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不真面目な生徒、不真面目な教師
しおりを挟む「あー……じゃあ、木谷」
「はい?」
呼ばれて、晃心は机の上から視線を教卓へ向けた。
「コレの問3やれ」
残念。あと一行でこの書類終わるのに。
仕方なしに生徒会の文書を数学の問題集でコッソリと隠して、無精ひげを生やし頭ボサボサで白衣着用の教師の元へ進み出る。科目と出で立ちが合っていないのは、彼の趣味が実験なのと、着替えをするのが面倒な不精なのと、同僚を差し置いて化学部の顧問をしているからだ。ちなみに何を間違ったか、晃心の食えない担任である。
「んー……」
置かれているマジックを手の内で揺らし、はじめましての問題にしばし対峙した晃心は書き始めた。答えを。
「待て。過程も書け」
しまった。眠かったから、忘れてスッ飛ばした。
寮に書類を持ち帰って朝方までにらめっこしていたら、まったく頭が働いていなかった。今も授業の傍ら作成しているのであるが。
「すみませぇん」
「……気色悪い。」
お茶目は通じず、心底いやそうな顔をされる。現生徒会副会長の親衛隊隊長の笑顔にケチをつけるとは。
キュキュ。
他の生徒にも思考過程が解りやすいようムダに長い公式に当てはめながら、ホワイトボードを半ばまで書ききった晃心はシンナーのニオイの元を閉じた。こんなものか。
「お前の優秀さは知っているが、程ほどにしないと倒れるぞ」
学園内の総てを任されている生徒会が機能していないとなっても、基本的には教師は表立って手を出さないのがココの方針。向上するのも倒れるのも、生徒の自主性を育てる目的である。
隣で解答を示しながら耳元で呟かれる心配に、思わず顔が緩みそうになる。
公にされていないが、この担任の親しい同僚に生徒会顧問が居る。生徒会の仕事は副会長と彼の恋人と自分と三人で手分けして行っており、以前は幼馴染の気分転換のために時々文書の提出をお願いしていたのだが、彼の癒しである恋人が生徒会室に居るのならばその必要はない。近頃は晃心が率先して走っているのだが、提出先には顧問であったり部活であったり委員会であったりするので、もしかしたらソコで気付かれているのかもしれない。公私混同しない幼馴染とその恋人との空間に居づらいわけではないのだが、関係性を知っている以上ある程度の配慮は必要であろう。おとなしく馬に蹴られる趣味はない。
まぁ、一番背負っているモノが大きいのは、現在幼馴染であるがやっぱりうれしいことに変わりない。陰の活動を知ってくれているその事実だけでも。
「……どうも。」
素っ気無く返して、晃心は未処理の文書が残る席に戻った。
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