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3話「幼い邪悪[前編]~2人のトラブルメーカー~」
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魔法で生み出された炎は一刻ほどで消え、残ったのは焦げた大地と"眠れぬ死者"の残骸だけだった。
ひと息ついたセネトは、周辺に転がる消し炭を見る。
「はぁ、疲れた…これでだいたいは片付いたな。後は、目撃されていた流れの吸血鬼のなりそこないを探すだけだな」
「そうですね、なりそこないは"眠れぬ死者"を引き連れて行動する事が多いですからね。意外に近くに…あぁ、やはり隠れてこちらの様子をうかがっているようですよ」
首をかしげたクリストフが、少し離れたところにある茂みの方に目を向けて言葉を続けた。
「あちらからは出てくる気配がないようですし、炙り出してみますか?」
「炙り出す…あの、だいたいの場所がお分かりになるのですか?クリストフ様…」
杖をかざして術式を描きだしているクリストフに、ヴァリスが驚いたように訊ねる。
術式を描き終え、魔力を込めるとクリストフは答えた。
「まぁ、だいたいの位置は…ですが。そこから移動されては手間なので、かなり荒い方法を使いますよ」
「ん…ち、ちょっと待て。クリストフ…その炙り出す方法って、まさか――」
クリストフの術式を読んだセネトは慌てている、がヴァリスは納得したように頷いている。
「なるほど…確かに、そちらの方が手っ取り早いですよね。さすがです、クリストフ様!」
「ま、まぁ…手っ取り早いけど、こちらもダメージ受けるだろうが。さすがに…」
ヴァリスの言葉に同意しつつ、セネトはクリストフに声をかけた。
クリストフは首をかしげて、不思議そうな表情を浮かべる。
「…あなたの口から、まともな意見が出るとは。何も起こらないといいですが…」
「なっ…失礼な!おれだって、たまにはまともな事くらい言えるぞ!?」
自ら『まともな事は、たまにしか言わない』と宣言したセネトは腕を組んだ。
何故か本人がそれに気づいていない事に、ヴァリスは目を丸くさせ…クリストフはため息をついて視線を向けた。
「はぁ…そんな事よりも、しっかり瞼を閉じてくださいね」
クリストフは杖を描いた術式ごと地面に向けて振り下ろすと、辺り一面に輝く大きな術式が現れる。
それは眩い光を放つと、暗闇に包まれていた平原を明るく照らしだした。
瞼を閉じていたセネトとヴァリスだったが、光が強力だったので手を目元にかざして光を遮る。
「っ…ぎゃあ!!」
そんな彼らの耳に、女性の悲鳴のような呻き声が聞こえてきた。
「な…なんだ!?つーか、光が邪魔で何も見えんっ!!クリストフ、見えないぞ!」
「すみませんねぇ、気が利かなくて…」
セネトの言葉に少々むっとした様子のクリストフが指を鳴らす、と辺りを照らしだしていた光は一瞬にして消える。
再び暗闇に戻ったのだがセネト達の目は慣れるおらず、瞼をぎゅっと強く閉じて開けた。
早く暗闇に目を慣らせたおかげで、悲鳴をあげたらしい女性を見つける事ができたのだ。
「あれか…つーか、今度からサングラスくらい用意してくれよな。人数分を!」
件のなりそこないらしき女性の様子を窺いながら、セネトはクリストフに向けて文句をつける。
しかし、当のクリストフは意に介さずになりそこないらしき女性を憐れむように呟いた。
「ごく最近なった吸血鬼のようですが、変化に失敗したようですね。ただただ…本能のままに、血を求めるだけの人形――」
なりそこないの女性はよろよろと手で顔を覆い、靴は履いておらず裸足である。
彼女の着ている衣服はところどころ破れており、全身血だらけであった。
ぱっと見、ただの"眠れぬ死者"のようにも見えるその姿をセネトは警戒気味に見ると訊ねた。
「なりそこないって…前々から気になってたんだけど、どうやって"眠れぬ死者"を統率してんだろう?」
「統率…というよりも、彼女の魔力を依り代にして何らかの魔法が作用しているのかと。例えば…――」
周囲に転がる消し炭と、なりそこないの女性を交互に見たヴァリスが顎に手をあて考えると続けて言う。
「あぁ、あれ…彼女が身に着けているブローチですけど、《メニートの呪具》のひとつに似ていると思うのですが」
彼女の持つブローチが、【狂気の魔術士】として名高いエリシカ・メニートの造りだした魔道具によく似ているらしい。
それを聞いたセネトは、首をかしげながらブローチをまじまじと見つめた。
「噂に聞く《メニートの呪具》シリーズのひとつ、か…初めて見たかも。そーいえば、魔術士ハミルトのやつも"眠れぬ死者"を操るのにペンダントを使っていたけど…アクセサリー型の魔道具が今の流行りなのか?」
ハミルトが使用していたのはペンダントについている小石に死霊術が込められていた、制作者不明の魔道具だった。
だが、今回のは狂気に支配された《メニートの呪具》である可能性がある……
