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一章~伊角光希編~
51 ハーブ園
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翌日、ルシィは来なかった。代わりに別の侍女が付き添いに来てくれた。
僕からは敢えて何も言わず、ロラからも何も言い出さなかった。
「今日はいい天気で良かったです」
「そうですね。午前中に花のお手入れをしてきましたが、とても心地よかったですよ」
ロラは少しでも疲れたり、体調が悪くなったら申し出てくださいと言い、早速部屋から出た。
廊下を歩くだけでも新鮮な気持ちになる。
所々に飾られている花瓶の花も、記憶の花とは種類が違っている。
当たり前のことだけど。
この世界に来て、半年と少し経ったのかと改めて思い返す。
『早くお庭に出たいね』
今日はアシルも朝からソワソワしている。
僕の気持ちと連動してるんじゃないかと思うほど、僕たちの感情はよく似ていた。
アンナ様やキリアン様の姿は見えない。
キリアン様は仕事だろうか。
アンナ様はいつも何をしているのか、全く知らない。
聞こうとも思った事がなかったし、アンナ様のことを話題にしようとする者もいなかった。
やはりルシィの事が気がかりだと思いつつ、ついに外に踏み出す。
「はぁ~~」
柔らかい風が吹き、アシルのラベンダー色の髪を揺らす。
両手を広げ、思い切り深呼吸をした。
既に花の香りがする。
はやる気持ちを抑えられない。
「ロラ、早く行こう」
「アシル様、まともに歩くのも久しぶりなのですから、ゆっくり歩いてくださいまし」
「はぁーい」
足を滑らせないよう注意しながら花壇へと向かう。
この世界に季節というものはないようだ。
前にガゼボでお茶をした時と変わらない気温で、そういえば服も分厚いコートのようなものなない。
一年中、この陽気は素晴らしいと思った。
あの時のりんごはもう収穫が終わってしまったと言っていたが、葉はずっと青さを保っていて、視界を楽しませてくれる。
小鳥なんかも前世で見ていたのと変わらず存在していて、囀りで耳も楽しませてくれる。
今日はまた別の場所でお茶をしようと、ロラが案内してくれたのは、ハーブ園だった。
「わぁ、ここも素敵ですね」
「ハーブティーも、ここで育ったもので作っているんですよ」
「どうりでいつも香り高いと思ってました」
「そう……そうです……」
「ロラ?」
「こういう時、やはり記憶を無くされたままなのだと、思い知らされます」
いけないと思った。
当のアシルでさえ、本当に無くしている記憶もあると後々に判明した。
言われて思い出すこともしょっちゅうある。
あのエントランスへと続く大階段から落ちたんだ。僕は仕方ないと割り切っているが、ロラはそうもいかないだろう。
逐一アシルに確認できればいいが、そうもいかず、中々対応が難しい。
アシルも『そう言われてみれば、ロラが以前そう言っていたかもしれない。でもここにきたのは初めてのような気がする』と言っている。
「今日はハーブ園に連れてくれば、ここでの生活のことを少しでも思い出してもらえるかと思っていたんです」
「そうだったんですね。ありがとう、ロラ。残念ながら、なんとなくしか思い出せない。それでもここが素敵だと思うし、僕はひと目見てこのハーブ園が好きになりました」
「いえ、差しでまかしいことを致しました」
「そんなことはありません。これからも、記憶を取り戻せるよう、協力してくれると嬉しいです」
ロラにハーブを色々と教えてもらった。
前世の日本とほぼ同じなものが多く、名前は違えども似たようなハーブも沢山あった。
「今晩飲まれるハーブを選びますか?」
「いいんですか? 是非、そうして欲しいです」
エリアス様に今日のことを話話しながら飲みたいと思い、カモミールのような可愛らしい白の小花を選んだ。
それから空が薄らオレンジ色になるまで、僕はロラたちとハーブ園を楽しんだ。
僕からは敢えて何も言わず、ロラからも何も言い出さなかった。
「今日はいい天気で良かったです」
「そうですね。午前中に花のお手入れをしてきましたが、とても心地よかったですよ」
ロラは少しでも疲れたり、体調が悪くなったら申し出てくださいと言い、早速部屋から出た。
廊下を歩くだけでも新鮮な気持ちになる。
所々に飾られている花瓶の花も、記憶の花とは種類が違っている。
当たり前のことだけど。
この世界に来て、半年と少し経ったのかと改めて思い返す。
『早くお庭に出たいね』
今日はアシルも朝からソワソワしている。
僕の気持ちと連動してるんじゃないかと思うほど、僕たちの感情はよく似ていた。
アンナ様やキリアン様の姿は見えない。
キリアン様は仕事だろうか。
アンナ様はいつも何をしているのか、全く知らない。
聞こうとも思った事がなかったし、アンナ様のことを話題にしようとする者もいなかった。
やはりルシィの事が気がかりだと思いつつ、ついに外に踏み出す。
「はぁ~~」
柔らかい風が吹き、アシルのラベンダー色の髪を揺らす。
両手を広げ、思い切り深呼吸をした。
既に花の香りがする。
はやる気持ちを抑えられない。
「ロラ、早く行こう」
「アシル様、まともに歩くのも久しぶりなのですから、ゆっくり歩いてくださいまし」
「はぁーい」
足を滑らせないよう注意しながら花壇へと向かう。
この世界に季節というものはないようだ。
前にガゼボでお茶をした時と変わらない気温で、そういえば服も分厚いコートのようなものなない。
一年中、この陽気は素晴らしいと思った。
あの時のりんごはもう収穫が終わってしまったと言っていたが、葉はずっと青さを保っていて、視界を楽しませてくれる。
小鳥なんかも前世で見ていたのと変わらず存在していて、囀りで耳も楽しませてくれる。
今日はまた別の場所でお茶をしようと、ロラが案内してくれたのは、ハーブ園だった。
「わぁ、ここも素敵ですね」
「ハーブティーも、ここで育ったもので作っているんですよ」
「どうりでいつも香り高いと思ってました」
「そう……そうです……」
「ロラ?」
「こういう時、やはり記憶を無くされたままなのだと、思い知らされます」
いけないと思った。
当のアシルでさえ、本当に無くしている記憶もあると後々に判明した。
言われて思い出すこともしょっちゅうある。
あのエントランスへと続く大階段から落ちたんだ。僕は仕方ないと割り切っているが、ロラはそうもいかないだろう。
逐一アシルに確認できればいいが、そうもいかず、中々対応が難しい。
アシルも『そう言われてみれば、ロラが以前そう言っていたかもしれない。でもここにきたのは初めてのような気がする』と言っている。
「今日はハーブ園に連れてくれば、ここでの生活のことを少しでも思い出してもらえるかと思っていたんです」
「そうだったんですね。ありがとう、ロラ。残念ながら、なんとなくしか思い出せない。それでもここが素敵だと思うし、僕はひと目見てこのハーブ園が好きになりました」
「いえ、差しでまかしいことを致しました」
「そんなことはありません。これからも、記憶を取り戻せるよう、協力してくれると嬉しいです」
ロラにハーブを色々と教えてもらった。
前世の日本とほぼ同じなものが多く、名前は違えども似たようなハーブも沢山あった。
「今晩飲まれるハーブを選びますか?」
「いいんですか? 是非、そうして欲しいです」
エリアス様に今日のことを話話しながら飲みたいと思い、カモミールのような可愛らしい白の小花を選んだ。
それから空が薄らオレンジ色になるまで、僕はロラたちとハーブ園を楽しんだ。
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