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第3章 淫武御前トーナメントの章

57話 犠牲になる翔子。忍び寄る魔の手。

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 57話 犠牲になる翔子。忍び寄る魔の手。

 時間と時間の歪みによって生まれた亀裂が、刃と化して襲い掛かってくる。
 その亀裂の刃を翔子は身体を張って受け止め続けた。背中にいるナツキ、エリナを庇う形となって、翔子は身を挺したのだ。
 だからといって、無抵抗なまま人柱になるつもりはなかった。

 翔子は、変幻の術を使って、物理ダメージ全てを回避するつもりでいたのだ。
 重機による破壊さえも防いだ物質への変化、無敵の大仏に変化した術である。
 しかし、――ザグンッ!! 
 一発受け止めて、翔子の目論見は外れる。
 次元を裂くような斬撃は防ぎ切れないと知らされたのだ。変幻を使って鎧に変えていた外郭が砕け散った。

 ――グゥヌッ!? や、っぱり無理ねっ……――。
 一瞬浮かんだ、全滅のシナリオ。腹部を抉られた痛みに、弱音が表情にも現れる。

 イヤ゛ッ゛、、、マダ、ダッッ!

 しかし翔子は諦めなかった。
 忍者最大の防御忍術を破られてなお、砕けたことによって自由を得た腹部をグィッ、と捻る。ナツキに刃が通らぬよう、次元の斬撃の軌道から隊列を逸らしたのだ。
 同時に、淫魔と同じ体質である身体再生に全力を費やす。
 次から次へと飛んでくるれきのような刃、回復は間に合ってはいなかった。
 それでもゴールが確かに見える。

 ――い、いけるッ!
 
 ピシュンピシュンピシュンッ! 
 斬撃が細かくなり、トンネルの終わりを告げるような白い光りが見えて、思い入れの深いホテル仮想空間からの脱出を確信したところでドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!

「グアァアアアアアアアアアアアアッ!」

 時空の歪みによるモノなのか、それともマモンのいたちさいによるものなのかは分からない。しかし、ゴールを目前にして予想だにせぬ爆発が起きたのだ。
 全てを無へと帰さんばかりの光の衝撃波が、3人の身体を丸々と飲み込んだ。

「はぁ、あ…………ぐ、、、、ぅ…………、う………………ぐ……ぁ、……はぁ……」

 亀裂の刃をまともに受け続け、挙げ句爆撃に飲み込まれた翔子であった。
 だが、結論から言うと、仮想空間からの脱出には成功したのであった。
 がしかし、翔子の身体はボロボロだった。

 はぁ……、あ……はぁ…………。

 全ての力が回復に回されていて、痛みを知る余裕さえなかった。
 痛みさえ感じられぬほどのダメージを負いながらも、翔子は向きを変えることすらままならない首だけを動かして、辺りを見回す。
 ナツキやエリナを探したのだ。

 しかし、全員が全員バラバラに飛ばされてしまったのか、ナツキやエリナの姿は見当たらなかった。ただ、敵の気配も無かった。
 よかっ、…………たっ…………。
 それを確認し終えたところで翔子は意識を失ってしまう。

 *****

「まだ回復しないようだねぇ……はぁ、はぁ……、しかしっ、こんな形であれ、服部の身体をごちそうになれるとはねぇ、はぁはぁ……。淫魔冥利に尽きるよ」

 ちゅれろれろっ……、ちゅう、ちゅぱぁあ――っちゅぱっ……。

「ぅ…………、はぁ…………ぅ…………はぁ、、、…………」

 下劣な男の声が時折聞こえてくる。
 その下劣な男の声が粘膜音を鳴らしながら耳に入ってくる度に、翔子は身体の中心で生まれる生理的に受けつけない不快感から手足を震わせていた。
 生ぬるい気色悪さに時折意識が戻りはするものの、それはあくまで一瞬で、意識はすぐに身体の超再生に回されてしまう。

