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3話「幼い邪悪[前編]~2人のトラブルメーカー~」
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夜も更け、月が高く昇った頃――フレネ村の入口付近に馬車は着いた。
辺りは暗く、馬車につけられているランプの灯りと月明かりだけしかない状態だ。
「…結局、夜遅くに着いたな」
うなだれたセネトが、独り愚痴るように言いながら馬車を降りる。
――うっすらとした明かりの中でも、フレネ村全体を包む暗く重たい雰囲気は伝わってきた。
村には当たり前だが人っ子ひとりおらず、本当に人が住んでいるのか疑わしいくらいだ。
…だが、村人達は家の中から遠巻きにこちらを窺ているような気配だけは感じられた。
「…ちぇ、何だよ。せっかく来たってのに、感じが悪いな」
そんな村人達の様子に気づいたセネトが、不機嫌そうに呟いた。
同意するように頷いたクレリアは、嫌悪感丸出しで口を開く。
「こういう村なのよ…ここは。基本的に余所者は信用できぬ、相容れぬ存在だと考えているの。しかも、無駄にプライドだけが高い――」
「うわぁ、何か…すごい村なんだな。かなり極端な考え、というか……」
村を見渡しながら言うセネトに、クレリアは俯きながら声をひそめるようにして話しはじめた。
「そういう事らしいわ…しかも、この村は国の法律とかをほぼ無視。それで、この村だけの決まりで裁判とかあるそうよ」
「げっ、まじかよ!?怖い村だな…というか、失敗したらおれらの命も危なそーじゃないか。そういえば、初めに請け負ってたヤツらはどこにいるんだよ…?」
背筋をぞっとさせたセネトの問いに、クレリアは呆れを含みながら村の奥の方を指す。
「そうね…そりゃ、やっぱり村長の家でしょう。そうそう…確か、この村の人間は身内に甘いそうだし」
呆れた口調で答えたクレリアが、ふと村入口付近に建っている家の方へ視線を向けると…たまたま外の様子を窓から見ていた住人と目があったらしく、慌てたように窓を閉められた。
「っ…何よ!あたしは何もしてないのに…というか、とって食うわけじゃないんだから!!」
不満そうなクレリアに、セネトが聞きとれないような小さな声で呟く。
「…何故か、食われそうな気がしたのかもな」
「聞こえてるわよ、セネト。あたしは、生まれて一度も人を食べた事なんてないわ!そこの家の者も、誤解を招く事をしないでよ!!」
地獄耳だったらしいクレリアはセネトの耳をひっぱりながら、窓を閉めた家人に向けて叫んだ。
呆れたようにため息をついたイアンが、ポケットから煙草を出すと口にくわえて火を点けるとセネトとクレリアを止めた。
「…ふぅ、そんな事よりもだ。そろそろ、村長宅へ向かうぞ」
ひと息ついた後、ちらりと後ろの方にいるクリストフとミカサに向けて声をかけたイアンはセネトとクレリアの頭を順に軽くたたいてから歩きはじめる。
「いってーな、お前のせいで叩かれただろーが」
「何よ、あんたのせいでしょうが」
小声で言い合っているセネトとクレリアの後ろ姿を見つめながら、クリストフとミカサは同時にため息をつくと心の中で呟いた。
――本当に仲が良いなぁ、と。
***
フレネ村の――ほぼ中央に近い場所に、依頼主である村長の家がある。
村の中では一番大きな家の前、セネトが扉をノックするとでてきたのは20代くらいの…かなり疲れた表情の青年だった。
青年は、クリストフとイアンの顔を見て頭を下げる。
「…お待ちしておりました、どうぞ」
そう言った青年は薄ら明るい室内へセネト達を招き入れると、村長が待っているという居間に案内された。
居間には60代くらいの男性と、10代後半くらいの少年が椅子に座ってセネト達の方に視線を向けている。
セネト達を招き入れた青年が、まだ火の灯っていない蝋燭に魔法で火を点けると室内は明るくなった。
蝋燭に火を点け終えた青年はセネト達の方へ向き直ると、再び頭を下げる。
「この度は本当に申し訳ありません…私は、アルノタウム支部に籍を置いております退魔士のヴァリス・エレディアと申します。そして、こちらにいるのが――」
青年・ヴァリスが、10代後半くらいの少年を指すと言葉を続けた。
「同じく、退魔士のナルヴァ・フレネ…そして、ナルヴァの隣にいるのが村長のロウナス・フレネです。え…っと、このお二人は見ての通り親子なのですが…それ以外に何か質問はございますか?」
