72 / 75
本編
70
しおりを挟む
先に拝殿の前まで来ていた巫子も、コチラに気が付いた。満面の笑みで手を大きく振っている。
「蘭恋!!」
僕からも手を振り返す。きっとそうだと思っていた。蘭恋は煬源様の運命の番だと。
「蘭恋が一番乗りだったの?」
「そうみたい。良かったわ。私だけだったら、どうしようかと思ってた」
「他の八乙女も、きっと来るよ」
二人とも疲れが取れていないから、拝殿前の階段に座り、他の八乙女を待つことにした。
朝拝までは少し時間があるものの、その後は誰も来る気配がなかった。
だんだん二人の空気も重くなっていく。もしかすると、僕と蘭恋だけだったのか……。
それでも他にも来ると信じたくて、何方からも立ちあがろうとしなかった。
「……誰も、来ないのかしら」
「そんな……」
ため息が溢れる。ここまで来て、みんなと別れるなんて考えたくない。
「朝拝、始める?」
それでも時間は待ってなくれない。
半ば諦めきれないまま、拝殿に入っていく。
すると、拝殿の中に先客がいた。ずっと、外で待っているはずだと思い込んでた。
頸にはしっかりとアルファの噛み跡が刻まれている。
蘭恋と顔を見合わせ、その丸い耳の八乙女の前を呼ぶ。
「「月詠!!」」
コチラを振り返った月詠は、目が合った瞬間涙目になった。
「如月、蘭恋……」
「月詠も運命の番だったんだ!」
「えへへ……そう、みたい」
照れ臭そうに笑う。
結局その後は、誰も大神殿には来なかった。
三人だけで祓詞を唱える。
なんだかずっと隙間風が吹いているような、もの哀しさが離れない。
今朝まであんなにも幸せだったのに、来ていない三人を思うと心苦しくて仕方ない。
凪と麿衣様、朱邑と朔怜様、秦羽と依咲那様。みんな番に違いないと思うほどの絆で結ばれている。
もしかすると、遅れて来るのでは……なんて期待も虚しく、参道を歩き、大鳥居を潜っても他の八乙女は現れなかった。
一人だけ帰る方角の違う月詠に「またね」というと、蘭恋と肩を並べて歩き出した。
「ねぇ、大地神の神殿に行ってみる?」
僕から蘭恋に相談してみた。
でも蘭恋の表情は曇っている。自分達の噛み跡を凪が見て喜べるかと言われれば、そうとも思えなかった。
やはり、もう最後の日まで会えないのか……。
きっと、最後の狼神様との時間を惜しんでいるのだろう。
光の神殿に帰り、このことを輝惺様に結果を伝えると「そうか……」と端的に答えたきり、考え込んでしまった。
輝惺様の目から見ても、他の狼神様達も運命の番に見えていたはずだ。
「如月、帳簿の記帳を頼む。私は麿衣の所へ行ってくる」
「はい、分かりました」
自分と煬源様、そして亜玖留様は番と巡り会えた。一番八乙女と仲の良かった麿衣様が違うなんて、本人達も受け入れられないかもしれない。
慰めに行くのだろう。
僕は行かない方がいい。
輝惺様が帰ってから、凪の様子を聞けばいい。
輝惺様が不在の間は、なるべく考えすぎないよう、仕事に集中した。
そして帰ってきた輝惺様は両手いっぱいに手料理を抱えていた。
「どうしたのですか? そんな食べきれない量のお料理は!!」
「それがあの二人、旅立ちまでに思い出の料理を開発しようとしていたのだ。離れていても、互いを思い出せる料理を。これは試作品だ」
どうやら、儀式の後はお互いかなり落ち込んだけど、そこからは気持ちを切り替え今に至るらしい。
輝惺様がクスクスを笑いながら言っているあたり、もう心配は要らないようだ。
「凪と麿衣様らしいですね」
僕もクスクスと笑いながら言う。
明日は朔怜様と依咲那様の神殿を訪ねてみると言った。
朱邑と秦羽のことだから、最後の宴をしているかもしれない。なんて輝惺様と笑って話していたが、あの二人の間でまさかの事態が起こっているとは、この時の僕たちはまだ知らなかった。
「蘭恋!!」
僕からも手を振り返す。きっとそうだと思っていた。蘭恋は煬源様の運命の番だと。
「蘭恋が一番乗りだったの?」
