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2話「断片の笑顔」
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…結局、十紀先生から何も訊きだす事はできなかった。
だけど、私がここに来たせいで…この集落で何かが起こってしまったのかもしれない。
それだけは、あの女の子とお菓子を持った青年の持っていた狂気でわかった……
(だけど、一体何だろう……私、知らない内に何をやってしまったの…?)
ぼんやりと窓の外を眺めていたら、雲ひとつない青空が広がっている。
外からは、遊んでいる子供達の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
……そして、私のお腹も音を鳴らした。
(朝食、食べてなかったから…お腹、空いちゃったのかな……?)
その時、扉をノックする音がして…水城さんが、ごはんをのせたトレイを持って入ってきた。
「真那ちゃん、遅くなってごめんね…お昼ご飯持ってきたよ」
そう言って、水城さんは病室にあるテーブルに置いてくれた。
トレイにはお茶とご飯とお味噌汁と野菜炒めが並べられていて、とても美味しそう。
…そう思った途端、私のお腹がまた鳴ってしまった。
恥ずかしくて、私はお腹をおさえながら笑うしかなかった……
「ふふっ、気にしない気にしない。お腹が鳴るのは、健康の証…ってね!」
水城さんは「よければ、おかわりもあるからね」と言って、部屋を出ていった。
私は用意されたごはんを前に、手を合わせてから食べる事にしたんだ。
***
食事を終えた後、私は食器をのせたトレイを水城さんに渡そうと医院の廊下を歩いていた。
何処に置いておけばいいのか、予め聞いておけばよかったな……
(水城さん…何処だろう?)
首をかしげながら廊下に貼りだされている案内図を眺めていると、突然後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには青い髪の女性が微笑みながら首をかしげて立っていた。
「どうされたのかしら…?」
「ぇ、えっと…」
最初この女性は医院の看護師さんかと思ったけど、すぐにそれは違うと気づく。
だって、すごいひらひらとしたドレスを着ていたから……どう考えても、看護師さんではないよね。
私が何も答えられずにいると、彼女は何かに気づいたような表情をした。
そして、スカートを広げて頭を下げる。
「わたくし…希琉、と申しますの。この集落の、里長の娘ですわ」
「私は、真那加です。よろしくお願いします…ぁ」
私も慌てて頭を下げたら、トレイにのせていた食器が反動で落ちてしまった。
食器はプラスチックだったから割れずに済んだけど、すごい音が廊下に響き渡ってしまう……
私が慌てて拾っていると、希琉さんも拾うのを手伝ってくれた。
「すみません…ありがとうございます!」
「いいえ、次からはお気をつけなさいな…ところで、貴女――」
希琉さんは真面目な表情をして、私に訊ねる。
「…お菓子を持った男を見ませんでした?小太りだから、かなり目立つと思うのですけど」
お菓子を持った人…といえば、外であったあの人の事だよね。
私が外で会った事を教えると、ため息をついた希琉さんは口を開く。
「あの男、わたくしの頼んだ事を何もせずに屋敷から逃げ出したんですのよ…てっきり、ここにいるのだと思ってましたけど」
「はぁ…そうなんですか」
希琉さん……なんだか怒っているようで、笑っていても目がまったく笑っていないよぅ。
この状況に私が困っていると、誰かが慌てて走ってくる足音が廊下に響き渡った。
走ってやって来たのは、十紀先生だった。
「…何をやっている!希琉、誰が病室の方に上がっていいと言った?」
「あら、十紀先生…そんなに慌ててどうされましたの?わたくしは、鳴戸が彼女に会いに来ているのでは…と考えて、ここにお邪魔しましたのよ」
そう答えると、希琉さんは頭を下げてそのまま帰ってしまった。
そして、残されたのは私と十紀先生だけ……
「…大丈夫だったか?」
「えっと…はい」
十紀先生が心配そうに私を見ているので、びっくりしながらも頷いて答える。
でも、どうして慌てて駆けつけてくれたのかが気になって…私は、思い切って訊ねてみた。
「あの、十紀先生…どうされたんですか?先ほどの方…希琉さんとお知り合いですか?」
「あぁ。詳しい話は、私の部屋でしよう……」
そう言うと、十紀先生は私からトレイを取って近くの棚に置く。
私が「いいんですか?」と訊ねると、十紀先生は「もう少ししたら、他の患者の食器を下げに水城が来るからいい」と答えた。
いいのかな、と思いながら私は十紀先生について行くしかなかった……
***
だけど、私がここに来たせいで…この集落で何かが起こってしまったのかもしれない。
それだけは、あの女の子とお菓子を持った青年の持っていた狂気でわかった……
(だけど、一体何だろう……私、知らない内に何をやってしまったの…?)