「はぁ、はぁ、堪らないねぇ……はぁ、はぁ……」

 そんな意識が途切れ途切れになっている翔子を唾液で汚しているのは――かねたるであった。

 決勝の舞台である偽物の地上仮想空間で突如起こった、地上全てを震わさんばかりの地震。それが収まって恐る恐る向かった震源地で、樽男は転げた翔子を見つけたのだ。

 くノ一チームの中で、スレンダーな肉体美を持つ、スラリと線の細い元秘書が転げていたのだ。黒のタイトスーツを砂埃で灰色にすすけさせて伏せっており、スーツはスリットを深くするように破れてしまっている。
 が、それ以上に酷かったのは右腕である。
 もともと蒼さを感じるほど白い肌なだけあって、焼け焦げて黒く変色したその腕はあまりにも目立った。
 パッと見だけでも、まともに戦えないダメージを負っていると容易に伺えた。

 ――チャンスが巡ってきた。
 そう思って、樽男はごくんっ、と喉仏を大きく上下させて生唾を飲み込んだ。
 しかし、すぐには襲う決断に至れなかった。

 くノ一連中の中で服部翔子は一番付き合いが長い。秘書として雇っていた頃も数えると一年以上にもなる。
 その後くノ一であると明かされ、手となり足となると言われ、樽男は翔子を雇い続けた。

 政治家と秘書、淫魔とくノ一。
 今の2人の関係からは想像が付かないが、どちらの時代に於いても、樽男は翔子に対して圧倒的に優位な立場をとっていた。
 しかしその立場を利用しても、樽男は翔子の裸体を1度として拝んだことが無いのだ。

 そもそもどの翔子が本当の翔子なのかさえ分からない。
 あるときはマッチョ、あるときは尖った眼鏡のキャリアウーマン、またあるときは和服を羽織った花魁。
 スーツをボロボロにしたまま転げている無防備な状態でも、樽男は安心出来ず、易々と犯すなんて決断に至れなかったのだ。

 全てが油断を誘う作り物の可能性がある。
 服部翔子はそういう女なのだ。どれだけボロボロでも油断は出来ない。
 思ったままじっくり観察していると、若く、それでいて育ちの悪そうな男の声が頭の中で反響した。

 ――翔子は三日三晩動けねぇよ。

「キミは……」

 淫魔のゴッドファザーと言って差し支えのない男、龍司の声だった。
 マモンに脅されて大会に参加しただけの樽男は、龍司のことなどこれっぽっちも知らなかった。そもそもとして興味も無かった。

 淫魔の世界のくだらん争いなど全く興味がなかった。
 
 ――忍者の男古賀茂から、淫魔の力を貰ったまでは良かった。特別な人間になれた。生まれ変われた。心からそう思えたものだ。
 身体の一部を切り離して分身を生み出し、それをまた取り込むことも出来る。
 この世に、このようなことが出来る人間など、どこを探してもいまいだろう。
 身体が切断されても死なない不死身の肉体を得たのだ。

 不死身の肉体を使えば、欲しいものは全て手に入れられる。
 人間ベースで思い描いていた野望は、易々と達成できる未来予想がついた。それは不老を得たことによって暇を持て余すことをも意味していた。

 しかし、淫魔化の素晴らしいところは、その力を持て余さないだけの凶悪なまでの欲求の膨張にこそあった。
 淫魔の欲求には限りが無いのではないかと思ってしまうほどにだ。
 人間の頃には考えもしなかった、全てを手中に収める野望。
 人間の頂点に立つ。優れた人間による統治こそこの世界には必要。

 ――となると、一番邪魔な存在は、忍者の男古賀茂だね。わたしのように才能ある人間を量産されては堪らないからねぇ……。準備運動に忍衆を潰して回ろうかぁ……。
 この時の樽男には、一大臣どころか、全ての人間の頂が見えていた。
 それがなぜかパートタイマー以下の低賃金。その癖して、命を失い兼ねない重労働を服部翔子からは課せられた。
 内通がバレてからは更に酷い目に遭った。
 マモンからパシリに使われ、賃金は無と化した。