「そうみたい。良かったわ。私だけだったら、どうしようかと思ってた」
「他の八乙女も、きっと来るよ」
二人とも疲れが取れていないから、拝殿前の階段に座り、他の八乙女を待つことにした。
朝拝までは少し時間があるものの、その後は誰も来る気配がなかった。
だんだん二人の空気も重くなっていく。もしかすると、僕と蘭恋だけだったのか……。
それでも他にも来ると信じたくて、何方からも立ちあがろうとしなかった。
「……誰も、来ないのかしら」
「そんな……」
ため息が溢れる。ここまで来て、みんなと別れるなんて考えたくない。
「朝拝、始める?」
それでも時間は待ってなくれない。
半ば諦めきれないまま、拝殿に入っていく。
すると、拝殿の中に先客がいた。ずっと、外で待っているはずだと思い込んでた。
頸にはしっかりとアルファの噛み跡が刻まれている。
蘭恋と顔を見合わせ、その丸い耳の八乙女の前を呼ぶ。
「「月詠!!」」
コチラを振り返った月詠は、目が合った瞬間涙目になった。
「如月、蘭恋……」
「月詠も運命の番だったんだ!」
「えへへ……そう、みたい」
照れ臭そうに笑う。
結局その後は、誰も大神殿には来なかった。
三人だけで祓詞を唱える。
なんだかずっと隙間風が吹いているような、もの哀しさが離れない。
今朝まであんなにも幸せだったのに、来ていない三人を思うと心苦しくて仕方ない。
凪と麿衣様、朱邑と朔怜様、秦羽と依咲那様。みんな番に違いないと思うほどの絆で結ばれている。
もしかすると、遅れて来るのでは……なんて期待も虚しく、参道を歩き、大鳥居を潜っても他の八乙女は現れなかった。
一人だけ帰る方角の違う月詠に「またね」というと、蘭恋と肩を並べて歩き出した。
「ねぇ、大地神の神殿に行ってみる?」
僕から蘭恋に相談してみた。
でも蘭恋の表情は曇っている。自分達の噛み跡を凪が見て喜べるかと言われれば、そうとも思えなかった。
やはり、もう最後の日まで会えないのか……。
きっと、最後の狼神様との時間を惜しんでいるのだろう。
光の神殿に帰り、このことを輝惺様に結果を伝えると「そうか……」と端的に答えたきり、考え込んでしまった。
輝惺様の目から見ても、他の狼神様達も運命の番に見えていたはずだ。
「如月、帳簿の記帳を頼む。私は麿衣の所へ行ってくる」
「はい、分かりました」
自分と煬源様、そして亜玖留様は番と巡り会えた。一番八乙女と仲の良かった麿衣様が違うなんて、本人達も受け入れられないかもしれない。
慰めに行くのだろう。
僕は行かない方がいい。
輝惺様が帰ってから、凪の様子を聞けばいい。
輝惺様が不在の間は、なるべく考えすぎないよう、仕事に集中した。
そして帰ってきた輝惺様は両手いっぱいに手料理を抱えていた。
「どうしたのですか? そんな食べきれない量のお料理は!!」
「それがあの二人、旅立ちまでに思い出の料理を開発しようとしていたのだ。離れていても、互いを思い出せる料理を。これは試作品だ」
どうやら、儀式の後はお互いかなり落ち込んだけど、そこからは気持ちを切り替え今に至るらしい。
輝惺様がクスクスを笑いながら言っているあたり、もう心配は要らないようだ。
「凪と麿衣様らしいですね」
僕もクスクスと笑いながら言う。
明日は朔怜様と依咲那様の神殿を訪ねてみると言った。
朱邑と秦羽のことだから、最後の宴をしているかもしれない。なんて輝惺様と笑って話していたが、あの二人の間でまさかの事態が起こっているとは、この時の僕たちはまだ知らなかった。
0
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
おとなりさん
すずかけあおい
BL
お隣さん(攻め)にお世話?されている受けの話です。
一応溺愛攻めのつもりで書きました。
〔攻め〕謙志(けんし)26歳・会社員
〔受け〕若葉(わかば)21歳・大学3年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる