11 / 29
触れたぬくもりは冷たくて
しおりを挟む
運命の時がきてしまった
いずれ伝えるべきなのだから、遅かれ早かれ
けど、俺の中では罪悪感が胸を締めつける
きっと彼女なら許してくれるだろうと
陽菜の優しさに付け込んでいるのは承知だ
それでも俺は陽菜の願いを叶える為に
真実を知ってもなお、彼女が太陽の下で笑って生きていけるように
他の感情はいらない
彼女が幸せになれるなら、俺は
リアムは全ての感情を捨てるように、彼女の元へと飛び立った
もう、戻れない時まで迫っていた
心も、時間も
リアムの雰囲気がいつもと違った
表情がぎこちなかったから
何かを決意したようにも見受けられた
『陽菜、君の願いを叶える時が来た』
そう言い、リアムは翼を広げた
私の体を包むように
私とリアムはお互いに触れることができない
悪魔と人間だから
けれど、契約の間とはいえ少しの間だけでも
私は分かり合えることができたと思った
今この時、私はリアムとの思い出の感傷に浸るように目を瞑った
彼がくれる言葉や、あたたかさを思い出しながら、この瞬間願いが叶うんだと、嬉しさが胸を満たした
リアムが深呼吸するように、息をする音が聞こえ、それと同時に目を開ける
リアムと見つめ合う姿勢になり、まるで初めて契約した時のようだ
リアムの瞳は赤くて、まだ生きてると思わせるな神秘的な色
けれど、その瞳の奥には悲しみも含まれている気がした
その瞳を見つめていると、瞳の奥が揺れるように視界が変わる
あたり一面が真っ暗になり、光が差し込むことはないような
まるであの悪夢のような光景だった
『今、この空間は俺と陽菜だけしか干渉
できない 言わば結界のようなもの
無理に入ろうとすれば、自然消滅するか
体の一部が欠損する』
そしてリアムは、陽菜へ一歩近づいて
頬に手を添える
その感触に驚きを隠せなかった
触れることができたから
『俺が今、作り出した空間の中なら
契約者同士は触れることができる
契約した時もそうだったけどな
覚えていないか?』
振り返ってみると、彼は確かに私のおでこに口付けを落とした
一瞬のことだったし、あの時は気持ちも昂っていてそれどころではなかった
彼の手がゆっくりと私の頬をなぞる
その手は人間とは異なるものように
青白い手に爪も悪魔らしく伸び切っていて、獲物を狩るのに必要不可欠な武器とも思えた
恐る恐るその手を重ねると、ひんやりと冷たいその感触が心地よく触れることができて嬉しくて微笑んだ
『…はじめてリアムに触れることができた
嬉しい』
感動し、少し涙が出そうになったが
なんとか堪えた
『…そうだな、これが人の温かさか
ずいぶん忘れてしまっていたな』
その言葉に、私は彼が元人間ということを思い出した
人間から悪魔になったリアム
どういう経緯で悪魔になったのだろうと疑問はあった
けど、私と彼はあくまで契約上の関係
彼にとって触れて欲しくない部分もあるだろう
『陽菜は顔に出やすいな
聞かなくてもわかるぐらいに』
『えっと…どんな顔してたの?』
『聞きたくて仕方なくて、気を使ってる顔』
昔から変わらない、と小さな声で呟いた
陽菜に聞こえないように
彼女には聞こえなかったらしく、よくわからないと呟いていた
そんな微笑ましい彼女を、今から俺が絶望へと導き、壊していくかも知れない
そう思うと、先程決意したのにまた揺らぎそうになる
感情とは忙しいものだ、煩わしく思えるほどに
『今から俺が陽菜の願いを、叶える
覚悟はいいか?』
陽菜はゆっくりと頷く
そして俺も決意する
逃げてはいけないと、陽菜が俺を望んでいる
樹の、真実を知る権利が陽菜にはある
『リアム、教えて
私に、樹君のすべてを
どんなことでも私は知りたいの
そして彼に思いを伝えたい』
その揺るぎない眼に俺は彼女の手を取り
恐る恐る口にする
俺の、本当の名を
『お前が探している樹は、俺だ』
いずれ伝えるべきなのだから、遅かれ早かれ
けど、俺の中では罪悪感が胸を締めつける
きっと彼女なら許してくれるだろうと
陽菜の優しさに付け込んでいるのは承知だ
それでも俺は陽菜の願いを叶える為に
