセインが語り始めた

『俺には妹がいた
 我儘を言わない子で、すごくしっかりし
 てて両親も亡くなっていたから

 俺は家を空けることが多くて…
 寂しいはずなのに』

妹のことを話すセインは、懐かしむように微笑んでいた
きっと大切な子なのだろう
血の繋がった兄妹なら尚更だ

『だけど、ある日いなくなった
 どこを探しても見つからなかった』

衝撃の事実に、驚きを隠せなかった
どんな言葉をセインにかければいいのか
わからなかったから

それを察してかセインは微笑んだ

『あの子は優しいから
 何かに巻き込まれていないかと
 心配になった
 
 けど、どこかで会えるって信じてる』

『…どうしてそう思うの?』

疑問が隠せなかった
何故いなくなった妹に、再び会えると信じられるのか
その『心』が知りたかった

『大切な妹だからかな
 あの子は勝手にどこかへ行こうとしない
 きっと事情があったんだよ
 あの子と俺は、心で繋がっているから』

『心で繋がっている』 
その言葉に羨ましく感じた
信じられると、自信を持って語る彼に対しての初めての感情

『妹さんが羨ましいわ
 私はそんな心で繋がっている関係の人は
 いないから…』

『そんなことないさ
 家族でなくても心で繋がれる関係は作れる
 デリス、俺はお前とそういう関係を作って
 いきたい

 兵器としてではなく、一人の人間として』

『一人の人間として』 
望んだことはなかった
兵器としての自分は当たり前だったし、そう扱われてきた

けれど、どこかで願っていた
一人の人間として見て欲しいと
差し出された手に縋りたい
そう思い、彼の手に自分の手を重ねる

『私に教えて
 『心で繋がれる関係を』
 一人の人間としての心を』

それが彼女の本心
抑圧されていた中で彼女が願った小さな願い

『ああ、教えてやる
 俺の全てを懸けて』

これが始まりだった
兵器としての運命に抗うデリス
抗うことで真実を知っていく

その真実はデリスとセインに酷なことを突きつける
二人はどう立ち向かって行くのだろう



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