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緊急事態
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グルニスランへ向かいながらザックリとした話が聞けた。
王女様が突然バース性を発症し、Domの召使いにバレてしまったらしい。
抑制剤はまだ副作用の面から、できるだけ服用は避けた方がいいらしく、城内は王女様の部屋に誰も近づかないよう指示を出しているとのことだった。
まだ若干十歳での発症。
殆どがDomの城内だから、隔離するのも大変だろう。それに、大の大人が子供を襲ったなんて事件が起きるのも防がなければいけない。
「Lien、デミゴットになる訓練は捗ってる?」
一言で理解した。王女様の発症を抑えてほしいのだと。
「まだ完璧ではないですが、多分大丈夫です。何がなんでも王女様を救います」
ジェネシスさんが力強く頷く。
グルニスランへ入った。
街を避けて城へと向かう。
使用人用の裏口から入り、王女様の部屋まで駆けて行った。
「俺が一緒に来れるのはここまでだ。王女様はSub性がカナリ強い。パートナーのいる俺でもフェロモンが届いてしまう」
Subの俺には分からないが、専属の召使いまでもが近づくなと言っているあたり、相当なものだろう。
ジェネシスさんは今からフェロモンに当てられたDomの使用人たちのフォローにあたると言った。医務室にいた医者が来ていて、助っ人に入るとのことだった。
(王女様の部屋に入る前にデミゴットの姿になっておこう)
ドアの前で意識を集中させる。
大丈夫、絶対に成功してみせる。
王女様を助けたい。俺みたいな辛い思いは経験して欲しくない。
Subだから辛さを理解してあげられる。この辛さが役に立つなんて想像もしていなかったが……。
デミゴット覚醒のためのエネルギー源は、怒りや悲しみからだけではない。誰かを救いたい。そんな気持ちもパワーとなってくれる。
訓練の時よりも素早くデミゴットになれた。
『オ見事デス。リアン様』
「エーテル!! 来てくれたんだね」
『遣イ獣、ドコニデモ、ツイテ行キマス』
「そっか! じゃあ、ドアを開けるよ!」
ジェネシスさんが廊下の角を曲がり、十分距離が開いたのを確認すると、「よしっ!」と自分に気合いを入れた。
絶対に王女様の発症を鎮めてみせる。
ノックし室内へと入ると、ベッドで苦しそうに踠いている王女様がいた。
その息遣いだけでも、胸が締め付けられる。こんな小さな体で発症と戦っているのだ。
とにかく直ぐに祈り始める。
etherが王女様を大きな羽で包み込んだだけでも、少し落ち着きを見せた。
(王女様の発症を鎮めて!!)
今回は念の力の入れ方もコントロールできた。
王女様の呼吸が落ち着いたのを確認すると、etherが離れた。
「あなたは……?」
呼吸の整った王女様が上肢を起こし、不思議そうに尋ねた。
突然の出来事に、状況を理解できないようであった。
「俺は、デミゴットです。王女様の発症を鎮静させました。もう、安心ですよ」
こんな子供でもデミゴットの存在は知っているようだ。途端に瞳を煌めかせ、身を乗り出した。
「ありがとうございます!! 私、突然の発症に驚いてしまいまして……お見苦しい姿を、どうかお許しください」
謝罪しながら会釈をする。
十歳とは思えないしっかりとした言動や立ち振る舞いは流石、王族といった感じがする。
それに、自分がSubであるが故、両親に見捨てられたとも理解していた。
「でも私はお父様たちを憎んだり、恨んだりしておりません。仕方のないことですので」
「王女様、Subだからって全てを諦める必要はありませんよ」
「……っ!! デミゴット様……」
「あなたも、幸せになる権利があるのです。ヴァシリカの方たちが、きっと良い方向へ導いてくれるでしょう。今は信じて待っていてください。また発症すれば私が何度でも鎮静いたします」
王女様は大きな瞳いっぱいに涙を溜め、消えそうな声でもう一度「ありがとう」と言った。
やはり自分のSub性にショックをけていたのだろう。
でもひた隠しにし、一人で耐えていたのだ。誰にも迷惑をかけてはならないと。
俺だって何度このバース性を恨んだか分からない。この先は苦労しかないと思っていた。
でもジェネシスさんと出会って、Subでも幸せになれると、身をもって知ることができた。
Subの苦しみを分かった王女様なら、きっと他人の痛みにも手を差し伸べられるだろう。
逃げた国王なんかよりもずっと、頼もしい女性になる。
「グルニスランのために、最善を尽くして下さっているヴァシリカの皆様に、感謝しないといけませんわね」
泣きながら、なんとか笑おうとしているのに救われた。
(この国はきっと大丈夫)だと、確信めいたものを感じた。
