上 下
51 / 200
二年目

51:新たしい変化。

しおりを挟む
 夏休みが明け、第五学年が始まる。
 周囲に視線を向ければ高く伸びあがった雲の姿はなく色づき始めた草々が目に付き、うっすらと秋の気配を感じた。
 だけれど、アザレアにとってはただ学年が上がって授業の難易度が変わるだけで、何も変わっていない学校生活が繰り返されるだけだ。
 去年は……、相性結婚の相手との顔合わせがあった。

「……そういえば、もう一年経つんだ」

 呟いて、あの氷像のような婚約者を思い出す。いまだに、まともな交流をした記憶は薄いけど。
 でも、思いの外に短い一年だったような気がする。

×

 秋の中旬。大体の学生が新しいクラスや授業に慣れ始めた頃に、軍部、城勤の魔術師達が視察にやって来た。

「――ということで。例年と同じように、しばらく卒業生の方々が視察で来ています。失礼の無いように」

 授業の冒頭で、共通科目の基本魔術応用Ⅲの教師は学生達に告げる。

 無意識に、アザレアは視察の魔術師達の中に自身の婚約者がいないか視線を巡らせる。

「(…………そっか、普通に考えて一年くらいしか来ないんだ)」

 やはり、というか当たり前に、婚約者の姿は無かった。

×

 夏の暑さが引き始め時折乾いた風の吹く薬草園で、アザレアはもくもくと薬草弁当を食べる。人通りは滅多になく、独りぼっちだ。
 当たり前の話だが、ゆっくり食べていてもフォラクスが現れることは無い。
 1週間過ごしても、視察者の姿は見かけるが彼は来ない。

「…………あれ」

 口に運んだ食器には、食べ物がなかった。
 いつのまにか、お弁当を完食していたらしい。

 実習の薬草採りで、魔術師コースのアカデミー生達や先生、視察者達と一緒になっても、彼の姿を見ることはなかった。

「(……そうだよね。あの人は先生じゃなくて、視察で来ていただけの部外者……)」

 ころり、と自室のベッドの上で寝返りを打った。
 なんだかぽっかりと穴が空いたかのような喪失感に、もう一度寝返りを打った。

×

 学年初めにあったテストは、去年の終わりにフォラクスからもらった復習テストのおかげで、好成績を保ったままだった。

「(うん。やっぱり、あの人が自分で言っていた通りに『入学した時から卒業までずっと満点だった』ってのは、本当なのかも)」

 彼が作った復習テストは基礎的な問題、少し捻った問題、現実でありそうな応用を利かせた問題、かなり捻くれた意地の悪い問題など、まさに『総当たりでヤマを当てていく』スタイルだった。

「(あんなに努力してたんなら、取れるのは当たり前だよね)」

 おまけに魔術操作や体術など、座学だけでなく実践でも満点を取った、というのはつまり。

「(……習ったそれを完璧にこなすのは基本として、後は試験監督の先生が満足するようなもしたってことなんだよなぁ)」

 なぜ、そこまでして満点を取りたかったのかは不明だが。

「(すごいんだな、やっぱり。……お仕事も、宮廷魔術師だし)」

 宮廷魔術師という職業も、魔術社会では重要で就くにはかなり難関なものだと聞く。

「(……普通だったら、全く関わらないような人だな)」

 制度のおかげで出会った人。

 ころり、と再び寝返りを打つと、壁に貼った行事予定表が目に入った。
 もうすぐ、中間テストが始まる。それが終われば、学芸祭と虚霊祭があって、テストを挟んで冬休みだ。

「……」

 アザレアはぼんやりと、予定表を眺め

「…………」

 そっと、連絡用の端末に入った新しい番号を押した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

機械娘として転移してしまった!

ジャン・幸田
SF
 わたしの名前、あれ忘れてしまった。覚えているのはワープ宇宙船に乗っていただけなのにワープの失敗で、身体がガイノイドになってしまったの!  それで、元の世界に戻りたいのに・・・地球に行く方法はないですか、そこのあなた! 聞いているのよ! 教えてちょうだい!

