うたかた夢曲

雪原るい

文字の大きさ
上 下
54 / 94
4話「幼い邪悪[中編]~弱虫、再び~」

しおりを挟む
「…とりあえず、扉も開いたし」
「そこは、ではなく…に訂正しろ」

満足げなセネトにイアンが呆れたように訂正すると、頬を膨らませた彼は愚痴るように呟いた。

「どっちでもいいだろ…とりあえず、行けるようにはなったんだしよ」
「さすがは"破壊魔"、もはや才能なんでしょうけど。本当にすごいですよね…きっと、ディトラウト殿は泣いてますよ」

先ほどまで調べていた2つの塊に、近くにあった布…おそらくは、テーブルクロスなのだろうが――それをかけたクリストフが感心したように言う。
クリストフの言葉に、セネトはむっとしながら呟いた。

「だから、おれは"破壊魔"じゃねーし。自分なんか、犬並みの嗅覚してるくせに…」

セネトが破壊した扉の向こうには短いけど廊下があり…目の前とその右隣、廊下の突き当りに扉が存在している。
――その、どれもに血でべっとりと汚れていた。

「この家には、何人暮らしていたんだ…?」

あまりの酷い状況に、セネトは愕然と扉についた血を見つめて言った。
同じ事を考えたのだろうクリストフとイアンも、血で汚れた扉に視線を向けているようだ。

「…とりあえず、誰か生き残っている可能性もあります。扉は3つ――僕は一番奥の部屋に、イアンは目の前の…セネトはその右隣の部屋を、お願いできますか?」

クリストフの提案に頷いたイアンは、目の前にある扉を開けて入っていった。
それを見たセネトとクリストフも、それぞれ担当する扉を開けて生存者を探しはじめる事となった。




セネトが開けた扉の先には、また廊下が続いており…その先にも、またもや扉が3つあるようだった。

「な…なんで、また扉かよ。しかも、また3つ……」

とりあえず、少し悩んだセネトは入ってすぐ右隣りにある扉を開ける…と、そこは物置のようだった。
たくさんの荷物と――それを見つけたセネトは、何も言わずにゆっくりと扉を閉める。

(び、びっくりした…ここにいる3人は、斬り殺されたわけじゃないんだな)

セネトが物置で見つけたのは、おそらく村長宅で働く使用人達だろう…彼女らは身を守る為にここへ逃げ込んだようだ。
しかし、見つかり――何らかの方法で殺害されたのだろう。

気を取り直したセネトは、次に物置部屋の斜め前にある扉を開けてみた。
そこは、どうやら浴室と御手洗いのようで…ここには、血痕がついているのだが誰もいなかった――見えるところには、だが。

(扉が内開きだから気づかなかったけど、いたんだな…ここにも)

ゆっくりと扉を閉めたセネトは、大きくため息をついた。
扉の陰となるそこに、2人の人間が折り重なるように倒れているようだった…おそらく、こちらは斬られての失血死だろう。

最後に残った扉――こちらは廊下の突き当りにあり、セネトは祈るような気持ちで扉を開けた。
そこは誰かの私室のようで、ここもずいぶん荒らされており…いたるところに血痕がついている状態である。

「…頼むから、誰か無事でいてくれよ」

そう呟きながら荒らされた室内を捜索していると、ベットの陰から誰かの足が見えるのに気づいて慌てて近づいた。

「お、おい!大丈夫か…?」

倒れている人物を抱き起こし、呼吸を確認したセネトは安堵する。
その時、ちょうど窓から月明かりが入り…その人物が、セネトも見知っている人物だと気づいて声をかけた。

「…やっぱり、ヴァリスか。大丈夫か?動けるか…?」
「っ…セネト殿?どうして…?」

セネトの呼びかけに、ヴァリスは痛みを堪えながら目を開けると訊ねる。
簡単な状況説明をしたセネトはヴァリスに肩を貸しながら立ち上がると、イアンやクリストフが待っているであろう場所へ向かって歩きはじめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

夫の不倫で離婚することになったから、不倫相手の両親に告発してやった。

ほったげな
恋愛
夫から離婚したいと言われた。その後私は夫と若い伯爵令嬢が不倫していることを知ってしまう。離婚は承諾したけど、許せないので伯爵令嬢の家に不倫の事実を告発してやる……!

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...