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二章~アシル・クローシャー編~

43 発情期と弟①

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 翌朝、目覚めたクレールはもう子供のクレールに戻っていた。
「おはようございます、アシルお母様」
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。アシルお母様がいてくれたので、ヴィクトール様がいる時みたいに温かかったです。エリアスお父様にも、また来て欲しかった」
「そうだね。昨日は帰りが遅くなるって言っていたから」

 ヴィクトール様はクレールを抱き枕のようにして寝ていたとライリーから聞いている。
 人肌は覚えてしまうと癖になるものだ。
 ぼくもエリアス様の部屋で過ごした悪阻の時期が長かったから、自分の部屋に戻りたくないって思っていたのを思い出す。大人でもそうだから、子供なら、余計に人の体温が欲しいだろう。

 とはいえ、ぼくは起きた時から頭がぼうっとしている。
 今日も一緒に寝てあげたいが、これは発情期の初期症状。

「クレール、今夜から一緒に寝てあげられないけど大丈夫? ぼく、発情期に入りそうなんだ」
 ライリーに頼もうか? と提案してみたが、どうやら発情期という言葉を聞かせたのが間違いだったらしい。
「アシルお母様!! 発情期ということは、弟が生まれるのですね!! 僕、お兄ちゃんになるので一人で寝られます」
「え、いや……今夜生まれるんじゃないんだよ?」
「そのくらいは分かっています。まだお腹も大きくありませんし。でもクララ様が仰っていました。アシルお母様はオメガだから、弟は発情期が来てからねって」
「クララ……様……?」
「僕、エリアスお父様に知らせてきます。アシルお母様はお部屋で休んでいてください」
「え、く、クレール!?」

 ぼくはまだ、本格的に発情期が始まったわけじゃないから、一緒にダイニングへ行こうと思っていたのに。

「走って行っちゃった」

 余程ヴィクトール様のような弟が欲しいのだろう。
 弟でも妹でも、しっかり面倒見てくれそうだ。なんて、呑気に考えている場合ではない。
 エリアス様にはまだ知らせなくていい!!

 急いでクレールの後を追う。
 しかし、途中でロラに捕まってしまった。

「アシル様。発情期に入られたと、たった今、クレール様が……」
「クレールったら、ロラにまで話したの? まだ少し頭がぼんやりしてるだけなんだ。今日一日くらいは普通に過ごせる」
「まぁ、クレール様はアシル様の発情期を楽しみにしてらしたので、興奮なさってたのですね」

 クスクスと笑いながらロラが言う。
 ヴィクトール様と花を摘みながら「クレールには弟は生まれないのか?」とヴィクトール様から尋ねられ、ぼくが発情期に入ったら生まれると、クララ様からのお受け売りをそのままヴィクトール様に話していたそうだ。一体、いつの間にクララ様とそんな話をしていたのか……。

「クレール様のためにも、お部屋でお休みください。朝食は運びますので」
「……そうするよ、ロラ」

 発情期に入れば部屋から出られないからギリギリまで動いていたいのだが、今回ばかりは無理そうだ。

 廊下を引き返し、私室へと向かった。
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