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三年目

124:かいじゅう。

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 話によると、お守りを入れていた鞄を忘れて取りに行こうとした際に、アザレアは足と腕を姿のない『何者か』に掴まれ、どこかに引きずり込まれそうになっていたらしい。
 そこへ鞄を届けに来たその3こと覚醒者が、アザレアを押し退け、そのまま手に捕まって消えたのだと。

「は、何故わたくしが」

 至極冷たい声色でフォラクスは問いかける。

の様な瑣末さまつなど、他の軍人や魔術師、警備、警邏の者に頼む方が道理にかなっているのでは」

『ん……きみ、わたしを探せるでしょ? だから、見つけてくれるかなって……』

れに、自業自得でしょう」
『う゛、』

 確かに軍人に頼む方が通常なら正しいと思い直したのか、彼女の言葉は尻すぼみになった。そして、元々の要因はアザレアにあり、それをかばい身代わりになったのは覚醒者自身の責任だと告げる。それ以外に言いようがない。

「私は貴女の婚約者で御座います。なので、『貴女が』行方知れずとなれば探すのはやぶさかでは有りませぬ」

そう告げた後、

「ですが。の姿を消した方は私の身内でも貴女の直接の身内でも何でも御座いませんので、探す道理が無いのです」

 「私に頼り過ぎなのでは」と、フォラクスは問いかける。

『……たしかに、きみに頼りすぎてたみたいだ。……勝手な事を言ってごめんなさい』

 アザレアは沈んだ声で謝った。どうやら心底反省しているらしい。

「御理解を頂けたようで何よりです」

 ここで更に「そんな御託は良いから助けてあげて」なんて言われたら別の呪いでもかけてやろうかとフォラクスは考えていた。助けられないことを嫌がるわけでなく、できれば起こらないで欲しいと願う、引き際をわきまえている思考は悪くない。

『でも、人が一人いなくなったのを“さまつごと”なんて言葉で片付けないでくれるかな?』

「……嗚呼、失礼致しました」

 かつてない強い語気に、それが彼女の譲れない部分なのだと理解した。他者を不要に無碍にするのは良しとしないらしい。

『ん。わかってくれたならいいの』

れで。私に断られた場合、貴女は如何いかがなさるので?」

 最善だと思った案が却下された際の彼女の行動について、フォラクスは問う。すると

『んー……外に出て探し回りたいのが本音なんだけど、絶対ダメだろうから、行方不明者の捜索隊の人に連絡して大人しく待っとく』

と、不承不承ながらも彼女はそう答えた。

「宜しい。……し『探しに行く』等との戯言を申して居れば、拘束の呪いを掛けるところでした」

『なんか物騒……』

「明日にはどうせ見つかります。の様な結果であれ」

困惑するアザレアをフォラクスは諭す。

『うん。……見つかるといいな』

「然様ですか」

『……落ち着かないから寝る。おやすみ』

「ええ。御休みなさいませ」

 連絡を切ったフォラクスは、机に拡げていた卜占ぼくせんの道具を片付ける。
 目的の対象を見つけたからだ。

×

さての辺りでしょうか」

 深夜、フォラクスは人気のない山に足を踏み入れる。
 何か黒い塊を内包した、冷たい風が横をすり抜けて行った。

「(……嗚呼、本当に)」

面倒だと、絆されてしまったと、溜息を吐く。
 自ら、『誰かのため』に行動をなど、と。
 フォラクスは、行方不明になった覚醒者の行方の捜索を行なっていた。
 彼女の性格を考慮すると、覚醒者が居なくなったのならば責任を感じ、『自分のせいでいなくなってしまった』と、しばらくの間
 それが、嫌だった。
 子供の我儘のような理由だったが、そう自身で感じたのだから仕方がない。
 元々、もしもの可能性を考え予め探し物のまじないを行えるよう、準備をしていた。アザレアが連絡を入れた時点で既に術を発動させ、覚醒者の捜索を開始していたのだ。
 そしてようやく、居場所の大まかな見当がついた。

「(いやはや。の捜索を行う羽目になるとは)」

 顔を動かさず、視線だけで闇夜に沈む周囲を見渡す。
 以前から、この日の行方不明者やその捜索について、様々な研究が行われていた。
 フォラクスは、屋敷内や王都中に有る魔術書や研究報告書、資料、果てには呪猫フェレスの書物庫の書籍などを式神を駆使して目を通し、『神隠し』から帰還した者の記録やその類似案件、召喚術式、儀式を見つけ出した。
 見つけ出したそれらを、フォラクスは自身の使える形式にまで落とし込み、式を組み上げ、発動させ、ようやく居場所を見つけたのだ。

「実に、面倒でしたね」

 ここまで必死に動いたのは久しぶりだと、小さく溜息を吐いた。
 誘いの魔獣であろう黒い風は、成人の魂や取れない魂には興味を示さない。だから、誘いの魔獣達はフォラクスには目もくれずに通り過ぎて行く。
 また、彼らは転生者や転移者の魂は好まない。
 、彼はここまで無傷で来られたのだろう、と、フォラクスは後ろを振り向く。

「……ところで。何か御用でしょうか『勇者殿』」

 暗闇の中に、朝日のように煌めく瞳の少年が立っていた。
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