真実を知ってもなお、彼女が太陽の下で笑って生きていけるように
他の感情はいらない
彼女が幸せになれるなら、俺は
リアムは全ての感情を捨てるように、彼女の元へと飛び立った
もう、戻れない時まで迫っていた
心も、時間も
リアムの雰囲気がいつもと違った
表情がぎこちなかったから
何かを決意したようにも見受けられた
『陽菜、君の願いを叶える時が来た』
そう言い、リアムは翼を広げた
私の体を包むように
私とリアムはお互いに触れることができない
悪魔と人間だから
けれど、契約の間とはいえ少しの間だけでも
私は分かり合えることができたと思った
今この時、私はリアムとの思い出の感傷に浸るように目を瞑った
彼がくれる言葉や、あたたかさを思い出しながら、この瞬間願いが叶うんだと、嬉しさが胸を満たした
リアムが深呼吸するように、息をする音が聞こえ、それと同時に目を開ける
リアムと見つめ合う姿勢になり、まるで初めて契約した時のようだ
リアムの瞳は赤くて、まだ生きてると思わせるな神秘的な色
けれど、その瞳の奥には悲しみも含まれている気がした
その瞳を見つめていると、瞳の奥が揺れるように視界が変わる
あたり一面が真っ暗になり、光が差し込むことはないような
まるであの悪夢のような光景だった
『今、この空間は俺と陽菜だけしか干渉
できない 言わば結界のようなもの
無理に入ろうとすれば、自然消滅するか
体の一部が欠損する』
そしてリアムは、陽菜へ一歩近づいて
頬に手を添える
その感触に驚きを隠せなかった
触れることができたから
『俺が今、作り出した空間の中なら
契約者同士は触れることができる
契約した時もそうだったけどな
覚えていないか?』
振り返ってみると、彼は確かに私のおでこに口付けを落とした
一瞬のことだったし、あの時は気持ちも昂っていてそれどころではなかった
彼の手がゆっくりと私の頬をなぞる
その手は人間とは異なるものように
青白い手に爪も悪魔らしく伸び切っていて、獲物を狩るのに必要不可欠な武器とも思えた
恐る恐るその手を重ねると、ひんやりと冷たいその感触が心地よく触れることができて嬉しくて微笑んだ
『…はじめてリアムに触れることができた
嬉しい』
感動し、少し涙が出そうになったが
なんとか堪えた
『…そうだな、これが人の温かさか
ずいぶん忘れてしまっていたな』
その言葉に、私は彼が元人間ということを思い出した
人間から悪魔になったリアム
どういう経緯で悪魔になったのだろうと疑問はあった
けど、私と彼はあくまで契約上の関係
彼にとって触れて欲しくない部分もあるだろう
『陽菜は顔に出やすいな
聞かなくてもわかるぐらいに』
『えっと…どんな顔してたの?』
『聞きたくて仕方なくて、気を使ってる顔』
昔から変わらない、と小さな声で呟いた
陽菜に聞こえないように
彼女には聞こえなかったらしく、よくわからないと呟いていた
そんな微笑ましい彼女を、今から俺が絶望へと導き、壊していくかも知れない
そう思うと、先程決意したのにまた揺らぎそうになる
感情とは忙しいものだ、煩わしく思えるほどに
『今から俺が陽菜の願いを、叶える
覚悟はいいか?』
陽菜はゆっくりと頷く
そして俺も決意する
逃げてはいけないと、陽菜が俺を望んでいる
樹の、真実を知る権利が陽菜にはある
『リアム、教えて
私に、樹君のすべてを
どんなことでも私は知りたいの
そして彼に思いを伝えたい』
その揺るぎない眼に俺は彼女の手を取り
恐る恐る口にする
俺の、本当の名を
『お前が探している樹は、俺だ』
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
義母の秘密、ばらしてしまいます!
四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。
それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。
けれど、彼女には、秘密があって……?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる