117 / 221
二章~アシル・クローシャー編~
28 転生者④
しおりを挟む
コーキからは少しずつでいいから、エリアス様に想いを伝えた方がいいと、幾度となく言われていた。
それでも、どうしても自分の気持ちを飲み込んでしまうのは癖のようなもので、それが少なからずエリアス様を不安にさせていることを今になって知ってしまった。
ぼくを抱きしめる腕が震えている。
アシル・クローシャーは記憶をなくしたと思っていた。
エリアス様は混濁としているアシル・クローシャーに「自分が婚約者だ」と断言した。それは、ぼくがエリアス様を忘れたことで、他の人のものになるのを恐れたからだと言った。
「本当は怖かった。アシルの記憶から私が消えていたことが。新しく積み重ねられてく記憶の全てが、作り物であるかのような錯覚さえ起こしていたのだ。君が君じゃなくなっている瞬間を垣間見るたび、私へ向ける視線すら他人のように感じていた。しかし、そうではなかった。そうだね? アシル?」
「……ます。違い、ます。ぼくは、本当は、初めて出会ったあの日からずっと、ずっと……好きでした。コーキがぼくでいてくれている間は、気持ちを代弁してくれていたんです。だから全て、あの時の全ては、ぼくの本当の気持ちです」
エリアス様は「もっと早く言って欲しかった」と、泣きじゃくるぼくをキツく抱きしめた。
いつも毅然とした態度で、どんな時でも前向きなエリアス様でも、怖いと感じることがあるとは思いも寄らない。
「エリアス様が知っているアシルではなかったのは、僕が喋っていたからです。アシルとして振る舞っていても、どうしても自分を出してしまう事があって……その都度エリアス様は『アシルじゃないみたいだ』と言うのでドキリとしていました」
エリアス様が口を開こうとしたが、コーキは「でも……」と打ち消した。
「アシルの体を共有している時は、言える状況ではなかったのです。なんせ、アシルの声は僕にしか届かない。アシル・クローシャーの体を二人の人間が共有しているなど、言葉だけで言われて『はい、そうですか』では済まされません。なんせ、僕たちでさえ予想だにしない事態っだのだから」
エリアス様は少しの間、ぼくを抱きしめたまま考え込んでいる様子だった。
きっとぼくの妊娠が分かってからの出来事を振り返っているのだろう。
クレールの口から発しられた内容は、ことさら子供の喋れる事ではない。
「最後にアンナ様から階段から突き落とされた時、僕は再び意識を失いました。それで自分の人生は終わったと思いました。元々、身投げをしたくらいですので無念はなかった。ただ、アシルと子供の気配もなかったので、それだけが心残りでした。でも、僕は再び転生した」
「それが、私たちの息子……」
「はい、僕はエリアス様とアシルの子供として新たな人生を歩むことになったのです」
それでも、どうしても自分の気持ちを飲み込んでしまうのは癖のようなもので、それが少なからずエリアス様を不安にさせていることを今になって知ってしまった。
ぼくを抱きしめる腕が震えている。
アシル・クローシャーは記憶をなくしたと思っていた。
エリアス様は混濁としているアシル・クローシャーに「自分が婚約者だ」と断言した。それは、ぼくがエリアス様を忘れたことで、他の人のものになるのを恐れたからだと言った。
「本当は怖かった。アシルの記憶から私が消えていたことが。新しく積み重ねられてく記憶の全てが、作り物であるかのような錯覚さえ起こしていたのだ。君が君じゃなくなっている瞬間を垣間見るたび、私へ向ける視線すら他人のように感じていた。しかし、そうではなかった。そうだね? アシル?」
「……ます。違い、ます。ぼくは、本当は、初めて出会ったあの日からずっと、ずっと……好きでした。コーキがぼくでいてくれている間は、気持ちを代弁してくれていたんです。だから全て、あの時の全ては、ぼくの本当の気持ちです」
エリアス様は「もっと早く言って欲しかった」と、泣きじゃくるぼくをキツく抱きしめた。
いつも毅然とした態度で、どんな時でも前向きなエリアス様でも、怖いと感じることがあるとは思いも寄らない。
「エリアス様が知っているアシルではなかったのは、僕が喋っていたからです。アシルとして振る舞っていても、どうしても自分を出してしまう事があって……その都度エリアス様は『アシルじゃないみたいだ』と言うのでドキリとしていました」
エリアス様が口を開こうとしたが、コーキは「でも……」と打ち消した。
「アシルの体を共有している時は、言える状況ではなかったのです。なんせ、アシルの声は僕にしか届かない。アシル・クローシャーの体を二人の人間が共有しているなど、言葉だけで言われて『はい、そうですか』では済まされません。なんせ、僕たちでさえ予想だにしない事態っだのだから」
エリアス様は少しの間、ぼくを抱きしめたまま考え込んでいる様子だった。
きっとぼくの妊娠が分かってからの出来事を振り返っているのだろう。
クレールの口から発しられた内容は、ことさら子供の喋れる事ではない。
「最後にアンナ様から階段から突き落とされた時、僕は再び意識を失いました。それで自分の人生は終わったと思いました。元々、身投げをしたくらいですので無念はなかった。ただ、アシルと子供の気配もなかったので、それだけが心残りでした。でも、僕は再び転生した」
「それが、私たちの息子……」
「はい、僕はエリアス様とアシルの子供として新たな人生を歩むことになったのです」
27
お気に入りに追加
1,674
あなたにおすすめの小説
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
記憶喪失の君と…
R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。
ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。
順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…!
