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一年目

48:因果の応報。

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「おっしゃできたーっ!」

 と、アザレアは自室で拳を握った。

「うーん、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ……」

うっとり言いながら、茶色い小瓶に蓋をする。
 アザレアが生成したそれは、この間に採りにいった薬草をふんだんに使った、毛枯剤だ。

「薬を全部使いきったら間違いなく、つるぴかりんだよ!」

 薬をかけた直後に毛が抜ければ、間違いなく現行犯で捕まえられてしまう。だから、色々な薬草を組み合わせて大体半月後くらいに一気に抜けるように調整した。

「ふふふ、覚悟しておけ……」

とアザレアは笑う。顔知らないけれど。

×

 アザレアは薬が出来たむねを友人A、友人B、その2に伝えた。

「でも、どうやって仕掛けに行くのよ。仮に行けたとしてもばれないように薬をかけるなんて……」

 友人Aは少し呆れ気味にアザレアに問いかける。

「ん。そこはだいじょーぶ!」

アザレアはグッと親指を立てる。

「……嫌な予感しかしねーぜ」

 それを見て友人Bが呟き、

「口調、乱れてるって言ってるでしょう」

と、友人Aが友人Bの頬をつねった。

×

「……ということで、手伝って!」
「…………何故ですか」

 とある昼休み、薬草園でアザレアはフォラクスに頼み込んだ。
 薬草園のベンチの端に座るフォラクスは普段のように冷たい顔で、同じく反対の端に座るアザレアが手渡した小瓶を見つめる。

「だって。きみは宮廷魔術師だから、その人に会えるかもって思ったんだ。それに、わたしが『新人メイドでーす』って入って仕掛けたら圧倒的に怪しくなっちゃうじゃん」

 口を尖らせ、アザレアはつまらなそうに足をぱたぱたとゆっくり動かす。

「然様ですか」

その様子を見ながら、フォラクスは短く溜息を吐いた。

「……れで。の薬品の効果は。れと私には何か利益がありますか」
「うっ……」

 じろ、と視線を向けたフォラクスにアザレアはたじろぐ。

「うーーーん……効果、は『その人の魔力に反応する』ってやつ……で、……きみには…………利益……は、ないかも……?」

「…………然様ですか。……では」

とフォラクスは、うんうんとうなるアザレアの方に少し詰め寄り、

「ん、なに?」

その顎に手を滑らせ、視線を合わせるようにする。

「にゃに?」

 きょとんとした顔のまま、アザレアが見つめ返すと

「『私の言う事を何でも一つ聞く』というのは如何いかがでしょう」

目を細め、フォラクスは提案をする。

「……と、まあ。れは冗だ「うん、いいよ!」……本気ですか」

「うん。まずこの状態が『わたしの言うことを聞かせている』ような状況だし」

 アザレアはにこにこと笑顔でそう答えた。

「……まあ」

視線を少し巡らせたのち、

「……折角の婚約者の頼みです。如何どうにか致しましょう」

と、フォラクスは小瓶を懐に入れる。

「ありがと! とりあえず、液体がその人の近くにある状態だったらなんでもいいよ! 飲むとか、かけるとか」

「そうですか」

「えへへ、これで共犯だねー」

「……そうですね」

 そして、フォラクスはなんかうまい感じに御守りにその薬を全て注ぎ込み、それを「とてもよく効く御守りです」と手渡して枕に仕込んでもらい無事に効果を発揮し切った。

※ちなみに薬を渡した後はもうそのおっさんの事を微塵も覚えていない。

×

『……先日、とある男爵の方が不可解なほどに……なんとまあ。アレになったそれが……『薬術の魔女』が原因らしいと、言う話だそうだ』

「然様ですか」

 普段通りに宮廷で仕事を片付けていると、フォラクス肩に遣いの式神が現れ告げた。困っているような、困惑しているような声色だ。
 少し心当たりのある話だったが、色々と手を加えておいたのでフォラクスも関与しているとは疑い辛い状況にはなっているはずだ。なので心配はしていない。

「……とどまりは?」

 作業を続けたまま、フォラクスは式神の向こうの者へ言葉の続きを促す。

『“薬術の魔女の監視はもう少し厳重にしろ”と言う話となった』

「……何も変わらないのでは」

 見ていても、見ていなくとも、アザレアは周囲や環境に関係無くやる時はやる。監視の目をすり抜け、行動を完遂してしまう。監視員の方ではそういう認識になっていた。

『そうだな。とりあえず、来年以降の監視は別の者にさせるつもりだが……』

 少し言いよどみ、式神の向こうの者はフォラクスに伺うように言葉をかける。

『お前、薬術の魔女と婚約関係なんだろう? もう少し干渉や交渉などはできないのか』

「……難しい話ですね。私は彼女とはあまり干渉し合わないと約束をしておりますので」

 普段通り、フォラクスは感情の起伏の薄い声で答えた。ただ、『その話は面倒だ』『無駄な話は不要だろう』と言いた気な感情だけが言葉に乗っている。

『冷たいな』

「そうでしょうか。制度や約束で決まった婚約とはの様なものだと思いますが」

『まあ良い。婚約者となった関係上、お前が薬術の魔女の監視役を事は決まった。それで良いか』

「貴方が決めた事に口出しは致しませぬ」

『そうか』

 返答を聞き用事の済んだ式神は燃え上がり、消えた。

×

 『外されるまで監視を続ける』とはつまり、解任の命令が下されるまで彼女の命がある限りは監視を続けろという事だ。
 遠回しに『そのまま結婚し監視を続けろ』と言われたことになる。

「……(……まあ、婚約せずとも監視はできますが……)」

 その状態を少し、考えてみる。

「(…………元婚約者が、別の者と共に居る様子を死ぬまで見守る事に……)」

 それはとてもいやなことのように思えた。
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