悪魔と契約した少女

ばんご

文字の大きさ
上 下
8 / 29

悪夢のはじまり

しおりを挟む
その日は夢を見た 幸せなあの頃の樹君と過ごした夢

いつものように、頭を撫でてくれて、優しく微笑んでくれた
私はその感触に身を委ねるように思った
幸せな夢なら覚めないで欲しいと

けれどその景色がすぐに一変し、辺りが暗闇に包まれた

光もないただ真っ暗な中、誰かが蹲っている
声をかけようとするが、私は声が出ない
何かに遮られているように

蹲っている誰かは、急に叫び声を上げ黒い羽根を羽ばたかせた 悪魔だ

一瞬見えた瞳が、懐かしく思えて私は駆け寄ろうとすると、『駄目だ、俺を見るな…陽菜』
そして夢から覚めた

その夢は現実的で、今も記憶に残っている
心臓が脈打つ音と、汗が現実だと語っているようだった

『あの人は…リアムなの?それとも…』

自分を陽菜と呼ぶ人は数えるぐらいしかいない
嫌な予感が拭えない夢だった

それからも陽菜は、その夢も見続けた
悪夢と呼べる類のものなのかもしれない
夢が見るのが怖くて、塞ぎ込む日もあった

私は夢を見る現象が、命が尽きる前兆に思えた
樹君に会えないまま、私は逝ってしまうのではないかと

怖くて私はリアムに急かすように懇願した

『リアム、お願いよ 今すぐ願いを叶えて
 無茶だってわかってる、でも…!
 樹君に会えないまま、逝くのは嫌!』

声も手も震えていたと思う
それ以上に私の中で恐怖が勝っていた

そんな私の様子にリアムは驚きながらも安心させるような物言いで

『大丈夫だ、願いを叶うまでお前は
 命が尽きたりしない そういう契約だ
 陽菜、どうしたんだ突然』

『…怖い夢を見たの、幸福の後に絶望が
 待っているような夢』

思い出しただけでも、怖くて息が切れそうになる
もし、あの暗闇にいる悪魔が樹君だったらと
考えてしまうほどに

『夢は…お前に何かを伝えたがっていたり
 するのかもしれないな

 幸福の後に絶望が待っている夢なら
 きっと、お前に絶望するなと
 語りかけたいんじゃないか?』

『私は絶望してないわ  
 どうして、そんなこと…』

リアムと出会う前に比べたら、絶望感は無くなった方なのに

リアムと契約してから私の病の症状も軽減して、
起き上がれる頻度が上がった

どうしてリアムはそんなこと言うのだろう

『…夢は夢でしかないが、心の現れが夢で
 現してるのかもしれないと俺は思う

 自分が思っているよりも、心は単純で
 明確なものだ

 悪魔が何言ってるんだか、と思って
 もらっていい』

心の現れ、単純で明確なもの
その言葉に私は少し思い当たることがあった

リアムと契約して私は、毎日に絶望してないが一日過ごしながらこう思った

樹君に会えるなら、そのあとはどうでもいい
どんな死に方をしても心残りはない

その考えこそが間違っていたと
心が語りかけていたのかもしれない

今はリアムに生かしてもらっているに過ぎない身、それに甘えしてしまっている自覚もある

そんな中で私はどうしたらいいのだろう
わからない、自分の心が彷徨っている
まるで、迷子の子供のようだ

わからなくて、涙が溢れそうになる
そんな私を気遣ってか、彼は優しく微笑んで

『焦ることはない、俺は陽菜の意思を
 尊重する
 間違ってもいい、躊躇うことはない
 自分自身を信じればいい』

その言葉に優しさに、私は懐かしさを感じた
声のトーン、表情、仕草が私の記憶の中にある感覚が、樹君だと言ってるみたいだった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

義母の秘密、ばらしてしまいます!

四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。 それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。 けれど、彼女には、秘密があって……?

処理中です...