14 / 60
異変。
しおりを挟む「……おかしいですね?」
酉と分かれた後、栄養を補給しに食事処まで行くと、調理場へ入る為の扉の前で午が不思議そうに首を傾げていた。 下の方で結んだ緩やかな金髪がさらりと揺れる。
憂いを帯びたその王子様のような顔に、こっそりと下級戦闘員達から溜息を吐かれているが、気付いた様子は無かった。
「どうした?」
申は卯から離れ、午の側に寄る。 この後を私は何をするのだろうか、と卯は申に聞きそびれてしまった。
「妖精の国から送られてくる食料の量が少ないんです」
「書類とかに不備は?」
興味深げに聞く申の言葉に
「生憎、無いんですよね……」
午は非常に残念そうに答える。 そしてその周囲はほぅ、と溜息を吐く。
卯は、確かに『仮の面』の上位幹部の中で飛び抜けて綺麗な顔立ちをしているな、とぼんやり午の顔を見ながら思っていた。 が、別段、卯の好みの顔という訳ではなかったので、だだ綺麗な景色を見ているような気分だった。
「上位幹部達には問題は無いのですが……」
下位の戦闘員達には、栄養バランスの整った食事が必要なのですよ。 と午は項垂れる。 周囲達は、「気遣ってもらえてるなんて!」と感激しているようで、手を胸の前で組み、幸せそうな様子だ。
「妖精の国で、何かあったのでしょうか」
「……どうだろうなぁ」
少し考え、申は言う。 何か、心当たりがあるのかもしれない。 因みに卯は見事に次の予定を聞くタイミングを逃してしまったようだ。
「酉や子にでも調べて貰うか?」
「そうですね。 是非そうして頂きたいです」
午がその提案に同意した所で、
「なあ卯、今日はもう何もする事はないから、自由にしても良いんだぜ」
ようやく、そこで立ち尽くしている卯に気が付いた申は声を掛ける。 それをもう少し早めに言って欲しかった。
×
自由になった卯は、とりあえず食事処内部に入り、『草』を食べることにした。 フレッシュな食感と、フルーティな風味が気に入ったのだ。
一口齧ればしゃく、と小気味の良い音がする。 口いっぱいに広がる風味は、葉っぱそれぞれによって微妙に違う。 今回の『草』は、蜜柑と桃を合わせたような風味のするものだった。
「……おいしい」
溢れる果汁(葉の汁)に舌鼓を打っていると
「だよね~」
いつのまにか側に座っていた未が、ゆったりと同意をした。
ふわふわの癖のある毛が未自身と同じように、ゆったり揺れる。
未はいつも眠そうな喋り方で、とても眠そうに行動をする。 あまりにも眠かったらしく、壁に寄っ掛かりながら移動する姿を最近目撃した。
最上位幹部達はこんなにも目立つ存在だというのに、どうして今までその存在に気がつけなかったのだろうか。 かなり不思議だ。
時折共に行動する申曰く、
「アイツは本当に寝てるんだよ」
とのことだった。
それならば、未が起きるとどうなるのだろうか。 それについて訊こうとすると申は言葉を濁し、目を逸らし、一切教えてくれなかった。
「でもね~、なんだかこの『草』、『しばらく手に入りそうにない』って、午くんが言ってたんだよ、ね~」
しょぼ、と可愛らしい羊のような耳が残念そうに下がる。
「う~ん、残念だなぁ~」
しゃむしゃむ、『草』を食みながら未は唸っていた。
しゃくしゃく、しゃむしゃむ。
2人の、『草』を食む音が響く。
×
「お前らいつまで『草』食ってんだよ」
信じられない物を見た、と言いたげな顔の申が来るまで、卯と未は一心不乱に『草』を貪っていたらしい。
「わぁ~、申くんだぁ~」
食んでいる『草』をそのままに、未は申に飛びかかる。
「やめろ! 寄ってくんな、重い!」
申のその悲鳴は少し失礼な気がした卯だった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる