【完結】発情しない奴隷Ωは公爵子息の抱き枕

第四章

58、分かち合う喜び

　キスを続けながら、エリペールが男根をずるりと抜いた。
「んっ」
　長大なそれが体内からなくなってしまい、急に寂しさを覚える。孔から大量の精液とオメガの液が混ざって流れ出す。
　亀頭球は収まったものの、まだ男根が萎えているわけではない。それならば、もう少し繋がっていたいと思ってしまう。

　力尽きてベッドに突っ伏している僕を抱き寄せ、柔らかく慰めるようなキスをする。
「痛い思いをさせてしまった」
　エリペールが頸の噛み痕をそっと手で拭うと、くっきりと刻まれた歯型に鮮血が滲んでいるのが浮き彫りになった。

　首元から伝わる疼痛に、本当に番になれたのだという実感が時間差で押し寄せ胸が高鳴る。
「幸せの痛みです」
　喘ぎすぎて喉が渇れ、喘鳴ぜんめいにかき消されながらも歓びを伝える。

　エリペールの胸に顔を埋め深く息を吐く。元々彼にしか届かないらしいフェロモンの匂いも、彼のフェロモンにしか当てられない自分にも特別感を抱くが、それでも噛み痕があるというのは、次元の違う絆を感じる。
　愛の誓いよりも結婚指輪よりも、確固たる証をもらえた気持ちになれるのだった。

　自我を失い本能のまま淫蕩していた反動で、二人とも放心状態になっている。
「まだ発情期は始まったばかりだ。番になったからといってヒートを起こさなくなったわけではない。休める時に、しっかり休むといい」
　抱きしめたまま髪を撫で、シーツを手繰り寄せる。

　背後に回した手で孔の精液を掻き出され、その刺激で更に吐精した。あれだけ何度も絶頂に達し、途中から白蜜は流れっぱなしでもう何も出ないと思っていたのに、先端からトプトプと溢れる蜜は腿を伝いながら流れていく。
　臀部に感じる痺れは感度を鋭敏にさせ、触れられるだけで全身に戦慄が迸る。
　エリペールはお構いなしに精液を掻き出すが、折角注いでもらったものが押し出されていく過程に寂しさを感じずにはいられない。

　思わずエリペールの腕を掴み「まだ出さないで欲しい」懇願するように言うと「何度でも、マリユスの望むまま注いであげられる。今すぐにヒートを起こしてくれても対応可能だ」と笑った。

　自分でも頸に触れてみる。
　じんとした痛みに、なるほど納得がいく程の深い歯型がそこにあった。
「これって、消えないですよね」
「あぁ、そうだ。永遠に、ここに私のマリユスだと証明が残る。こんなに嬉しいことはない」
　エリペールはしかし、発情期の度に噛んでしまうかもしれないと言う。
「マリユスを想うばかりに、独占欲が毎日毎時間増していく一方なのだ。次の発情期には、きっと今日よりもマリユスへの愛が強くなっているだろう」
　揶揄うでもなく恥ずかしげもなく自分の気持ちを伝えられるエリペールを、少し羨ましく思う。
「あの……、僕も噛んで欲しいです」返事はこれで精一杯だった。

　エリペールはこんな一言でも歓喜し、「マリユスが欲情している間は私が驚くほど愛をぶつけててくれると知っているから、今はそれで充分だ」未だに固い男のそれを腹部に当てられ、足を捩らせながら赤面するしかなかっった。

「かわいく煽るマリユスがまた見たい。早くヒートを起こしてほしいくらいだ」
「それでは僕の体力が保ちません」
　セックスでの振る舞いは忘れて欲しいと訴えたが、即答で却下された。

「忘れられるはずがないだろう。マリユスが腰を揺さぶって涎を垂らしているのも、私に口淫を施してくれたのも、全て記録しておきたいほど鮮明に思い出せる」
「っっ！！　お、おやめください！！　怒りますよ！！」
「マリユスに叱られるなんて本望だ。わざと怒らせたくなる。今日は怒る感情が生まれた記念日にもしよう」
　何を言ってもエリペールの方が一枚も二枚も上手うわてである。

「発情期が明けたら、すぐに結婚式の準備を始めよう。マリユスはきっと今回の発情期中に私の子を孕むだろう。というか、孕むまで離してあげられないからね。バルテルシー街でもパレードをして欲しいと言われていたな。忙しくなりそうだ」

　楽しみはこれからもずっと続く。そう言われて明るい未来に思いを馳せる。
　発情期は満月一周分も続かずエリペールは落胆していたが、誰にも邪魔されずに過ごす二人だけの時間を堪能した。

　十日程の発情期で何度も精を放たれ、なんとなく本当に妊娠したような気持ちになれた。

　体力が回復してからは結婚式に向けて本当に目紛しい日々になり、仕事との両立が大変だった。

　そうして迎えた結婚式。
　大勢の来客や街の人から祝福され、オメガである自分に、もう劣等感を感じることも無くなった。
　ブリューノもパトリスも、自分ことのように喜んでくれ、バルテルシーは終始泣いていた。

「さぁ、パレードに出よう！！」
　騎士団や音楽隊、その後ろに冠婚仕様の馬車が続き、街は祝福ムードに包まれた。

　この後、誰もが忘れさった人物が現れるなど、誰も想像していなかった。