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一章~伊角光希編~
20 追い討ち
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夢の中でアシルを抱きしめていた。
アシルは僕なんかよりもずっと繊細で、壊れやすい。
エリアス様の子供を産めるのを喜んではいても、アンナ様や公爵様への罪悪感は生涯拭えないと思い込んでいる。
パーティーでヒートを起こしたのがトラウマになっているほどだ。
二度も同じ手口でアシルを陥れようとしてきた。パーティーの件と同一犯だと言っているようなものだ。
僕の夢の中で、アシルは体を丸めて固まっていた。そのアシルをふわりと抱きしめる。
アシルは僕の胸に頬を寄せた。
アシルに内緒でエリアス様を頼る方法があれば良いのだが、アシルの中に二人の人格がいるなど、エリアス様は知る由もない。
それに実はエリアス様がアシルだと思って接しているのが別人だと知れば、僕は一体どうなるのか……。
状況がデリケートなだけに、安易に頼ってはいけないというアシルの意見は妥当とも言える。
僕より年下なのに、周りへの異常なまでの気遣いは貴族故なのだとすると、やるせない気持ちが込み上げる。
こんなことをされて尚、キリアン様だと断定出来ない内はエリアス様にも言わないと言うのだ。
きっと今日の犯人がキリアン様だと判明しても、アシルは誰にも言わないのだろうと思った。
ならば僕はアシルの意思に従う。
それで少しでもアシルが傷つかなくて良いようにしてあげたい。
しかし翌日、僕たちを待ち構えていたのは侍女からの嫌がらせだった。
これまで無視していた数人の侍女は、あからさまに僕を蔑む態度を示すようになったのだ。
エリアス様がいない時というのは、これまでと変わらない。
しかし、昨日僕がヒートを起こしたと噂をしているのには違和感を覚える。
もしかして、噂話の根源はキリアン様なのか……。
「ぅわっ」
「アシル様、大丈夫ですか?」
「ロラ、ごめんなさい。急に服を掴んでしまいました」
「いえ、アシル様がご無事なら……」
廊下を歩いていると、掃除中の侍女から突然モップで足をかけられた。
見事に前を歩いていたロラに倒れ込む。
ロラは侍女をギロリと睨み、一喝した。
「ルシィ、アシル様に対してとんでもない行為。エリアス様に言いつけますよ? それに、何故今頃こんな所の掃除をしているのです?」
「ロラ、申し訳ありません。水を零してしまいましたの。アシル様がダイニングへ向かう通路なので、滑ってはいけないと思い拭いていました」
「では何故、あなたがこの通路に水を零したのかしら? アンナ様の部屋は正反対でしょう?」
「あ、あぁ……あはは……」
侍女のルシィは笑って誤魔化しながら走り去る。
「今のルシィとは?」
「アンナさま専属の侍女でございます。申し訳ありません。後でキツく叱っておきます」
「あ、いえ。そんな……」
ルシィ……どこかでも一度……。
そうだ、熱々のお茶を掛けたのも彼女だったと思い出す。
アンナ様は、自分の手は汚さないという訳か。
アシルは僕なんかよりもずっと繊細で、壊れやすい。
エリアス様の子供を産めるのを喜んではいても、アンナ様や公爵様への罪悪感は生涯拭えないと思い込んでいる。
パーティーでヒートを起こしたのがトラウマになっているほどだ。
二度も同じ手口でアシルを陥れようとしてきた。パーティーの件と同一犯だと言っているようなものだ。
僕の夢の中で、アシルは体を丸めて固まっていた。そのアシルをふわりと抱きしめる。
アシルは僕の胸に頬を寄せた。
アシルに内緒でエリアス様を頼る方法があれば良いのだが、アシルの中に二人の人格がいるなど、エリアス様は知る由もない。
それに実はエリアス様がアシルだと思って接しているのが別人だと知れば、僕は一体どうなるのか……。
状況がデリケートなだけに、安易に頼ってはいけないというアシルの意見は妥当とも言える。
僕より年下なのに、周りへの異常なまでの気遣いは貴族故なのだとすると、やるせない気持ちが込み上げる。
こんなことをされて尚、キリアン様だと断定出来ない内はエリアス様にも言わないと言うのだ。
きっと今日の犯人がキリアン様だと判明しても、アシルは誰にも言わないのだろうと思った。
ならば僕はアシルの意思に従う。
それで少しでもアシルが傷つかなくて良いようにしてあげたい。
しかし翌日、僕たちを待ち構えていたのは侍女からの嫌がらせだった。
これまで無視していた数人の侍女は、あからさまに僕を蔑む態度を示すようになったのだ。
エリアス様がいない時というのは、これまでと変わらない。
しかし、昨日僕がヒートを起こしたと噂をしているのには違和感を覚える。
もしかして、噂話の根源はキリアン様なのか……。
「ぅわっ」
「アシル様、大丈夫ですか?」
「ロラ、ごめんなさい。急に服を掴んでしまいました」
「いえ、アシル様がご無事なら……」
廊下を歩いていると、掃除中の侍女から突然モップで足をかけられた。
見事に前を歩いていたロラに倒れ込む。
ロラは侍女をギロリと睨み、一喝した。
「ルシィ、アシル様に対してとんでもない行為。エリアス様に言いつけますよ? それに、何故今頃こんな所の掃除をしているのです?」
「ロラ、申し訳ありません。水を零してしまいましたの。アシル様がダイニングへ向かう通路なので、滑ってはいけないと思い拭いていました」
「では何故、あなたがこの通路に水を零したのかしら? アンナ様の部屋は正反対でしょう?」
「あ、あぁ……あはは……」
侍女のルシィは笑って誤魔化しながら走り去る。
「今のルシィとは?」
「アンナさま専属の侍女でございます。申し訳ありません。後でキツく叱っておきます」
「あ、いえ。そんな……」
ルシィ……どこかでも一度……。
そうだ、熱々のお茶を掛けたのも彼女だったと思い出す。
アンナ様は、自分の手は汚さないという訳か。
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