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

【完結】愛していました、でも愛されてはいませんでした。

たろ
恋愛
政略結婚でライアンに嫁いだけど、わたしは彼の愛する人の代わりに抱かれているだけ。 彼は愛する人と結婚できなかったから…… だったらわたしは子どもを産むという仕事だけしたら、離縁しようと決意した。 妊娠したと気づいたら、子どもを捨てて離縁するなんて考えられなくなり、夫を捨てて子供と二人で生きていこうと決心しました。 なのに殿下の愛妾になる話が…… わたしはこの子から離れるなんて嫌なんです。 ★かなり主人公は拗らせて頑なです ★いつものように設定は曖昧です

【R18】ハーフヴァンパイアは虚弱義妹を逃がさない ~虚弱体質の元貴族令嬢は義兄の執着愛に囚われる~

べらる@R18アカ
恋愛
 ヤンデレ風味のヒーロー二人から執着深く溺愛されて一番最後にはハッピーエンドを迎えるお話です。 【あらすじ】  魔物狩りを専門に行う名家・ハッシュフード家の生き残りであるユフィは、美貌の義兄アゼルと一緒に狭い借家で細々と暮らしていた。  そんなある日、眉目秀麗でお金持ち貴族の次期当主・ランブルト・ホイットニーから結婚を前提とした交際を申し込まれる。虚弱体質のため一日三時間しか働けないユフィは、結婚すれば義兄にラクをさせられるのではないかと考えたのだけれど……? 「ダメだ。俺は認めないよ」「君の体は他人と違う」「ダメって言ったらダメ」  過保護で心配性の義兄に強く反対され、諦めることにしたユフィだったが、後日ランブルト本人が「義兄の秘密と知っている」と直接会いにやってくる。    話を聞いている途中で倒れてしまい、場の流れでランブルトから魔力を貰う事になってしまう。  だがその様子を義兄に見られていて──   「魔力が欲しいのなら俺にして」  家に帰るやいなや、異常な執着心で迫られ、挙句にはベッドに連れていかれてしまい……?  少し気弱なヒロインとハーフヴァンパイアの義兄と、虎視眈々とヒロインを狙うもう一人のヒーローの物語。 【※R18※エロ多めでストーリーが進みます】 ※第一話の冒頭からR18シーンに入ります ※ヒーロー二人にそれぞれ本番行為あり ※キスを含めた性描写に(*)マーク付け ※基本的に強引かつエロ多めかつ激しめかつ長くしつこくねちっこい ※吸血シーン等の流血描写がたまに ※完結済

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

【電書化により作品引き上げ】貧乏令嬢は婚約者への最初で最後の贈り物を婚約解消に決めた

キムラましゅろう
恋愛
アネットは両親の死後、名ばかりの女性男爵となった。 借金は全てを売ってほとんど相殺となったが、爪に火を灯すような貧しい暮らしを余儀なくされていた。 そんな中、アネットに縁談話が持ち込まれる。 相手は平民だが魔法省高官の超エリート。 平民ゆえの軋轢を回避するために、名ばかりでも男爵位を持つアネットに白羽の矢が立ったのだ。 見合い相手のトリスタンは札束で鼻をかめると揶揄されるほどの金持ち。 だがその性格はかなり難ありで……? いつもながらの完全ご都合主義。 ノーリアリティノークオリティなお話です。 あー……誤字脱字?うん、ごめんね?<(_ _*)>ペコリ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

カップル奴隷

MM
エッセイ・ノンフィクション
大好き彼女を寝取られ、カップル奴隷に落ちたサトシ。 プライドをズタズタにされどこまでも落ちてきく。。

Mな生活

ちくたく
恋愛
S彼女とのプレイでMとして成長する物語です。

処理中です...