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三章〜クレール・ベルクール編〜

38 パーティーに向けて

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「ヴィクトール様のパーティーに、僕も出席しても良いのでしょうか?」

 嬉しいよりも、先に不安になってしまった。またあの時のようにヒートを起こしてしまったら……と、考えるとパーティー会場には行かない方が懸命だ。
 この屋敷の時はまださいわいだったのだ。エリアスお父様とマルティネス王子が直ぐに駆けつけられる環境にいて、他人もいなかった。
 けれどパーティーともなれば話は別だ。

 主役を誑かすオメガにはなりたくない。
 そう思うのも、僕は日に日にヴィクトール様に会いたい想いが募っていて、今目の前に現れただけで気持ちが昂ってしまう自信がある。

 毎晩、彼のハンカチーフの匂いを嗅ぎながら眠りにつくと、夢の中にまでヴィクトール様が現れるようになってしまっているのだ。

 もうあと数ヶ月で会えると思っただけで、胸が苦しくなる。会いたいのに、会うのが怖い。次に僕が何か失敗をしてしまえば、二度と会えなくなってしまうのではないか……なんて思考に頭が支配されてしまう。

 ある時、この気持ちを思い切ってクララ様と、隣にいたアシルお母様にも話してみた。
 するとどうだ。二人ともとても喜んでいるではないか。

「お母様、クララ様、僕は真剣に悩んでいるんですよ」
「えぇ、そうね。私はヴィクトールのことをそんなに真剣に考えて下さるのが、嬉しくて仕方ないわ」
「ぼくもクララ様と同じだよ、クレール。君は今、本気で人を好きになってる。ベルクール邸にいる時は、そんな人とは一生会えないかもしれないなんて話していたのに。そんなに恋焦がれる相手がヴィクトール様だったなんて、本当に嬉しいよ」

 そういえば、昔そんな話をアシルお母様としたのを思い出した。あの時は、そんな出会いはなかったから仕方ない。
 今だって、ヴィクトール様がいなけりゃ僕はベータとしての人生を謳歌していただろう。

「ほらね、それだよクレール。それが、好きって気持ち。唯一無二なんだよ」
「クレールさん、ヴィクトールも貴方に会いたがっているわ。毎日朝から晩までクレールさんの名前を聞かない時は無いほどよ。パーティーには絶対いらしてね。絶対よ?」

 二人がかりで説得され、頷くしか出来なかった。しかし肩の荷が降りたのも事実だ。何となく気持ちがスッキリしたし、ヴィクトール様に会っても良いのだと断言してくれて少し自信もついた。

 僕はそれから、パーティーの日にヴィクトール様にサプライズをしようと、クララ様と打ち合わせをしたり、会場になるホテルに出向き、デザートの監修をさせてもらったりと、忙しい毎日を送った。

 パーティーの日が近付くにつれ、緊張感は増していくが、イザックが気を使って遊びに連れ出したりしてくれたのは助かった。

「いよいよ明日だね、パーティー」
「あぁ、そうなんだ。やっと会えるよ。僕、何処も変じゃない?」
「君は何時だって綺麗さ。って、こんな言葉はヴィクトール様に言ってもらいなよ」
「イザックは茶化さないで」
「でもさ、緊張してると損だよ? しっかり想いを伝えてきなよ?」
「分かった。出来るだけ頑張るよ」

 屋敷から帰るクレールを見送ると、僕も一足先にホテルへと向かう。

「はぁ、落ち着かない」
 独り言を言いながら、馬車に乗り込んだ。
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