うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
上 下
71 / 94
5話「幼い邪悪[後編]~復讐の終わり~」

しおりを挟む
「僕は、こいつらがユミリィを襲おうとしているところを助けようとした…けど、多勢に無勢――助ける事ができなかった。そして、僕も生命を奪われた…死の間際に、に救っていただいたんだ…だから、僕はユミリィの魂がいなくなる前に夢術を使った」

その後、新たな力に慣れぬ間にミリスが殺害され…妹を助ける為に、また夢術を使用したのだとルフェリスは続けた。

「そうか、なるほどな…唯一残ったヴァリスを守る為にも、【夕闇の風】にあの情報屋を呼ばせたのか?」

フレネ村の人々の動向がわからぬ以上、ヴァリスに探らせるのは危険だと判断したのだろう…と、イアンは考えたのだ。
小さく頷いたルフェリスは、口元に笑みを浮かべる。

「…そうだよ。僕を助けてくださったコルネリオ様――あの方に相談をし、あの情報屋を呼んでいただいたよ」
「つーことは、もしかして…おれ達が来る事も、予想済みだったってわけか?」

素朴な疑問を口にしたセネトに、ヴァリスが苦笑すると答えた。

「予想も何も…私が応援を呼ぶように、ナルヴァから村長へ助言するよう言っただけです。目撃者として…いえ、立会人が必要かと思いまして――でも、…」
「おい、ちょっと待て!そのの続きは、"トラブルメーカー"とか言うつもりか!?しかも、2人も~とか言うつもりだったのかー!!」

なんとなく、ヴァリスの言いたかった事を察したセネトが威嚇するように叫んだ。
セネトの威嚇に、ミリスは怯えたようにヴァリスの背に隠れたまま服を握り締めて震えていた。

少女の…その様子にクリストフとイアンが、異口同音でセネトを叱りつける。

「バカ、怯えさせて…何考えている?」
「う゛っ…と、とにかくだ。おれは、"トラブルメーカー"ではない――断じて!!」

とりあえず、ヴァリス達の中での自分の存在認識を訂正しておかねばっ…と、セネトは主張してみたのだが軽くスルーされてしまったのでうなだれた。
小さく咳払いをしたユミリィは意地の悪そうな笑みを浮かべ、顎に手をあてて声をかける。

「そんな事より…あなた達は、黙って見てればいいのよ。それとも、やっぱり邪魔するつもり?」

――その瞬間、周囲に不穏な空気が流れはじめ…そんな中でも、ユミリィはくすくすと笑っていた。
警戒するセネトがユミリィ達に向けて術式を描くと、組み上げながら答える。

「邪魔するも何も…お前ら、本当は自分達を止めてほしいと思ってんだろ?こんな状況になったし、おれ達という証人もできた…だから、こいつらもさすがに隠せないっ!」

この復讐劇を止めたい…でも、このままではフレネ村によって生命を奪われた人々が浮かばれない――そのような思いを、ルフェリス達から感じ取れたからだ。


しかし……


「あら…でもぉ、そんな事を考えてない人達もいるみたい。わたし達が魔物になるなんて、逆恨みしてくるなんて…ってね」

ほら、こんな人達…やっぱり守る価値なんてないわ――と、ユミリィは軽蔑するようにフレネ村の人々を見た。
ルフェリスもユミリィの言葉に同意すると、腰に下げていた剣を手にしてフレネ村の人々へ向ける。

「僕達は、もう引き返す事はできない…これだけの事をしたんだ。すべてが終わろうと終わるまいと、僕らは――」
「だからって、『はい、どーぞ』と言えるわけないだろ!気持ち、というか…おれも、あいつらを赦せねーけど…これ以上、させるわけにはいかない!」

フレネ村の人々を護るように、前に立ったセネトが周囲を空気の壁で包み込むとルフェリスは不満げに眉をひそめて舌打ちした。
そして、セネトの様子をうかがいながら…後ろにいるヴァリスへ視線だけで何かを指示し、ゆっくりと構える。
兄の指示に頷いたヴァリスに、セネトが2人に対して警戒を強めていると…ふいにルフェリスが走りだし斬り込んできた。

