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④冷酷子息に助けられたアリシア 1

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 アリシアが意識を取り戻すと、温かい部屋の大きなソファーに横たわっていた。
 辺りを見渡すと、色とりどりの花や植物に囲まれている。

「温室の中……?」

 緩慢に上体を起こし見渡すと、紛れもなくエレノオーラの温室の中であった。

「なんで……ここは限られた人しか入れないはず。私はどうやってここに入ってきたのかしら」
 考えても記憶がない。
 倒れてから、どのくらいの時間が経ったのかさえ分からない。
 しかし仕事の途中だったとは次の瞬間思い出した。

「大変、ローラに届けるものが……あっ……」
 勢いをつけて立ちあがろうとして、酷い眩暈に襲われた。ソファーから崩れ落ちて蹲る。

 吐き気を伴うほど疲労困憊してる体を立て直すには無理があった。
 限界などとっくに超えているのだ。

「だめ、こんな事で迷惑をかけられませんわ……」

 自分を追い込む。ここで終わってしまえば病気にもシュトラウス家にも負けたも同然だ。
『早めに諦めろ』ルシファードに言われた言葉が蘇る。

「いや……ですわ……。せっかくここまで来られたんですもの。諦めたくありません……」

 ゴホゴホと咳き込む。
 女教授の元を去る時に持たせてくれた薬はほんの少し症状の進行を遅らせるためと、ほんの少し気持ち悪さが和らぐ程度の効果であった。

 公爵家へ来てからは規定の三倍の量を服用していたが、今はほとんど効いていない。

 副作用が爪から現れ始めていた。乾燥し切ってボロボロだ。
 咳のし過ぎで喉が切れて痛い。吐血は病気によるものなのか、咳が原因なのかも判断がつかない。

「ソファーから落ちたのか?」
 突然話しかけられた声には聞き覚えがあった。

 力なく顔を上げると、やはりルシファードだ。手に持っている丸いトレーには、小さなグラスを乗っている。
 無表情は変わらないが、初めて会った時のような冷たさは緩和されていた。

「もしかして、ルシファード様が助けてくださったのでしょうか」
「温室の前で倒れていた。俺がここへ運んだ。酷い隈だな。眠っていないのか」
「そういうわけでは……」

 正確に言えば眠れないのだが、それをルシファードに言って何になる。泣き言など、彼にとっては同情にも値しない。
 言葉を濁らせ曖昧に返事をした。

 なのにルシファードはソファーの隣にある丸テーブルにトレーを置くと、アリシアをゆっくりと抱え上げ、ソファーへ座らせてくれた。
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