セネトとクレリアの方に目を向けながら、ヴァリスが訊ねたのには理由がある。
2人が不満そうな…文句を言いたそうな表情を浮かべていたからだ――
ほぼ同時に手をあげたセネトとクレリアに、ヴァリスは少し悩んだ後にクレリアを指名した。
勝ち誇った表情をセネトに向けたクレリアは、ヴァリスと…ナルヴァの方を見ながら発言する。
「この村にいる役立たずな退魔士って…あなた達の事かしら?」
「まぁ…そう言われても仕方ない状況であると理解しております故、答えは『はい』です」
苦笑混じりに答えたヴァリスが、セネトの方を見ながら「では、どうぞ」と促した。
不満そうに舌打ちをしたセネトは、ヴァリスに向けて訊ねる。
「『そう言われても仕方ない状況』とわかっていながら、どうして救援を要請するのが遅くなったんだよ?」
再び悩んでいるヴァリスがちらりと村長の方へ視線を向ける、と村長はしばらく彼を見た後に顎で指示した。
その指示に、小さく頷いたヴァリスはセネト達の方へと視線を戻す。
「何を言っても、今更言い訳になってしまうので割愛して説明しますと…――」
半年くらい前…突然どこからか現れた吸血鬼のなりそこないによって、村や祈りの場を荒らされてしまったらしい。
ヴァリスとナルヴァの2人は村人達を守る事を優先していたのだが、目が行き届かず被害者を出てしまったのだという。
「つまり…もう限界だった、って事だな?というか、本当に割愛されてわかりやすいような…わかりにくいような…」
呆れたセネトが、困っている様子のヴァリスに訊いた。
「――つまり、この村がなりそこないの狩り場になっちゃって…被害をだしたって事ね」
セネトの隣でクレリアが冷たく村長の方を見やると、村長は不機嫌そうに顎でヴァリスに指示をだす。
村長の視線と指示に気づいたヴァリスは、さらに困ったような表情を浮かべ…そして、小さく頷くと口を開いた。
「…まったくもって、その通りでございます。なりそこないは一体だけなのですが、"眠れぬ死者"達も共に行動しているらしく…また、その行動範囲も広いのです」
何度か、村長の様子を確認しながら答えるヴァリスが疲れたようなため息をついた事に気づいてセネトは村長を横目で見る。
(なるほどな…あの頑固そうなオヤジに、全部指示されてるのか。あの村長――何を隠してやがるんだ?)
この仕事…やっぱり面倒じゃないか、と考えたセネトは天井を見上げてため息をついた。
***
辺りは暗く、馬車につけられているランプの灯りと月明かりだけしかない状態だ。
「…結局、夜遅くに着いたな」
うなだれたセネトが、独り愚痴るように言いながら馬車を降りる。
――うっすらとした明かりの中でも、フレネ村全体を包む暗く重たい雰囲気は伝わってきた。
村には当たり前だが人っ子ひとりおらず、本当に人が住んでいるのか疑わしいくらいだ。
…だが、村人達は家の中から遠巻きにこちらを窺ているような気配だけは感じられた。
「…ちぇ、何だよ。せっかく来たってのに、感じが悪いな」
そんな村人達の様子に気づいたセネトが、不機嫌そうに呟いた。
同意するように頷いたクレリアは、嫌悪感丸出しで口を開く。
「こういう村なのよ…ここは。基本的に余所者は信用できぬ、相容れぬ存在だと考えているの。しかも、無駄にプライドだけが高い――」
「うわぁ、何か…すごい村なんだな。かなり極端な考え、というか……」
村を見渡しながら言うセネトに、クレリアは俯きながら声をひそめるようにして話しはじめた。
「そういう事らしいわ…しかも、この村は国の法律とかをほぼ無視。それで、この村だけの決まりで裁判とかあるそうよ」
「げっ、まじかよ!?怖い村だな…というか、失敗したらおれらの命も危なそーじゃないか。そういえば、初めに請け負ってたヤツらはどこにいるんだよ…?」
背筋をぞっとさせたセネトの問いに、クレリアは呆れを含みながら村の奥の方を指す。
「そうね…そりゃ、やっぱり村長の家でしょう。そうそう…確か、この村の人間は身内に甘いそうだし」
呆れた口調で答えたクレリアが、ふと村入口付近に建っている家の方へ視線を向けると…たまたま外の様子を窓から見ていた住人と目があったらしく、慌てたように窓を閉められた。
「っ…何よ!あたしは何もしてないのに…というか、とって食うわけじゃないんだから!!」
不満そうなクレリアに、セネトが聞きとれないような小さな声で呟く。
「…何故か、食われそうな気がしたのかもな」
「聞こえてるわよ、セネト。あたしは、生まれて一度も人を食べた事なんてないわ!そこの家の者も、誤解を招く事をしないでよ!!」
