堕ちし記憶の森は

雪原るい

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2話「狂気のはじまり」

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ラウンジの奥――丁度、織葉おりは倉世くらせを殺そうとした場所がよく見える場所に…白金色の髪をした青年・白季しらきは、その出来事を静かに見ていた。

(――無事、だったようだね。よかった……)

倉世くらせが怪我もなく無事だった事に安堵して、小さく息をつく。

(あんなやり方をすれば…ああなる事を、七弥ななやもわかっていたはずなのにね。殺されるところでも見たかったのかな?もしかして……)

今は落ち着いている織葉おりはに視線を向けると、不思議そうに首をかしげた。

(荒療治のつもり、だったのかな…?どちらにしても、危険な賭けだね……)

視線を倉世くらせ達の方へ戻す途中で、杜詠とよみと目が合った……
知り合いではないので、白季しらきはにっこりと微笑んだ後に視線を外して倉世くらせ達の方へ目を向ける。

(…断罪のつもりなのかな?それとも…贖罪のつもりだったとか?うーん…七弥ななやの行動は、まだよくわからないなぁ)

首をかしげて、小さく息をついた白季しらきは自分の髪をかいた。

(大体、七弥ななやは知っているはずだよね?)

呆れた視線を、七弥ななやに向ける。

倉世くらせには、体力がないって事を――倉世くらせ本人も、忘れてるみたいだけどさ……)

窓に寄りかかると、ため息をついた。

(それにしても、あんな不確かな情報を…まるで事実であるかのように発表するなんて――かなり、も焦っているのかな?)

ふふふ、と小さく笑うとラウンジの隅で倉世くらせの補佐役に説教されているらしい濃い紫色の髪をした軍人・希衣沙きいさへと視線を向ける。

(うわぁ…倉世くらせにあんな無礼をはたらけば、右穂うすいが一番怒るだろう事はわかっていたくせに。あいつは、本当に面白いね)

倉世くらせの補佐役である右穂うすいは、倉世くらせの事を第一に考えている副官なのだ。
その右穂うすいの目の前で、希衣沙きいさはあんな嫌味を言うような真似をしたのだから…怒りを買って当り前だろう。

悪びれた様子を見せていない希衣沙きいさを、右穂うすいは鬼のような形相で叱りつけていた。

(あの優しい右穂うすいが、あんな鬼のような形相をしているなんて――きっと、彼の穏和さを知っている部下達は見た事なくてびっくりしそうだね)

苦笑混じりに右穂うすい希衣沙きいさの様子を観察していた白季しらきは、自分がすがっている窓の外の景色に目を向けた。
めい国の空は雲ひとつない夜空が広がっており、ただただ月明かりだけが眼下に広がる岩山の表面を照らしているだけだった。

七弥ななやの思惑を外れて、希衣沙きいさは勝手に暴走…もしかしたら全部、の筋書き通りなのかもだけど――)

先ほどまで浮かべていたやわらかな笑みを消すと、代わりに怒りを含んだ笑みを浮かべる。

「本当に腹立たしいなぁ、それは……」

小さく…誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた白季しらきは、すぐいつものやわらかな笑みに戻す。
そして、大きく背を伸ばした。


***
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