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14 見知らぬから揚げ

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 昼食は食堂に皆で揃って行くこととターク先生から言われて、僕はミーメ先導の元食堂に入る。食堂は切り出しの木の長机が二本あって、僕はドナムンドに誘われて横に座った。

「今週の給食当番さん、来てください」

『給食』……ターク先生の言葉は初めて聞くものが多く戸惑うが、ミーメとスターが立ち上がって、厨房に行きサラダとスープとパンを持って来て、机に置いてくれる。ターク先生はワゴンに生活魔法具と思われる板を乗せ、その上に油を満たした鍋をクロルが置いた。

「こちらに鶏がいると知った時から、鶏料理をひたすら思い出しています。僕のから揚げ熱はしばらく止みません。目の前で揚げて、すぐに食すのか一番の贅沢でしょう」

 子供たちから歓声が上がり、僕は沸き立った油の匂いに驚いた。

「から揚げの『から』とは、『唐』や『空』もしくは『虚』ともありました。古来は『素揚げ』だったのを、江戸時代に米粉をまぶして揚げる手法が現れました。今日は小麦粉です。味付けはソニン様の薔薇岩塩とギガス国の胡椒一択。一口大に切った鶏肉の素材の味を信じてふりかけはたき馴染ませます」

「ギガスの胡椒か、懐かしいな」

『えどじだい』ターク先生が言っていることは全く分からなかったけれど、なんと調理を担っているのは『ギガス』と言ったクロルだたからさらに驚いた。ギガスなんて御伽話の巨人の国……。

「ジュストくんがスパイスを栽培しはじめましてね。乾いた大地にはぴったりだったのです。この油もオリーブ油、ギガスのものです。ギガスは石とスパイス、オリーブ油で随分豊かな国になっていますよ。おっと百七十度になりますね。から揚げは低温でじっくり揚げた方が柔らかくて美味しいのです。外はカリッと中はふわっと」

「ジュストはよい王になったのだな」

 ターク先生がクロルに話しながらトングを油に差し込んで温度を確かめていたようで、それからクロルが油の中に小麦をつけた鶏肉を入れたのだ。

 じゅわ……と音がして、ぴちぴちと小さな音になるまで僕らは真剣に見ている。一人五個の湯気のたつから揚げをお皿にもらうとミーメとスターが机に置いてくれた。

「では、両手の手の平を合わせてー、『自然の恵みとガルド神に感謝し、与えられた命の元をいただきます』」

 ミーメの声の後、

「いたーだきます」

と斉唱する。そこからは、正餐のはずが皆はまずはたぶん正餐の中心であるはずの肉料理、から揚げから食べ始めた。しかもフォークとスプーンしかないから、フォークでから揚げを刺して口に運ぶのだ。ターク先生とクロルは隣の机で二本の棒を使って食べていて、二人で楽しそうに話している。

 話しながら食べるのは、マナー違反ではないのかなと思ったが、ミーメとスターそしてザックも話しながら食べていたから、平民の作法なのかもしれない。ジェスは黙って一人で食べていて、どこか寄せ付けない感じだ。

「驚いたかな?一品ずつ用意されないから、冷めないうちにから揚げから食べるといいよ」

 そう言うとドナムンドはから揚げを口にするから、僕もから揚げをフォークで刺して口に入れた。一口では食べられないから歯で半分に切ると、カシュっと音がして旨味と柔らかな肉が口の中で踊る。歯が軋むような甘さすら感じた。

「おいし……」

 鶏肉のフリカッセ、バロティーヌ、テリーヌは食べたことがある。でもこんな素材が甘く旨味のある鶏肉は初めてだ。僕はから揚げばかり三個、四個と食べ進み、から揚げだけでお腹いっぱいになってしまう。

「なあ、お前、食べないならもらっていいか?」

 ザックが言うので手をつけていないスープやサラダパンと残りの一つから揚げをテーブルの真ん中に出したが、ザックはから揚げだけ僕の方に戻す。

「から揚げ美味しかっただろ?お前の家のやつにも食べさせてやれよ。ターク先生のから揚げは元気が出るからな」

 セシル兄様……かな?やっぱりメーテルにしよう。どうやって持って帰ればいいのだろうと考えついると、ターク先生が笹の葉を編んだ入れ物をくれた。

「こちらに入れてクロルに預けるといいですよ。笹の葉は殺菌作用がありますからね」

 ターク先生からもらった入れ物にから揚げを一個入れてクロルに渡すと、クロルは布に包み机に置く。

「帰りに忘れないようにします」

 それからミーメとスターが前に立ち、

「両手の手の平を合わせてー、『自然の恵みとガルド神に感謝して、命の元をご馳走様でした』」

に合わせて、

「ごちそーさまでしたー」

と斉唱し、食器を二人が持っていく。お茶が用意されている間、給食当番がお皿を洗っている。これは下働きの仕事ではと思うが、ここでは当番がやるのだろう。僕はちゃんと出来るのか不安になった。

「さあ、午後からの授業は外になりますよ」

 皆がテラスから出ていくと、僕はターク先生に呼び止められる。ターク先生は僕にだけ手袋をくれ、

「無理はしないようにしてください」

と下から笑いかける。

「はい?」

 僕は曖昧に笑って見せたが、そのあとターク先生の忠告を身に染みて感じるのだった。
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