 力は相対的なものでしかない。
 いくら強くなっても、敵が更に強ければ弱いのだ。人間が虫けらに思えるほど強くなっても、人間が敵でなくなるだけでしかなかった。
 次から次へと強い敵が現れるのだ。
 今までは見ることさえ出来なかった存在を見ることが出来るようになったに過ぎなかったのだ。それを悟ったときに、本来なら未だに見ることさえ出来ない凶悪な男・龍司が現れた。
 そして今、その男の声が頭の中で響いたのだ。

 ――服部の手下にされて、マモンの手下にされて、これ以上は状況の悪化がしようもない。そう考えていたが、いくらそう思っても悪くなり続けているのだ。
 そもそもとして、龍司は初顔合わせのとき、樽男のチームメイトの死体を引きずって現れ、そして言ったのだ。 

 ――この死体を運営に提出して、マモンを補欠登録してメンバーに加えろ。

 そんな男の声が頭で響いたものだから、樽男は自身のノイローゼを疑ってしまう。
 そんな混乱しつつ周囲をキョロキョロと見回す樽男に、龍司が続けた。

『――翔子は三日くらい動けねぇ好きにして良いぞ』

「な、……に?」

『くノ一が妙に張り切るもんだから、淫魔共が苦戦している。マモンもやられた』

 あのクソガキがやられたか。いい気味だね。

『――で、お前には翔子を堕として欲しい。気絶5回で退場させずに、手駒として自由に使えるように完全に堕とせ』

「服部を……、堕とす?」

 胸の奥でドス黒い煙が膨れていくような圧迫感を覚えた。自らが生みだした黒い欲望だというのに、その煙が肺の中で渦巻き、呼吸が浅くなる。その欲望の黒煙はもわもわと膨らみ続けていき、それに比例して興奮が肥大化していった。
 しかし、その興奮は、達成が困難であるがゆえの興奮でもある。

 ……服部翔子を堕とす。
 
 気絶で退場させるにしても困難が付き纏う。にもかかわらず、求められているのは完堕ち。いくら満身創痍とはいえ不可能に近い。
 
「翔子の爛れた腕に、淫魔の細胞を突っ込め」

「なに? ……それは、一体、――どういう意味だね?」

 肉分裂の知られざる用途だろうか? 見た目は柄の悪いDQNな龍司だが、淫魔の父親でもある。見た目の年齢が逆転している者が殆どではあるが、淫魔の能力に関していえば誰よりも深い見識を持っているのだろう。

「細胞を突っ込めりゃ、右手を操れんだろ?」

「……右手を操る。どういう意味だね?」

 大体どうやって……。
 
「黙って言われたとおりにしろ。――で、どこまで小さい分身を作れる?」

 回復しつつある服部の腕に、樽男は米粒ほどの分身を種でも植えるように埋め込む。しかし、樽男の表情は、猜疑心を隠す様子さえ無かった。
 だからと言って、龍司に口答えする度胸は無い。

「これが最小サイズの分裂だよ。命令は出来なくなるが、自我を持たせてしまっていいならのみサイズでも作れると思うがね」

『上出来だ。自分の意思で動くのみサイズの分裂をまんことケツにも仕込んで暴れさせてやれ。な~に、二日三日続けば十分な焦らしになるだろ』

 正気かね……?
 そんなことが焦らしになるような女ではないだろう……。
 童貞かどうかを心底疑ってしまうねぇ。

『――今日は好きにやれ。明日からアドバイスをくれてやる』
 
 偉そうな口調で言われたが、童貞から教わることは何も無いよ。そんな温いやり方で堕とせる女なら苦労など無い。
 思っても口にはせずに、樽男は翔子が無防備にぐったりしているうちにトドメを刺すべく、翔子の着衣を剥いで、全身を舐め回していくのであった。
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