普通の魔道具は魔力を込める事で使用できるのだが、《メニートの呪具》は身に着けた者の魔力を勝手に吸収して術が発動するのだ。
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ひと息ついたセネトは、周辺に転がる消し炭を見る。
「はぁ、疲れた…これでだいたいは片付いたな。後は、目撃されていた流れの吸血鬼のなりそこないを探すだけだな」
「そうですね、なりそこないは"眠れぬ死者"を引き連れて行動する事が多いですからね。意外に近くに…あぁ、やはり隠れてこちらの様子をうかがっているようですよ」
首をかしげたクリストフが、少し離れたところにある茂みの方に目を向けて言葉を続けた。
「あちらからは出てくる気配がないようですし、炙り出してみますか?」
「炙り出す…あの、だいたいの場所がお分かりになるのですか?クリストフ様…」
杖をかざして術式を描きだしているクリストフに、ヴァリスが驚いたように訊ねる。
術式を描き終え、魔力を込めるとクリストフは答えた。
「まぁ、だいたいの位置は…ですが。そこから移動されては手間なので、かなり荒い方法を使いますよ」
「ん…ち、ちょっと待て。クリストフ…その炙り出す方法って、まさか――」
クリストフの術式を読んだセネトは慌てている、がヴァリスは納得したように頷いている。
「なるほど…確かに、そちらの方が手っ取り早いですよね。さすがです、クリストフ様!」
「ま、まぁ…手っ取り早いけど、こちらもダメージ受けるだろうが。さすがに…」
ヴァリスの言葉に同意しつつ、セネトはクリストフに声をかけた。
クリストフは首をかしげて、不思議そうな表情を浮かべる。
「…あなたの口から、まともな意見が出るとは。何も起こらないといいですが…」
「なっ…失礼な!おれだって、たまにはまともな事くらい言えるぞ!?」
自ら『まともな事は、たまにしか言わない』と宣言したセネトは腕を組んだ。
何故か本人がそれに気づいていない事に、ヴァリスは目を丸くさせ…クリストフはため息をついて視線を向けた。
「はぁ…そんな事よりも、しっかり瞼を閉じてくださいね」
クリストフは杖を描いた術式ごと地面に向けて振り下ろすと、辺り一面に輝く大きな術式が現れる。
それは眩い光を放つと、暗闇に包まれていた平原を明るく照らしだした。
瞼を閉じていたセネトとヴァリスだったが、光が強力だったので手を目元にかざして光を遮る。
「っ…ぎゃあ!!」
そんな彼らの耳に、女性の悲鳴のような呻き声が聞こえてきた。
「な…なんだ!?つーか、光が邪魔で何も見えんっ!!クリストフ、見えないぞ!」
「すみませんねぇ、気が利かなくて…」
セネトの言葉に少々むっとした様子のクリストフが指を鳴らす、と辺りを照らしだしていた光は一瞬にして消える。
再び暗闇に戻ったのだがセネト達の目は慣れるおらず、瞼をぎゅっと強く閉じて開けた。
早く暗闇に目を慣らせたおかげで、悲鳴をあげたらしい女性を見つける事ができたのだ。
「あれか…つーか、今度からサングラスくらい用意してくれよな。人数分を!」
件のなりそこないらしき女性の様子を窺いながら、セネトはクリストフに向けて文句をつける。
しかし、当のクリストフは意に介さずになりそこないらしき女性を憐れむように呟いた。
「ごく最近なった吸血鬼のようですが、変化に失敗したようですね。ただただ…本能のままに、血を求めるだけの人形――」
なりそこないの女性はよろよろと手で顔を覆い、靴は履いておらず裸足である。
彼女の着ている衣服はところどころ破れており、全身血だらけであった。
ぱっと見、ただの"眠れぬ死者"のようにも見えるその姿をセネトは警戒気味に見ると訊ねた。
「なりそこないって…前々から気になってたんだけど、どうやって"眠れぬ死者"を統率してんだろう?」
「統率…というよりも、彼女の魔力を依り代にして何らかの魔法が作用しているのかと。例えば…――」
周囲に転がる消し炭と、なりそこないの女性を交互に見たヴァリスが顎に手をあて考えると続けて言う。
「あぁ、あれ…彼女が身に着けているブローチですけど、《メニートの呪具》のひとつに似ていると思うのですが」
彼女の持つブローチが、【狂気の魔術士】として名高いエリシカ・メニートの造りだした魔道具によく似ているらしい。
それを聞いたセネトは、首をかしげながらブローチをまじまじと見つめた。
「噂に聞く《メニートの呪具》シリーズのひとつ、か…初めて見たかも。そーいえば、魔術士ハミルトのやつも"眠れぬ死者"を操るのにペンダントを使っていたけど…アクセサリー型の魔道具が今の流行りなのか?」
ハミルトが使用していたのはペンダントについている小石に死霊術が込められていた、制作者不明の魔道具だった。
だが、今回のは狂気に支配された《メニートの呪具》である可能性がある……
普通の魔道具は魔力を込める事で使用できるのだが、《メニートの呪具》は身に着けた者の魔力を勝手に吸収して術が発動するのだ。
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