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三章〜クレール・ベルクール編〜
52 報告会②
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アシルお母様が駆け寄る。
「———噛み痕」
僕の頸を指で撫で、「本物だ」と呟いた。
クララ様はヴィクトール様をじっと見つめ、ただ黙っていた。
しん……とした空気が流れる。
どうしたのだろうか。アシルお母様は僕が番を見つけるのを、あれだけ楽しみにしていたのに。しかもその相手がヴィクトール様だった。
僕にとっても、アシルお母様にとっても望みが叶ったのだ。歓喜に叫び出すかもしれないと思っていたのに、意外にも反応は正反対で不安になる。
「アシル様、私から説明させてください。私はバース性の検査結果が出た時点で『特別なアルファ』だと診断されていました。それは、オメガを自分のアルファ性でいつでも発情を促せる力を持っています。使い道によれば、オメガを危険な目に合わせることもあるでしょう。勿論、他にこの力を使った相手はいません。私はそもそもクレールにしか興味がありませんでしたし」
ヴィクトール様はホテルでヒートを起こした僕を介抱してから、番になるまでの経緯を一通り説明してくれた。
自分の部屋の方が近いから匿ったこと、僕に思いを寄せていて、気持ちを確かめ合ったこと、特別なアルファの力で発情を促したこと。
最低限のことだけを簡潔に話してくれた。
僕とヴィクトール様だけで共有しておきたい内容は一切伏せてくれた。
「アシル様やクララお母様にとっては急な話かもしれませんが、私にとっては遅すぎるくらい待ちました。本当なら、番になるのは結婚をしてからかもしれませんが、私は順番は関係ないと思っています。一生一緒にいることが重要であり、番が先か結婚が先かは二の次だと考えています。それに、オメガ性の弱いクレールの発情期を待ったところで、そのタイミングで私が一緒にいられるかなんて保証などありません。私は、番になれるチャンスがあれば、この特別なアルファの力を使う覚悟を決めていました。なので、後悔はしていません」
ヴィクトール様はアシルお母様とクララ様に向かって深々と頭を下げた。
「今更、番を解消しろと言われてもできません。いや、そんなことは絶対にしません。私はまだ成人したばかりで、若すぎると言われるとも考えました。でも、どうせ一緒になるなら、私は一刻も早く番になりたかったのです」
一生懸命、説得してくれる姿に、僕は感涙しそうになるのをなんとか堪えている。
ヴィクトール様の想いが、誰よりも僕の胸で響いた。
アシルお母様とクララ様は黙ってヴィクトール様の言葉に耳を傾けている。
そして、ヴィクトール様の話が全て終わった後、ようやくアシルお母様が口を開いた。
「あの、聞きたいのですが……それじゃあ、この噛み痕は本物で間違いないのですか? オメガは本当に発情していないと番契約は結べません。クレールは本当に発情していたのですか?」
「はい、私は運命の番なので間違いありません。あの時、クレールは確実に発情していました」
「じゃあ、本当に……クレールとヴィクトール様は間違いなく、絶対に、本当に、番になったんですね?」
アシルお母様が何度も何度も繰り返し、ヴィクトール様に番契約が本物かを尋ねる。ヴィクトール様はその何度も何度も繰り返し聞かれた全てのことに、真剣に答えた。
「僕も、クレールと一緒に喜んでいいの?」
「アシルお母様……」
「だって、噛み痕が偽物だったらぬか喜びになってしまう。でも、クレールとヴィクトール様は番に……よかったね、クレール。本当によかった!!」
アシルお母様の顔が綻んだ。
「———噛み痕」
僕の頸を指で撫で、「本物だ」と呟いた。
クララ様はヴィクトール様をじっと見つめ、ただ黙っていた。
しん……とした空気が流れる。
どうしたのだろうか。アシルお母様は僕が番を見つけるのを、あれだけ楽しみにしていたのに。しかもその相手がヴィクトール様だった。
僕にとっても、アシルお母様にとっても望みが叶ったのだ。歓喜に叫び出すかもしれないと思っていたのに、意外にも反応は正反対で不安になる。
「アシル様、私から説明させてください。私はバース性の検査結果が出た時点で『特別なアルファ』だと診断されていました。それは、オメガを自分のアルファ性でいつでも発情を促せる力を持っています。使い道によれば、オメガを危険な目に合わせることもあるでしょう。勿論、他にこの力を使った相手はいません。私はそもそもクレールにしか興味がありませんでしたし」
ヴィクトール様はホテルでヒートを起こした僕を介抱してから、番になるまでの経緯を一通り説明してくれた。
自分の部屋の方が近いから匿ったこと、僕に思いを寄せていて、気持ちを確かめ合ったこと、特別なアルファの力で発情を促したこと。
最低限のことだけを簡潔に話してくれた。
僕とヴィクトール様だけで共有しておきたい内容は一切伏せてくれた。
「アシル様やクララお母様にとっては急な話かもしれませんが、私にとっては遅すぎるくらい待ちました。本当なら、番になるのは結婚をしてからかもしれませんが、私は順番は関係ないと思っています。一生一緒にいることが重要であり、番が先か結婚が先かは二の次だと考えています。それに、オメガ性の弱いクレールの発情期を待ったところで、そのタイミングで私が一緒にいられるかなんて保証などありません。私は、番になれるチャンスがあれば、この特別なアルファの力を使う覚悟を決めていました。なので、後悔はしていません」
ヴィクトール様はアシルお母様とクララ様に向かって深々と頭を下げた。
「今更、番を解消しろと言われてもできません。いや、そんなことは絶対にしません。私はまだ成人したばかりで、若すぎると言われるとも考えました。でも、どうせ一緒になるなら、私は一刻も早く番になりたかったのです」
一生懸命、説得してくれる姿に、僕は感涙しそうになるのをなんとか堪えている。
ヴィクトール様の想いが、誰よりも僕の胸で響いた。
アシルお母様とクララ様は黙ってヴィクトール様の言葉に耳を傾けている。
そして、ヴィクトール様の話が全て終わった後、ようやくアシルお母様が口を開いた。
「あの、聞きたいのですが……それじゃあ、この噛み痕は本物で間違いないのですか? オメガは本当に発情していないと番契約は結べません。クレールは本当に発情していたのですか?」
「はい、私は運命の番なので間違いありません。あの時、クレールは確実に発情していました」
「じゃあ、本当に……クレールとヴィクトール様は間違いなく、絶対に、本当に、番になったんですね?」
アシルお母様が何度も何度も繰り返し、ヴィクトール様に番契約が本物かを尋ねる。ヴィクトール様はその何度も何度も繰り返し聞かれた全てのことに、真剣に答えた。
「僕も、クレールと一緒に喜んでいいの?」
「アシルお母様……」
「だって、噛み痕が偽物だったらぬか喜びになってしまう。でも、クレールとヴィクトール様は番に……よかったね、クレール。本当によかった!!」
アシルお母様の顔が綻んだ。
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