ぼんやりと窓の外を眺めていたら、雲ひとつない青空が広がっている。
外からは、遊んでいる子供達の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
……そして、私のお腹も音を鳴らした。
(朝食、食べてなかったから…お腹、空いちゃったのかな……?)
その時、扉をノックする音がして…水城さんが、ごはんをのせたトレイを持って入ってきた。
「真那ちゃん、遅くなってごめんね…お昼ご飯持ってきたよ」
そう言って、水城さんは病室にあるテーブルに置いてくれた。
トレイにはお茶とご飯とお味噌汁と野菜炒めが並べられていて、とても美味しそう。
…そう思った途端、私のお腹がまた鳴ってしまった。
恥ずかしくて、私はお腹をおさえながら笑うしかなかった……
「ふふっ、気にしない気にしない。お腹が鳴るのは、健康の証…ってね!」
水城さんは「よければ、おかわりもあるからね」と言って、部屋を出ていった。
私は用意されたごはんを前に、手を合わせてから食べる事にしたんだ。
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食事を終えた後、私は食器をのせたトレイを水城さんに渡そうと医院の廊下を歩いていた。
何処に置いておけばいいのか、予め聞いておけばよかったな……
(水城さん…何処だろう?)
首をかしげながら廊下に貼りだされている案内図を眺めていると、突然後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには青い髪の女性が微笑みながら首をかしげて立っていた。
「どうされたのかしら…?」
「ぇ、えっと…」
最初この女性は医院の看護師さんかと思ったけど、すぐにそれは違うと気づく。
だって、すごいひらひらとしたドレスを着ていたから……どう考えても、看護師さんではないよね。
私が何も答えられずにいると、彼女は何かに気づいたような表情をした。
そして、スカートを広げて頭を下げる。
「わたくし…希琉、と申しますの。この集落の、里長の娘ですわ」
「私は、真那加です。よろしくお願いします…ぁ」
私も慌てて頭を下げたら、トレイにのせていた食器が反動で落ちてしまった。
食器はプラスチックだったから割れずに済んだけど、すごい音が廊下に響き渡ってしまう……
私が慌てて拾っていると、希琉さんも拾うのを手伝ってくれた。
「すみません…ありがとうございます!」
「いいえ、次からはお気をつけなさいな…ところで、貴女――」
希琉さんは真面目な表情をして、私に訊ねる。
「…お菓子を持った男を見ませんでした?小太りだから、かなり目立つと思うのですけど」
お菓子を持った人…といえば、外であったあの人の事だよね。
私が外で会った事を教えると、ため息をついた希琉さんは口を開く。
「あの男、わたくしの頼んだ事を何もせずに屋敷から逃げ出したんですのよ…てっきり、ここにいるのだと思ってましたけど」
「はぁ…そうなんですか」
希琉さん……なんだか怒っているようで、笑っていても目がまったく笑っていないよぅ。
この状況に私が困っていると、誰かが慌てて走ってくる足音が廊下に響き渡った。
走ってやって来たのは、十紀先生だった。
「…何をやっている!希琉、誰が病室の方に上がっていいと言った?」
「あら、十紀先生…そんなに慌ててどうされましたの?わたくしは、鳴戸が彼女に会いに来ているのでは…と考えて、ここにお邪魔しましたのよ」
そう答えると、希琉さんは頭を下げてそのまま帰ってしまった。
そして、残されたのは私と十紀先生だけ……
「…大丈夫だったか?」
「えっと…はい」
十紀先生が心配そうに私を見ているので、びっくりしながらも頷いて答える。
でも、どうして慌てて駆けつけてくれたのかが気になって…私は、思い切って訊ねてみた。
「あの、十紀先生…どうされたんですか?先ほどの方…希琉さんとお知り合いですか?」
「あぁ。詳しい話は、私の部屋でしよう……」
そう言うと、十紀先生は私からトレイを取って近くの棚に置く。
私が「いいんですか?」と訊ねると、十紀先生は「もう少ししたら、他の患者の食器を下げに水城が来るからいい」と答えた。
いいのかな、と思いながら私は十紀先生について行くしかなかった……
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