地獄耳だったらしいクレリアはセネトの耳をひっぱりながら、窓を閉めた家人に向けて叫んだ。
呆れたようにため息をついたイアンが、ポケットから煙草を出すと口にくわえて火を点けるとセネトとクレリアを止めた。
「…ふぅ、そんな事よりもだ。そろそろ、村長宅へ向かうぞ」
ひと息ついた後、ちらりと後ろの方にいるクリストフとミカサに向けて声をかけたイアンはセネトとクレリアの頭を順に軽くたたいてから歩きはじめる。
「いってーな、お前のせいで叩かれただろーが」
「何よ、あんたのせいでしょうが」
小声で言い合っているセネトとクレリアの後ろ姿を見つめながら、クリストフとミカサは同時にため息をつくと心の中で呟いた。
――本当に仲が良いなぁ、と。
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フレネ村の――ほぼ中央に近い場所に、依頼主である村長の家がある。
村の中では一番大きな家の前、セネトが扉をノックするとでてきたのは20代くらいの…かなり疲れた表情の青年だった。
青年は、クリストフとイアンの顔を見て頭を下げる。
「…お待ちしておりました、どうぞ」
そう言った青年は薄ら明るい室内へセネト達を招き入れると、村長が待っているという居間に案内された。
居間には60代くらいの男性と、10代後半くらいの少年が椅子に座ってセネト達の方に視線を向けている。
セネト達を招き入れた青年が、まだ火の灯っていない蝋燭に魔法で火を点けると室内は明るくなった。
蝋燭に火を点け終えた青年はセネト達の方へ向き直ると、再び頭を下げる。
「この度は本当に申し訳ありません…私は、アルノタウム支部に籍を置いております退魔士のヴァリス・エレディアと申します。そして、こちらにいるのが――」
青年・ヴァリスが、10代後半くらいの少年を指すと言葉を続けた。
「同じく、退魔士のナルヴァ・フレネ…そして、ナルヴァの隣にいるのが村長のロウナス・フレネです。え…っと、このお二人は見ての通り親子なのですが…それ以外に何か質問はございますか?」
セネトとクレリアの方に目を向けながら、ヴァリスが訊ねたのには理由がある。
2人が不満そうな…文句を言いたそうな表情を浮かべていたからだ――
ほぼ同時に手をあげたセネトとクレリアに、ヴァリスは少し悩んだ後にクレリアを指名した。
勝ち誇った表情をセネトに向けたクレリアは、ヴァリスと…ナルヴァの方を見ながら発言する。
「この村にいる役立たずな退魔士って…あなた達の事かしら?」
「まぁ…そう言われても仕方ない状況であると理解しております故、答えは『はい』です」
苦笑混じりに答えたヴァリスが、セネトの方を見ながら「では、どうぞ」と促した。
不満そうに舌打ちをしたセネトは、ヴァリスに向けて訊ねる。
「『そう言われても仕方ない状況』とわかっていながら、どうして救援を要請するのが遅くなったんだよ?」
再び悩んでいるヴァリスがちらりと村長の方へ視線を向ける、と村長はしばらく彼を見た後に顎で指示した。
その指示に、小さく頷いたヴァリスはセネト達の方へと視線を戻す。
「何を言っても、今更言い訳になってしまうので割愛して説明しますと…――」
半年くらい前…突然どこからか現れた吸血鬼のなりそこないによって、村や祈りの場を荒らされてしまったらしい。
ヴァリスとナルヴァの2人は村人達を守る事を優先していたのだが、目が行き届かず被害者を出てしまったのだという。
「つまり…もう限界だった、って事だな?というか、本当に割愛されてわかりやすいような…わかりにくいような…」
呆れたセネトが、困っている様子のヴァリスに訊いた。
「――つまり、この村がなりそこないの狩り場になっちゃって…被害をだしたって事ね」
セネトの隣でクレリアが冷たく村長の方を見やると、村長は不機嫌そうに顎でヴァリスに指示をだす。
村長の視線と指示に気づいたヴァリスは、さらに困ったような表情を浮かべ…そして、小さく頷くと口を開いた。
「…まったくもって、その通りでございます。なりそこないは一体だけなのですが、"眠れぬ死者"達も共に行動しているらしく…また、その行動範囲も広いのです」
何度か、村長の様子を確認しながら答えるヴァリスが疲れたようなため息をついた事に気づいてセネトは村長を横目で見る。
(なるほどな…あの頑固そうなオヤジに、全部指示されてるのか。あの村長――何を隠してやがるんだ?)
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