セネトのはった空気の壁の結界によって、ルフェリスの攻撃を防ぐ…だが――

「素晴らしい判断だと思いますが…こちらは、こうさせてもらいます」

その声はルフェリスの背後から…いつの間にか動いていたヴァリスが、瞬時に術式を描きだすとセネトの作った空気の壁に投げつけた。
何をしてきたのか理解できず、呆然としていると…突然、空気の壁が消し飛び――その、無理矢理術を相殺解除された反動でセネトは苦しげに胸をおさえて片膝を立て座り込んだ。

「っ!?」
「…邪魔をするなら、君から動けなくした方がいいね」

そう言ったルフェリスがセネトへ向けて剣の刃を振り下ろす、がセネトは慌てて刃を両手で挟んで受け止めた。

「っ…あ、危ねーだろ!」

反動作用でダメージの残っているセネトは徐々に押されていき、隙を見たルフェリスが刃を一度上げてセネトの手を逃れた後に再び振り下ろす。
さすがに、止められない…と覚悟したセネトの耳に、呆れたような声が聞こえてきた。

「まったく…何、一人で突っ走ってるんですか?セネト…」

ルフェリスの刃を持っていた杖で受け止めたクリストフがため息をつくと、刃を絡めるようにして飛ばしたのだ。
3人から少し離れた位置にルフェリスの剣は刺さり、その場にいる全員が動きを止めた。

「た、助かった…ってか、もっと早く助けろよ!」

文句を言っているセネトに、クリストフは呆れたように首を横にふる。

「いや…珍しく、何か考えがあって結界というか…空気の壁を作ったんだろうと。そもそも、ですが…守りはウィルネス殿やナルヴァがやってくれると思いますよ」
「へ?つーことは、おれ一人…無駄にダメージ受けただけ、じゃねーか!!あー!」

ガックリとうなだれ、逆切れに近い怒りをクリストフにぶつけたセネトが自分の両頬をたたくと…改めて、ルフェリス達へ目を向けた。
ルフェリスはクリストフに剣をもぎ取られたので利き手首をおさえ、こちらの動向を窺っているようである。
兄の後ろにいたヴァリスはミリスとユミリィの前に立ち、ルフェリスの背中を心配そうに見ていたが…何か決意したような、自信があるような表情を浮かべた。

彼らの様子に、まだ何か企んでいるのでは…と感じたセネトは、クリストフへ視線を向けて指示を待つ。
――実は先ほどのように、一人痛い目にあうのが嫌だったりする……

そんなセネトの、他力本願に気づいたクリストフだったが…そこは大目に見る事にし、どう動くべきか思案した。

…この4人はお互いに攻撃や防御、補佐などの連携を何も言わずともできるのだろう。
彼らが自分の部下なら――多少、仕事が楽かもしれないのにな…と考えてしまったクリストフは苦笑して提案する。

「それじゃ、セネトはルフェリス殿を止めなさい。僕は…ヴァリス殿を――イアンは」

視線だけで指示したクリストフに、イアンが表情を変えずに頷いた。
確かに4人を個々に止めれば話は早いよな、と納得したセネトは肩を鳴らして立ち上がる。

「よーし…さっきの仕返しをしてやる。おれに挑んできた事を、後悔させてやる!」

一瞬ヴァリスが兄と目を合わせて頷くと、苦笑混じりに願った。

「できれば、暴走だけは…やめてくださいね。無駄に被害がでてしまうので――」

ヴァリスの言葉を聞いたセネトは、頬をひきつらせて心の中で叫ぶ。

――だから、いつも暴走してねーて!どんな噂が流れてんだよ、まったく……


***
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?

ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。 妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。 そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。

和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」  同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。  幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。  外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。  しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。  人間、似た物同士が夫婦になるという。   その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。  ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。  そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。  一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...