伏魔殿の静寂

あづま永尋

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地上の星観察記

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「元気だねぇ」
 いくら初夏とはいえ風邪をひかないか心配になるが、まぁソレも各々で何とかするだろう。
 晃心と世良で二人仲良く計画した屋上での星空鑑賞会は初っ端から挫折ざせつした。
 正確に流れで示すと風紀室での聴取のあと、気丈に振舞う榛葉の手に巻かれていた包帯を気にしながら生徒会室で役員の仕事を粗方片づけて、待ち合わせをして向かった目的地には先客が居た。彼らが楽しく致しているその横で楽しく鑑賞だなんてできるはずもない。深夜にオタノシミするならば部屋にしろ。それでなくとも、夜間に世良を引っ張りまわしているのだから、とっとと終わらせたいのに。
「どうする?」
 普段の制服とはまた違い、パーカーを羽織ってかわいらしく小首を傾げる世良を抱きしめたくなるが自重する。今は姿がないとしても、彼の恋人に抹殺される。一応でも命は惜しい。それでなくとも仕事が滞る。
田所たどころくんの部屋で聞こえていたなら、他の部屋でも同じだと思う」
 それでなくとも投書で何通も来ていたので、条件は変わらないだろう。しかし、真夜中にお邪魔しても大丈夫な友人など居ないぞ。ちなみに先ほど別れた大倉の部屋はそちら側に面していないし、今回の件は彼の耳に入れていない。原因究明ができたら、もしくは晃心がやれるところまでやってから引導を渡したい。できれば彼には余計な労力を使わせたくないという、自己満足なところであるが。
「……あ、C棟に潜り込んで──」
「駄目」
 思いついた案はみなまで言う前に問答無用で却下される。
 寮とは別に、AからCまで校舎の棟がありそれぞれの機能に分けられている。そのC棟は中でも新しい施設で、特進クラスと生徒会室や風紀室など学園中心部が主に占めている。ちなみに晃心のクラスはA棟である。
 セキュリティがかかっているので、窓からも寮からも出る事は不可能。本当に面倒臭い。日を改めるか?
「外に出る事はもう無理だし……給水タンクは?」
「……」
「よし、行こう」
 相手からの否定がないのをいい事に、晃心は再び屋上を目指した。



「……蜂って、コレ?」
「聞こえなくもないけど」
 半信半疑で二人で首を傾げながら、晃心は双眼鏡を覗き込んだ。
 防音・冷暖房完備もある程度にしないと問題だ。ちなみに窓ガラスはUVカットで、お肌の荒れを気にする子犬たちの紫外線対策の要望にもバッチリと応えている。本当に無駄なことしかしない。
 室内では全く気にならない音も、室外では大変な轟音ごうおんだった。バイクの奏でる音は、蜂の羽音だなんてそんな可愛らしいものではなかった。
「三十くらい?」
「それ以上ありそうかな」
 暗いし遠目なので正確な数は判断できないが、たぶん単車を転がす数は意外と多そうだ。
「なんで気付かないのかな?」
「防音利いてるからじゃない?」
 手にしている双眼鏡を渡そうとしたら、いらないと首を振られる。そういえば、世良は見た目のパッチリお目めを裏切らず視力が良かったと思い出す。
 相手に疑問に返事をしながら、晃心は別の思考に浸かる。
 この時間帯ならば用務員の鈴木さん夫妻はとっくに就寝しているし、基本的に生徒も寝ている。気付くのは遅れるだろう。それこそ、先ほど屋上でコトを致していた人たちのように夜更かしでもしていなければ。
 そして、問題は何故ココで集会を開いているのか。
 以前空き教室で会計隊長を巻き込んで押し問答した先輩・矢島やじまたちのチームは少数人数であるはずなので、あそこで騒ぎ立てている輩ではないだろう。それでなくとも、相当な緊急性でもない限り学園近くで集まる利点はない。それとも、彼らに対する対抗グループか? それならば他所でやってくれ。大変迷惑だ。
「晃心?」
「何でもないよ。中に入ろう」
 指を口に押し当てたまま黙った自分を訝しがったらしい相手に提案するが、服の裾をつかまれて阻まれる。
「晃心。」
「大丈夫だよ、危ないことはしない」
 必要性がない限り。
 心の中で付け足して微笑んだ。


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