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『番』の効果は素晴らしい。
夜遅くに目覚めた伊央は、体の軽さにまず驚いた。
ヒートは図書室で起こした時ほど酷くはなかったとはいえ、しっかりと噛まれる瞬間まで意識を保っていられた。
隣で海星はまだ眠っている。きっと彼は、ラット状態に入ったのは初めてだったのだろう。今まで海星の家に泊まっても、伊央より遅くに起きたことはない。
なんなら伊央は、今日初めて海星の寝顔を見た。
気持ちよさそうに寝ている彼の顔を眺めながら、自分の頸にそっと手を当てる。噛み跡に触れるとピリッとした痛みが走り、指先の感触だけでも、深く噛まれたのが伝わってくる程の痕がある。
「僕、本当に番になったんだ」
体調の変わりっぷりだけでも実感はできるが、頸の噛み痕というのはオメガとっては一種の勲章のようなイメージがある。
伊央はベータの時は、周りにオメガがいなかったため、頸の噛み痕というのはテレビでしか見たことがないが、ドラマなんかでも番になった後のオメガの首筋が、妙に色っぽく見えていたのを思い出す。
今、それがまさに自分の首元に刻まれているのだ。
すっかり暗くなった空に目を向けて、カーテンを閉めた。伊央だけならこのまま朝まで眠るだろうが、海星はそうもいかないだろう。きっとお腹を空かせて目が覚めるに違いない。
大体いつも「おはよう」の後には「腹減ったな」と続く。
初めての発情期と図書館で起こしたヒートはどちらも初めての経験だったため、もしかすると実際のヒートのレベルよりも酷く感じたのではないかと、伊央は思った。
今日は二回目の発情期。最初から海星がいたという安心感もあり、初めての時ほど怖くなかったし、何よりも番になるという目標があったから全てを海星に委ねられた。アルファという存在がオメガにとってなくてはならないものだと、経験から学んだ気がした。
「それにしても良く寝ている」
伊央は海星の顔を覗き込む。寝起きのいい彼は、伊央が少し動いただけでも反応する。なのに上体を起こしても気付かず眠るなんて、よほどラット状態の時の体力消耗が凄まじかったのだろう。
少し開いた口を見てしまうと、この唇とキスをしたんだ……と生々しく思い出してしまい、一人赤面する。
伊央は上手くできなかったけど、海星からされるキスは気持ち良かった。どんなふうに重ねればあんなにも吸い込まれるようなキスができるのだろうか。
海星が眠っているタイミングを狙って、そっと唇に触れてみた。……起きない。もう一度触れてみる。……やはり海星はピクリとも動かない。
伊央は海星からされたキスを思い出しながら、唇を重ねてみた。
その瞬間、海星の身体がガバッと跳ね、伊央をガッチリとホールドする。
「わっ!! んん……っっ」
頭を押さえられ、唇に吸い付く海星。
ぷはっと顔を離すと、目を爛々と輝かせて伊央を見た。
「お、起きてたの?」
「うん、寝たふりしてたら伊央はどうするかなって思って。でもまさかキスしてくれるなんてな」
海星は「こんな僥倖は予想外だ」とでも言うように、鼻歌を歌いながら喜んだ。
「ず、ズルい」
「なんで? 伊央からしてくれて嬉しいよ。おいで」
海星が伊央の手を引く。今度は逞しい胸に寄せられる。
「伊央がキスしてくれなかったら、腹の音で寝たふりがバレるところだった」
どうやら間一髪の出来事だったらしい。
伊央は嬉しいような、してやられたような、なんとも言えない感情に見舞われたが、この後蕩けるようなキスを浴びて、やっぱり自分からして良かったかもしれないとひっそり思った。
夜遅くに目覚めた伊央は、体の軽さにまず驚いた。
ヒートは図書室で起こした時ほど酷くはなかったとはいえ、しっかりと噛まれる瞬間まで意識を保っていられた。
隣で海星はまだ眠っている。きっと彼は、ラット状態に入ったのは初めてだったのだろう。今まで海星の家に泊まっても、伊央より遅くに起きたことはない。
なんなら伊央は、今日初めて海星の寝顔を見た。
気持ちよさそうに寝ている彼の顔を眺めながら、自分の頸にそっと手を当てる。噛み跡に触れるとピリッとした痛みが走り、指先の感触だけでも、深く噛まれたのが伝わってくる程の痕がある。
「僕、本当に番になったんだ」
体調の変わりっぷりだけでも実感はできるが、頸の噛み痕というのはオメガとっては一種の勲章のようなイメージがある。
伊央はベータの時は、周りにオメガがいなかったため、頸の噛み痕というのはテレビでしか見たことがないが、ドラマなんかでも番になった後のオメガの首筋が、妙に色っぽく見えていたのを思い出す。
今、それがまさに自分の首元に刻まれているのだ。
すっかり暗くなった空に目を向けて、カーテンを閉めた。伊央だけならこのまま朝まで眠るだろうが、海星はそうもいかないだろう。きっとお腹を空かせて目が覚めるに違いない。
大体いつも「おはよう」の後には「腹減ったな」と続く。
初めての発情期と図書館で起こしたヒートはどちらも初めての経験だったため、もしかすると実際のヒートのレベルよりも酷く感じたのではないかと、伊央は思った。
今日は二回目の発情期。最初から海星がいたという安心感もあり、初めての時ほど怖くなかったし、何よりも番になるという目標があったから全てを海星に委ねられた。アルファという存在がオメガにとってなくてはならないものだと、経験から学んだ気がした。
「それにしても良く寝ている」
伊央は海星の顔を覗き込む。寝起きのいい彼は、伊央が少し動いただけでも反応する。なのに上体を起こしても気付かず眠るなんて、よほどラット状態の時の体力消耗が凄まじかったのだろう。
少し開いた口を見てしまうと、この唇とキスをしたんだ……と生々しく思い出してしまい、一人赤面する。
伊央は上手くできなかったけど、海星からされるキスは気持ち良かった。どんなふうに重ねればあんなにも吸い込まれるようなキスができるのだろうか。
海星が眠っているタイミングを狙って、そっと唇に触れてみた。……起きない。もう一度触れてみる。……やはり海星はピクリとも動かない。
伊央は海星からされたキスを思い出しながら、唇を重ねてみた。
その瞬間、海星の身体がガバッと跳ね、伊央をガッチリとホールドする。
「わっ!! んん……っっ」
頭を押さえられ、唇に吸い付く海星。
ぷはっと顔を離すと、目を爛々と輝かせて伊央を見た。
「お、起きてたの?」
「うん、寝たふりしてたら伊央はどうするかなって思って。でもまさかキスしてくれるなんてな」
海星は「こんな僥倖は予想外だ」とでも言うように、鼻歌を歌いながら喜んだ。
「ず、ズルい」
「なんで? 伊央からしてくれて嬉しいよ。おいで」
海星が伊央の手を引く。今度は逞しい胸に寄せられる。
「伊央がキスしてくれなかったら、腹の音で寝たふりがバレるところだった」
どうやら間一髪の出来事だったらしい。
伊央は嬉しいような、してやられたような、なんとも言えない感情に見舞われたが、この後蕩けるようなキスを浴びて、やっぱり自分からして良かったかもしれないとひっそり思った。
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