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17 一日目の終わりに

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 授業の後にターク先生が行ったのは『帰りの会』だ。ミーメが前に立ち、ターク先生の踏み台の横に来る。

「今から『帰りの会』を始めまーす。今日の良かったことを一人ずつ話してくださーい。ザック」

 ザックが立ち上がり

「すげえ、マナ量を見た」

と言ってから座る。なるほど、このようにするのだなと、僕は発言する子を見つめる。

「スター」

「今日のから揚げが美味しかったです」

「あたしもまた食べたいでーす」

 ターク先生が楽しそうな顔をして話した。

「また、ですよ。明日は違う鶏肉料理をしますから」

「ジェス」

「初めてマナを制御出来た!サリオンのおかげだ」

 ジェスの金の瞳がキラキラしていて、それを僕に向けてくるから、僕は笑顔になってしまう。

「ドナムンド」

「魔法学舎にて新しい友が出来たことに感謝します」

 ドナムンドが僕に握手を求めて来る。僕は立ち上がりドナムンドに手を差し出し握手を交わす。それからミーメに名前を呼ばれたので、握手を解き前に向き直る。何を話そうか一瞬迷った。

「こんなに楽しい一日は初めてでした」

 そう言って、期友を一人一人見つめて破顔する。とんでもなく見苦しい顔を晒しているのは分かっていたが、もう何だろう嬉しいのだ、楽しいのだ。

「やだ、サリオン、かーわーいーい!スターの次に!では、ターク先生のお話しー」

 ターク先生が踏み台に立って教壇に両手を付いた。

「まずは、サリオンが新しく仲間になってくれました。嬉しいことです。いじめたりしないように。見つけたら先生はねちっこく怒りますよ」

「俺も許さないからなっ!」

 ジェスが立ち上がるのをターク先生が制して、

「全員がマナ制御出来たので、明日は魔法石を使い魔法供給を学びます。では、挨拶を」

とミーメに視線を送った。ミーメは

「きりーつ」

と声を上げて全員を立たせてから、

「帰りの挨拶をしまーす。さよーなら」

と声を張り、僕らはそれに続いて、

「さよーなら」

とターク先生に頭を下げた。

 帰りは準備のできた子から、魔法陣を展開して自宅へ帰るのらしい。ミーメとスターは支度が早くすぐに帰ってしまい、孤児院での仕事があるからとやはり早めに帰り、ザックは農作業が面倒だとターク先生に言いながら帰っていった。

 ジェスはいつの間にかいなくっていて、指輪はつけていないから魔の森へ行ってしまったのかもしれない。魔の森に村があったかと思案を巡らせたが、それは僕の考えだけだった。つまり、分からない。

「サリオン、少しお話をしましょう」

 僕はターク先生に呼ばれて『校長室』にクロルと一緒に入った。部屋には奥に桃色の扉が壁にあり、違和感付きである不思議な部屋で、ターク先生はソファに僕を座らせる。

「サリオン殿下」

 ターク先生がソファに座り、その横にクロルが腰掛けた。クロルがターク先生の横にと、不思議に感じる中で、ターク先生が『殿下』と告げた。

「ラムダ王、セシル王太子に続き王族をお迎えできて光栄です」

 ターク先生がぺこりと頭を下げたので、僕は曖昧に頷く。ターク先生はうんうんと頷きながら、

落実らくじつの呪いのことも理解しています。僕の伴侶たちもガルド神から呪いを受けています。伴侶のクロルもそうです」

「クロルの……伴侶?ターク先生が?」

 王族として平常心を保つようにメーテルから教育を受けている僕だが、今日の子供たちとのたった一日の行動で動揺が顔に出て、声が裏返ってしまう。ターク先生は嬉しそうに笑い、

「良い反応です。では、これはどうでしょうか。殿下、僕はガルドバルド大陸の小人族で、こちらのクロルは巨人族なのです」

と僕に告げてきた。ターク先生が小人族で、クロルが巨人族……?そんなはずはない。ガルドバルド大陸は御伽話で……。しかも、ユグドガルド大陸はマナの歪みの為行き来出来ない幻の大陸のはず。でも、ターク先生がこんなところで冗談など言わないだろう。

「これには言葉も出ないのですか。ラムダは失笑し、セシルは取り乱しましたが、サリオンは平常心なのですね」

 ターク先生が小首を傾げた。

「いえ、動揺……しています。にわかに信じられませんが」

 ターク先生が立ち上がると、僕を立たせて桃色の扉の前に招く。

「では、ご覧なさい。『どこでもドア』」



 ※※※※※※※※※※※※※※



「クロル」

 二十年前、ガルド神からの恩赦を受けた。呪いの複眼が消え、二つの目になったのは意識の中で『理解』して消えた。

 忘却の狭間で私は生き続けている。意識が上がったり下がったりを繰り返して、日々が過ぎていったしばらくのち、一つの声が私の耳に落ちた。

「もうそろそろ自虐はいいのではないですか?」

 なによりも欲しかった人だ。当時のギガスは原始の如く他の地域より立ち遅れ、父王によるガルド神への裏切りから相次ぐ地震に怯えていた。

 そんな中、智恵の実である六月の小人の話を聞いた。六月の小人は予言されていた。ガルドバルド大陸に新しい進化を築く者として。私はセリアン国との国境争いの中で六月の小人との接触を得た。小人が戦いを辞めよと言うならば、辞めよう。小人の知恵がギガスを救ってくれるはずだ。

「クロル、起きてください。あなたの助けが必要なのです」

 六月の小人は思っていたより華奢で可愛らしく、私は欲を欠いたのだ。タイタンにもセリアンにも渡したくないと。だから、洗脳と忘却の陣を使用した。

 まさか、『異世界人としての知恵』が『智恵の実』だとは思わず、忘却した六月の小人は『只人の小人』であり、『知恵の実』足り得なかったのだ。私は勝手に失望し絶望した。そして『只人の小人』を手放してしまった。そして陣を返され忘却の狭間を罪人として彷徨っている。

「クロル、僕の他の伴侶はヒト族では悪目立ちします。あなたも僕の伴侶の一人でしょう?」

 顔に小さな手が当たる。小さな唇が私の食餌を反射的に食むだけの器官に触れた。

「あ、タク、ずるい。俺にもしれくれ!」

「もう、だめです!これは古来からの目覚めの儀式ですならね」

「うむ……羨ましいような」

 二人の低い声に一人の丁寧な口調の高い声。ああ、あなただーー

「おはようございます。忘却陣なんてガルド神様のマナを浴びて、とっくに消えているはずですよ。さあ、立って僕に力を貸してください」

 私はそれからずっとヒト族の中にいる。二回の接吻、唇だけの伴侶ターク殿の役に立つべく。それが私の在るべき道だ。
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