ハッピーエンド保証
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
どこかがふつうと違うベータだった僕の話
mie
BL
ふつうのベータと思ってのは自分だけで、そうではなかったらしい。ベータだけど、溺愛される話
作品自体は完結しています。
番外編を思い付いたら書くスタイルなので、不定期更新になります。
ここから先に妊娠表現が出てくるので、タグ付けを追加しました。苦手な方はご注意下さい。
初のBLでオメガバースを書きます。温かい目で読んで下さい
悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する
めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。
侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。
分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに
主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……?
思い出せない前世の死と
戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、
ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕!
.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
HOTランキング入りしました😭🙌
♡もエールもありがとうございます…!!
※第1話からプチ改稿中
(内容ほとんど変わりませんが、
サブタイトルがついている話は改稿済みになります)
大変お待たせしました!連載再開いたします…!
ましゅまろ
https://marshmallow-qa.com/jzl4erccc3bbq43
病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
水の巫覡と炎の天人は世界の音を聴く
井幸ミキ
BL
僕、シーラン・マウリは小さな港街の領主の息子だ。領主の息子と言っても、姉夫婦が次代と決まっているから、そろそろ将来の事も真面目に考えないといけない。
海もこの海辺の街も大好きだから、このままここで父や姉夫婦を助けながら漁師をしたりして過ごしたいのだけど、若者がこんな田舎で一生を過ごしたいなんていうと遠慮していると思われてしまうくらい、ここは何もない辺鄙な街で。
15歳になる年、幼馴染で婚約者のレオリムと、学園都市へ留学しないといけないみたい……?
え? 世界の危機? レオリムが何とかしないといけないの? なんで? 僕も!?
やけに老成したおっとり少年シーラン(受)が、わんこ系幼馴染婚約者レオリム(攻)と、将来やりたい事探しに学園都市へ行くはずが……? 世界創生の秘密と、世界の危機に関わっているかもしれない?
魂は巡り、あの時別れた半身…魂の伴侶を探す世界。
魔法は魂の持つエネルギー。
身分制度はありますが、婚姻は、異性・同性の区別なく認められる世界のお話になります。
初めての一次創作BL小説投稿です。
魔法と、溺愛と、ハッピーエンドの物語の予定です。
シーランとレオリムは、基本、毎回イチャイチャします。
ーーーーー
第11回BL小説大賞、無事一か月毎日更新乗り切れました。
こんなに毎日小説書いたの初めてでした。
読んでくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。
勢いで10月31日にエントリーをして、準備も何もなくスタートし、進めてきたので、まだまだ序盤で、あらすじやタグに触れられていない部分が多いのですが、引き続き更新していきたいと思います。(ペースは落ちますが)
良かったら、シーランとレオリムのいちゃいちゃにお付き合いください。
(話を進めるより、毎話イチャイチャを入れることに力をいれております)
(2023.12.01)
長らく更新が止まっていましたが、第12回BL大賞エントリーを機に再始動します。
毎日の更新を目指して、続きを投稿していく予定です。
よろしくお願いします。
(2024.11.01)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる