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11話「先に行く者と逝く者」
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…おそらく、あの場所に辿り着いただろう紫麻が〈隠者の船〉に仕掛けを施しているはずである。
その後、彼女は夕馬と共に脱出し……冬埜と合流してから最終調整する予定だろう。
だから、それまでに全てを七弥に伝えなければならないので…あいつがきちんと聞いているのか確認をし、話を続けた。
「七弥…だから、紫鴉博士は〈神の血族〉達が作り上げた虚像なんだ。それを知らなかったとはいえ、久知河は紫鴉――いや、彼らを排除する為にお前を使った…希衣沙も最期の時に言っていたんだろう?」
――連中の目が、貴方の方へ向くように…
希衣沙が言った言葉を思いだしたのだろう、七弥はこちらを睨みつけると訊ねてきた。
「確かに、言っていた…久知河、閣下がそう命じたと。ならば、一体何者なんだ…その〈神の血族〉というのはっ!?」
「〈神の血族〉――彼らは、この世界に呪われた古代種の生き残り…彼らは俺達人間がこの世界に現れる前から存在し、人の代わりにその罪を償っているんだ」
この世界の管理者とも言われている存在…それが〈神の血族〉と呼ばれる存在達だ。
そして、その〈神の血族〉はある組織を立ち上げると身を隠して存在する事を選ぶ……
世界に呪われたせいで、永遠に生きる羽目になってしまった…いや、死ぬ事すら許されず終われない存在となった哀れな犠牲者達――
彼らは〈神の血族〉と人との混血である〈狭間の者〉を庇護して、ただ贖いの時を生きる道を選ぶしかなかったのだ。
あまりよくわかっていない様子だったので、わかりやすく例えてやろう。
お伽話でいただろう…御使いとか、代弁者とか――そう例え話すると、七弥は理解してくれたのか何度か頷いてから呟いた。
「もしかして…あの、『哀しみの神子』というお伽話にでてきた双子神子もか?」
「…そういえばお前、あの話を聞くとよく泣いていたよな」
いくつかあるお伽話の中からそれを選んで訊ねてきたので、俺が苦笑しながら言うと「幼い頃の話だ」と七弥は目を逸らしてしまう。
『哀しみの神子』というお伽話は、傷ついた神と世界を救う為に双子の神子が共に旅をする…そして、弟神子が兄神子を護る為に犠牲になるというものだ。
強大な力を持った兄神子を狙ったのが魔物で、弟神子は自らの生命の力を使ってその魔物を倒した……というあたりで、いつも七弥は泣いていた。
…そんな純粋なところもあった七弥に、ひとつだけ教えてやろう――あのお伽話、物語や設定は多少変えてあるがほぼ史実だという事を。
まさかの真実に驚いたのか、七弥がこちらを二度見してきたので頷いておいた。
……まぁ、俺も紫麻と白季から聞かされて同じ反応をしたので気持ちはわかるがな。
「…お前が、もしその気ならば――兄神子のモデルになった方に会えるかもしれないぞ?」
――だが、会えたからといって泣くんじゃないぞ?
俺が揶揄うようにそう言うと、七弥は複雑そうな表情のまま黙り込んでしまった。
多分……もう自分は幼い子供じゃない、と心の中で文句を言っているのだろうな。
あぁ、すっかり話が逸れてしまった……
俺は再び咳払いをして、まだ気持ちの整理ができていない様子の七弥に声をかけて話を戻す。
「希衣沙が言っていた連中というのは、〈神の血族〉達の作り上げた組織――《闇空の柩》の事だ……」
《闇空の柩》…それは遥か昔に、人の手によって造られ隠匿された【古代兵器】の捜索・破壊を目的としている組織だ。
『〈神の血族〉に全てを押しつけ、その罪を忘却した後人のひとり――贖いの時を共に、世界に贖罪と救いとなる再生を』という誓いを元に活動をしている。
〈神の血族〉達はこの宣誓の言葉をとても大切にしているらしく、組織に入った者が本当に誓いだてているのかどうか判断できるそうだ……
どうやら、〈狭間の者〉であっても判断できるのだというから、おそらく〈神の血族〉達の血が持つ力なのだろう。
俺がこの《闇空の柩》に入った理由――それは、学生時代に珠雨先生から誘われたのがきっかけだった。
最初は断るつもりだった…でも【古代兵器】の危険性やこの世界の状態と史実を知り、塑亜先生にも説得されて誓いだてる事を決意したわけだ。
