15 / 29
地上の星観察記
しおりを挟む「元気だねぇ」
いくら初夏とはいえ風邪をひかないか心配になるが、まぁソレも各々で何とかするだろう。
晃心と世良で二人仲良く計画した屋上での星空鑑賞会は初っ端から挫折した。
正確に流れで示すと風紀室での聴取のあと、気丈に振舞う榛葉の手に巻かれていた包帯を気にしながら生徒会室で役員の仕事を粗方片づけて、待ち合わせをして向かった目的地には先客が居た。彼らが楽しく致しているその横で楽しく鑑賞だなんてできるはずもない。深夜にオタノシミするならば部屋にしろ。それでなくとも、夜間に世良を引っ張りまわしているのだから、とっとと終わらせたいのに。
「どうする?」
普段の制服とはまた違い、パーカーを羽織ってかわいらしく小首を傾げる世良を抱きしめたくなるが自重する。今は姿がないとしても、彼の恋人に抹殺される。一応でも命は惜しい。それでなくとも仕事が滞る。
「田所くんの部屋で聞こえていたなら、他の部屋でも同じだと思う」
それでなくとも投書で何通も来ていたので、条件は変わらないだろう。しかし、真夜中にお邪魔しても大丈夫な友人など居ないぞ。ちなみに先ほど別れた大倉の部屋はそちら側に面していないし、今回の件は彼の耳に入れていない。原因究明ができたら、もしくは晃心がやれるところまでやってから引導を渡したい。できれば彼には余計な労力を使わせたくないという、自己満足なところであるが。
「……あ、C棟に潜り込んで──」
「駄目」
思いついた案は皆まで言う前に問答無用で却下される。
寮とは別に、AからCまで校舎の棟がありそれぞれの機能に分けられている。そのC棟は中でも新しい施設で、特進クラスと生徒会室や風紀室など学園中心部が主に占めている。ちなみに晃心のクラスはA棟である。
セキュリティがかかっているので、窓からも寮からも出る事は不可能。本当に面倒臭い。日を改めるか?
「外に出る事はもう無理だし……給水タンクは?」
「……」
「よし、行こう」
相手からの否定がないのをいい事に、晃心は再び屋上を目指した。
「……蜂って、コレ?」
「聞こえなくもないけど」
半信半疑で二人で首を傾げながら、晃心は双眼鏡を覗き込んだ。
防音・冷暖房完備もある程度にしないと問題だ。ちなみに窓ガラスはUVカットで、お肌の荒れを気にする子犬たちの紫外線対策の要望にもバッチリと応えている。本当に無駄なことしかしない。
室内では全く気にならない音も、室外では大変な轟音だった。バイクの奏でる音は、蜂の羽音だなんてそんな可愛らしいものではなかった。
「三十くらい?」
「それ以上ありそうかな」
暗いし遠目なので正確な数は判断できないが、たぶん単車を転がす数は意外と多そうだ。
「なんで気付かないのかな?」
「防音利いてるからじゃない?」
手にしている双眼鏡を渡そうとしたら、いらないと首を振られる。そういえば、世良は見た目のパッチリお目めを裏切らず視力が良かったと思い出す。
相手に疑問に返事をしながら、晃心は別の思考に浸かる。
この時間帯ならば用務員の鈴木さん夫妻はとっくに就寝しているし、基本的に生徒も寝ている。気付くのは遅れるだろう。それこそ、先ほど屋上でコトを致していた人たちのように夜更かしでもしていなければ。
そして、問題は何故ココで集会を開いているのか。
以前空き教室で会計隊長を巻き込んで押し問答した先輩・矢島たちのチームは少数人数であるはずなので、あそこで騒ぎ立てている輩ではないだろう。それでなくとも、相当な緊急性でもない限り学園近くで集まる利点はない。それとも、彼らに対する対抗グループか? それならば他所でやってくれ。大変迷惑だ。
「晃心?」
「何でもないよ。中に入ろう」
指を口に押し当てたまま黙った自分を訝しがったらしい相手に提案するが、服の裾をつかまれて阻まれる。
「晃心。」
「大丈夫だよ、危ないことはしない」
必要性がない限り。
心の中で付け足して微笑んだ。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる