上 下
189 / 221
三章〜クレール・ベルクール編〜

38 パーティーに向けて

しおりを挟む
「ヴィクトール様のパーティーに、僕も出席しても良いのでしょうか?」

 嬉しいよりも、先に不安になってしまった。またあの時のようにヒートを起こしてしまったら……と、考えるとパーティー会場には行かない方が懸命だ。
 この屋敷の時はまださいわいだったのだ。エリアスお父様とマルティネス王子が直ぐに駆けつけられる環境にいて、他人もいなかった。
 けれどパーティーともなれば話は別だ。

 主役を誑かすオメガにはなりたくない。
 そう思うのも、僕は日に日にヴィクトール様に会いたい想いが募っていて、今目の前に現れただけで気持ちが昂ってしまう自信がある。

 毎晩、彼のハンカチーフの匂いを嗅ぎながら眠りにつくと、夢の中にまでヴィクトール様が現れるようになってしまっているのだ。

 もうあと数ヶ月で会えると思っただけで、胸が苦しくなる。会いたいのに、会うのが怖い。次に僕が何か失敗をしてしまえば、二度と会えなくなってしまうのではないか……なんて思考に頭が支配されてしまう。

 ある時、この気持ちを思い切ってクララ様と、隣にいたアシルお母様にも話してみた。
 するとどうだ。二人ともとても喜んでいるではないか。

「お母様、クララ様、僕は真剣に悩んでいるんですよ」
「えぇ、そうね。私はヴィクトールのことをそんなに真剣に考えて下さるのが、嬉しくて仕方ないわ」
「ぼくもクララ様と同じだよ、クレール。君は今、本気で人を好きになってる。ベルクール邸にいる時は、そんな人とは一生会えないかもしれないなんて話していたのに。そんなに恋焦がれる相手がヴィクトール様だったなんて、本当に嬉しいよ」

 そういえば、昔そんな話をアシルお母様としたのを思い出した。あの時は、そんな出会いはなかったから仕方ない。
 今だって、ヴィクトール様がいなけりゃ僕はベータとしての人生を謳歌していただろう。

「ほらね、それだよクレール。それが、好きって気持ち。唯一無二なんだよ」
「クレールさん、ヴィクトールも貴方に会いたがっているわ。毎日朝から晩までクレールさんの名前を聞かない時は無いほどよ。パーティーには絶対いらしてね。絶対よ?」

 二人がかりで説得され、頷くしか出来なかった。しかし肩の荷が降りたのも事実だ。何となく気持ちがスッキリしたし、ヴィクトール様に会っても良いのだと断言してくれて少し自信もついた。

 僕はそれから、パーティーの日にヴィクトール様にサプライズをしようと、クララ様と打ち合わせをしたり、会場になるホテルに出向き、デザートの監修をさせてもらったりと、忙しい毎日を送った。

 パーティーの日が近付くにつれ、緊張感は増していくが、イザックが気を使って遊びに連れ出したりしてくれたのは助かった。

「いよいよ明日だね、パーティー」
「あぁ、そうなんだ。やっと会えるよ。僕、何処も変じゃない?」
「君は何時だって綺麗さ。って、こんな言葉はヴィクトール様に言ってもらいなよ」
「イザックは茶化さないで」
「でもさ、緊張してると損だよ? しっかり想いを伝えてきなよ?」
「分かった。出来るだけ頑張るよ」

 屋敷から帰るクレールを見送ると、僕も一足先にホテルへと向かう。

「はぁ、落ち着かない」
 独り言を言いながら、馬車に乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

運命を知っているオメガ

riiko
BL
初めてのヒートで運命の番を知ってしまった正樹。相手は気が付かないどころか、オメガ嫌いで有名なアルファだった。 自分だけが運命の相手を知っている。 オメガ嫌いのアルファに、自分が運命の番だとバレたら大変なことになる!? 幻滅されたくないけど近くにいたい。 運命を悟られないために、斜め上の努力をする鈍感オメガの物語。 オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω 『運命を知っているアルファ』というアルファ側のお話もあります、アルファ側の思考を見たい時はそちらも合わせてお楽しみくださいませ。 どちらかを先に読むことでお話は全てネタバレになりますので、先にお好みの視点(オメガ側orアルファ側)をお選びくださいませ。片方だけでも物語は分かるようになっております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。 コメント欄ネタバレ全解除につき、物語の展開を知りたくない方はご注意くださいませ。 表紙のイラストはデビュー同期の「派遣Ωは社長の抱き枕~エリートαを寝かしつけるお仕事~」著者grottaさんに描いていただきました!

頑張って番を見つけるから友達でいさせてね

貴志葵
BL
大学生の優斗は二十歳を迎えてもまだαでもβでもΩでもない「未分化」のままだった。 しかし、ある日突然Ωと診断されてしまう。 ショックを受けつつも、Ωが平穏な生活を送るにはαと番うのが良いという情報を頼りに、優斗は番を探すことにする。 ──番、と聞いて真っ先に思い浮かんだのは親友でαの霧矢だが、彼はΩが苦手で、好みのタイプは美人な女性α。うん、俺と真逆のタイプですね。 合コンや街コンなど色々試してみるが、男のΩには悲しいくらいに需要が無かった。しかも、長い間未分化だった優斗はΩ特有の儚げな可憐さもない……。 Ωになってしまった優斗を何かと気にかけてくれる霧矢と今まで通り『普通の友達』で居る為にも「早くαを探さなきゃ」と優斗は焦っていた。 【塩対応だけど受にはお砂糖多めのイケメンα大学生×ロマンチストで純情なそこそこ顔のΩ大学生】 ※攻は過去に複数の女性と関係を持っています ※受が攻以外の男性と軽い性的接触をするシーンがあります(本番無し・合意)

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

処理中です...