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一章~伊角光希編~
14 初デート
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エリアス様は翌日に休みを捥ぎ取ったと言って、本当にずっとアシルの部屋で過ごしてくれた。
夕食も美味しく食べられた。
この世界に来てから、初めて食べ物の味が感じられたように思う。食事は豪華だけれど、ここに異世界っぽさはなく、イメージ通りの貴族の食事といった感じだ。
品良く食べるのは難しいけど、味わえるととっても美味しい。ひと口ひと口に舌鼓を打つ。
最初こそ、表情が読み取れないエリアス様を少し怖いと感じていたが、こうして見ればこんなに可愛らしい人はいない。自分の気持ちをストレートに伝えてくれるし、僕に甘えるように身体を寄せたりもする。
この部屋で過ごすエリアス様が、自然体でいてくれるからそう思うのかもしれない。
日頃は常に気を張りつめているからこそ、僕にしか見せない顔があるのを、誇らしいとさえ感じさせてくれる。
二人きりの時間は実に穏やかに過ぎていく。
部屋を訪れたロラに、エリアス様が「棚の上にお置いてあった香炉はどうした?」と聞いた。
香炉とは、お香を焚く時に使うもので、確かに棚の上に置かれていた。
『僕がお香を焚くのが好きだって言った後、エリアス様が揃えてくださったものだよ』
脳にアシルが話しかける。
そういえばアシルが甦った時に、僕が暴れて小さな陶器を落としてしまった気がする。大切な物だったんだ。
あの頃は何もかもに必死で、自分意外の事を見る余裕がなかった。気づかなかったにしても、悪いことをしてしまったと反省する。
アシルは仕方ないよと、言ってくれた。
「アシル、今日は新しい香炉を買いに出かけよう」
「いいんですか?」
「勿論だ。私もお香を焚くのは好きだし、アシルの選ぶ香りはいつもいい香りで心が安らぐ。君と二人で同じ趣味を分かち合える、そんな大切な時間を奪われるのは、不甲斐ないだろう?」
エリアス様は、日常会話の中にも愛の囁きを練り込んでくる。
アシルにとってはもう慣れっこかもしれないが、僕はまだ慣れそうにない。
それでもずっと屋敷の中から出られなかったから、街に出られるのが楽しみでしかたない。
ソワソワしているのが顔に出ていたらしく、エリアス様は微笑んで「可愛らしい」と繰り返し言うのだった。
朝食の後、僕たちは直様、馬車に乗り込む。
馬車に乗る日が来るなんて!!
窓を少しの間だけ開けさせてもらい、外を眺める。
「本当に、何の記憶もないんだね。馬車など、珍しいものでもないのに」
エリアス様ははやる気持ちを抑えられていない僕を見て、目を丸くしている。
ベルクール公爵邸は、街から少し離れた場所にあるらしく、緩やかな坂を随分と下って行った。そしてその先にようやく民家は並び始める。
住宅街を抜け、街の中心部に着くと、いろんなお店が並び、どこもお客さんで賑わっていた。
街に着く頃には窓を閉めるよう言われていたが、何もかもが目新しく新鮮で、つい忘れてしまっていた。エリアス様も、あまりに僕が楽しそうだから、注意し損ねたようだ。
街中に植えられた花や木が青々と育ち、花は色とりどりに咲いていてる。
僕が転生した世界は、とても美しいんだ。
この世界でエリアス様と共に生きていく人生、悪くないよね? と心を躍らせる。
エリアス様は、僕が好きそうな香炉をいくつか提案してくれ、僕がイメージするアシルっぽいものを一つ選んだ。
水色の丸い形の陶器製のものだ。
一緒に新しいお香も何種類か購入し、帰ってから楽しもうと話した。
街での買い物は楽しすぎて、ずっと頭を支配していたアンナ様とキリアン様のことを忘れることができた。
夕食も美味しく食べられた。
この世界に来てから、初めて食べ物の味が感じられたように思う。食事は豪華だけれど、ここに異世界っぽさはなく、イメージ通りの貴族の食事といった感じだ。
品良く食べるのは難しいけど、味わえるととっても美味しい。ひと口ひと口に舌鼓を打つ。
最初こそ、表情が読み取れないエリアス様を少し怖いと感じていたが、こうして見ればこんなに可愛らしい人はいない。自分の気持ちをストレートに伝えてくれるし、僕に甘えるように身体を寄せたりもする。
この部屋で過ごすエリアス様が、自然体でいてくれるからそう思うのかもしれない。
日頃は常に気を張りつめているからこそ、僕にしか見せない顔があるのを、誇らしいとさえ感じさせてくれる。
二人きりの時間は実に穏やかに過ぎていく。
部屋を訪れたロラに、エリアス様が「棚の上にお置いてあった香炉はどうした?」と聞いた。
香炉とは、お香を焚く時に使うもので、確かに棚の上に置かれていた。
『僕がお香を焚くのが好きだって言った後、エリアス様が揃えてくださったものだよ』
脳にアシルが話しかける。
そういえばアシルが甦った時に、僕が暴れて小さな陶器を落としてしまった気がする。大切な物だったんだ。
あの頃は何もかもに必死で、自分意外の事を見る余裕がなかった。気づかなかったにしても、悪いことをしてしまったと反省する。
アシルは仕方ないよと、言ってくれた。
「アシル、今日は新しい香炉を買いに出かけよう」
「いいんですか?」
「勿論だ。私もお香を焚くのは好きだし、アシルの選ぶ香りはいつもいい香りで心が安らぐ。君と二人で同じ趣味を分かち合える、そんな大切な時間を奪われるのは、不甲斐ないだろう?」
エリアス様は、日常会話の中にも愛の囁きを練り込んでくる。
アシルにとってはもう慣れっこかもしれないが、僕はまだ慣れそうにない。
それでもずっと屋敷の中から出られなかったから、街に出られるのが楽しみでしかたない。
ソワソワしているのが顔に出ていたらしく、エリアス様は微笑んで「可愛らしい」と繰り返し言うのだった。
朝食の後、僕たちは直様、馬車に乗り込む。
馬車に乗る日が来るなんて!!
窓を少しの間だけ開けさせてもらい、外を眺める。
「本当に、何の記憶もないんだね。馬車など、珍しいものでもないのに」
エリアス様ははやる気持ちを抑えられていない僕を見て、目を丸くしている。
ベルクール公爵邸は、街から少し離れた場所にあるらしく、緩やかな坂を随分と下って行った。そしてその先にようやく民家は並び始める。
住宅街を抜け、街の中心部に着くと、いろんなお店が並び、どこもお客さんで賑わっていた。
街に着く頃には窓を閉めるよう言われていたが、何もかもが目新しく新鮮で、つい忘れてしまっていた。エリアス様も、あまりに僕が楽しそうだから、注意し損ねたようだ。
街中に植えられた花や木が青々と育ち、花は色とりどりに咲いていてる。
僕が転生した世界は、とても美しいんだ。
この世界でエリアス様と共に生きていく人生、悪くないよね? と心を躍らせる。
エリアス様は、僕が好きそうな香炉をいくつか提案してくれ、僕がイメージするアシルっぽいものを一つ選んだ。
水色の丸い形の陶器製のものだ。
一緒に新しいお香も何種類か購入し、帰ってから楽しもうと話した。
街での買い物は楽しすぎて、ずっと頭を支配していたアンナ様とキリアン様のことを忘れることができた。
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