――そして、そこで白季達と知り合ったのだが…あぁ、あいつらに忘れてしまった事を謝れなかったな。
その後、彼女は夕馬と共に脱出し……冬埜と合流してから最終調整する予定だろう。
だから、それまでに全てを七弥に伝えなければならないので…あいつがきちんと聞いているのか確認をし、話を続けた。
「七弥…だから、紫鴉博士は〈神の血族〉達が作り上げた虚像なんだ。それを知らなかったとはいえ、久知河は紫鴉――いや、彼らを排除する為にお前を使った…希衣沙も最期の時に言っていたんだろう?」
――連中の目が、貴方の方へ向くように…
希衣沙が言った言葉を思いだしたのだろう、七弥はこちらを睨みつけると訊ねてきた。
「確かに、言っていた…久知河、閣下がそう命じたと。ならば、一体何者なんだ…その〈神の血族〉というのはっ!?」
「〈神の血族〉――彼らは、この世界に呪われた古代種の生き残り…彼らは俺達人間がこの世界に現れる前から存在し、人の代わりにその罪を償っているんだ」
この世界の管理者とも言われている存在…それが〈神の血族〉と呼ばれる存在達だ。
そして、その〈神の血族〉はある組織を立ち上げると身を隠して存在する事を選ぶ……
世界に呪われたせいで、永遠に生きる羽目になってしまった…いや、死ぬ事すら許されず終われない存在となった哀れな犠牲者達――
彼らは〈神の血族〉と人との混血である〈狭間の者〉を庇護して、ただ贖いの時を生きる道を選ぶしかなかったのだ。
あまりよくわかっていない様子だったので、わかりやすく例えてやろう。
お伽話でいただろう…御使いとか、代弁者とか――そう例え話すると、七弥は理解してくれたのか何度か頷いてから呟いた。
「もしかして…あの、『哀しみの神子』というお伽話にでてきた双子神子もか?」
「…そういえばお前、あの話を聞くとよく泣いていたよな」
いくつかあるお伽話の中からそれを選んで訊ねてきたので、俺が苦笑しながら言うと「幼い頃の話だ」と七弥は目を逸らしてしまう。
『哀しみの神子』というお伽話は、傷ついた神と世界を救う為に双子の神子が共に旅をする…そして、弟神子が兄神子を護る為に犠牲になるというものだ。
強大な力を持った兄神子を狙ったのが魔物で、弟神子は自らの生命の力を使ってその魔物を倒した……というあたりで、いつも七弥は泣いていた。
…そんな純粋なところもあった七弥に、ひとつだけ教えてやろう――あのお伽話、物語や設定は多少変えてあるがほぼ史実だという事を。
まさかの真実に驚いたのか、七弥がこちらを二度見してきたので頷いておいた。
……まぁ、俺も紫麻と白季から聞かされて同じ反応をしたので気持ちはわかるがな。
「…お前が、もしその気ならば――兄神子のモデルになった方に会えるかもしれないぞ?」
――だが、会えたからといって泣くんじゃないぞ?
俺が揶揄うようにそう言うと、七弥は複雑そうな表情のまま黙り込んでしまった。
多分……もう自分は幼い子供じゃない、と心の中で文句を言っているのだろうな。
あぁ、すっかり話が逸れてしまった……
俺は再び咳払いをして、まだ気持ちの整理ができていない様子の七弥に声をかけて話を戻す。
「希衣沙が言っていた連中というのは、〈神の血族〉達の作り上げた組織――《闇空の柩》の事だ……」
《闇空の柩》…それは遥か昔に、人の手によって造られ隠匿された【古代兵器】の捜索・破壊を目的としている組織だ。
『〈神の血族〉に全てを押しつけ、その罪を忘却した後人のひとり――贖いの時を共に、世界に贖罪と救いとなる再生を』という誓いを元に活動をしている。
〈神の血族〉達はこの宣誓の言葉をとても大切にしているらしく、組織に入った者が本当に誓いだてているのかどうか判断できるそうだ……
どうやら、〈狭間の者〉であっても判断できるのだというから、おそらく〈神の血族〉達の血が持つ力なのだろう。
俺がこの《闇空の柩》に入った理由――それは、学生時代に珠雨先生から誘われたのがきっかけだった。
最初は断るつもりだった…でも【古代兵器】の危険性やこの世界の状態と史実を知り、塑亜先生にも説得されて誓いだてる事を決意したわけだ。
――そして、そこで白季達と知り合ったのだが…あぁ、あいつらに忘れてしまった事を謝れなかったな。
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