その後、俺とetherはしばらくの期間王女様のために城に滞在することが決まった。
後から到着したサミュエルさんとジョシュアも、王女様の世話役としてここにとどまると申し出たらしい。
その間は誰もが然るべき行動を取って過ごした。忙しくて寂しさを感じる暇もなかったが、その方が良かった。
ジョシュアは王女様相手でも態度を変えたりしない。それが王女様は嬉しかったらしく、二人一緒によく笑っていた。
それから十日以上経った頃、久しぶりに会えたジェネシスさんから、やっとグルニスランの今後の全てが決定したと伝えられた。
王女様が突然バース性を発症し、Domの召使いにバレてしまったらしい。
抑制剤はまだ副作用の面から、できるだけ服用は避けた方がいいらしく、城内は王女様の部屋に誰も近づかないよう指示を出しているとのことだった。
まだ若干十歳での発症。
殆どがDomの城内だから、隔離するのも大変だろう。それに、大の大人が子供を襲ったなんて事件が起きるのも防がなければいけない。
「Lien、デミゴットになる訓練は捗ってる?」
一言で理解した。王女様の発症を抑えてほしいのだと。
「まだ完璧ではないですが、多分大丈夫です。何がなんでも王女様を救います」
ジェネシスさんが力強く頷く。
グルニスランへ入った。
街を避けて城へと向かう。
使用人用の裏口から入り、王女様の部屋まで駆けて行った。
「俺が一緒に来れるのはここまでだ。王女様はSub性がカナリ強い。パートナーのいる俺でもフェロモンが届いてしまう」
Subの俺には分からないが、専属の召使いまでもが近づくなと言っているあたり、相当なものだろう。
ジェネシスさんは今からフェロモンに当てられたDomの使用人たちのフォローにあたると言った。医務室にいた医者が来ていて、助っ人に入るとのことだった。
(王女様の部屋に入る前にデミゴットの姿になっておこう)
ドアの前で意識を集中させる。
大丈夫、絶対に成功してみせる。
王女様を助けたい。俺みたいな辛い思いは経験して欲しくない。
Subだから辛さを理解してあげられる。この辛さが役に立つなんて想像もしていなかったが……。
デミゴット覚醒のためのエネルギー源は、怒りや悲しみからだけではない。誰かを救いたい。そんな気持ちもパワーとなってくれる。
訓練の時よりも素早くデミゴットになれた。
『オ見事デス。リアン様』
「エーテル!! 来てくれたんだね」
『遣イ獣、ドコニデモ、ツイテ行キマス』
「そっか! じゃあ、ドアを開けるよ!」
ジェネシスさんが廊下の角を曲がり、十分距離が開いたのを確認すると、「よしっ!」と自分に気合いを入れた。
絶対に王女様の発症を鎮めてみせる。
ノックし室内へと入ると、ベッドで苦しそうに踠いている王女様がいた。
その息遣いだけでも、胸が締め付けられる。こんな小さな体で発症と戦っているのだ。
とにかく直ぐに祈り始める。
etherが王女様を大きな羽で包み込んだだけでも、少し落ち着きを見せた。
(王女様の発症を鎮めて!!)
今回は念の力の入れ方もコントロールできた。
王女様の呼吸が落ち着いたのを確認すると、etherが離れた。
「あなたは……?」
呼吸の整った王女様が上肢を起こし、不思議そうに尋ねた。
突然の出来事に、状況を理解できないようであった。
「俺は、デミゴットです。王女様の発症を鎮静させました。もう、安心ですよ」
こんな子供でもデミゴットの存在は知っているようだ。途端に瞳を煌めかせ、身を乗り出した。
「ありがとうございます!! 私、突然の発症に驚いてしまいまして……お見苦しい姿を、どうかお許しください」
謝罪しながら会釈をする。
十歳とは思えないしっかりとした言動や立ち振る舞いは流石、王族といった感じがする。
それに、自分がSubであるが故、両親に見捨てられたとも理解していた。
「でも私はお父様たちを憎んだり、恨んだりしておりません。仕方のないことですので」
「王女様、Subだからって全てを諦める必要はありませんよ」
「……っ!! デミゴット様……」
「あなたも、幸せになる権利があるのです。ヴァシリカの方たちが、きっと良い方向へ導いてくれるでしょう。今は信じて待っていてください。また発症すれば私が何度でも鎮静いたします」
王女様は大きな瞳いっぱいに涙を溜め、消えそうな声でもう一度「ありがとう」と言った。
やはり自分のSub性にショックをけていたのだろう。
でもひた隠しにし、一人で耐えていたのだ。誰にも迷惑をかけてはならないと。
俺だって何度このバース性を恨んだか分からない。この先は苦労しかないと思っていた。
でもジェネシスさんと出会って、Subでも幸せになれると、身をもって知ることができた。
Subの苦しみを分かった王女様なら、きっと他人の痛みにも手を差し伸べられるだろう。
逃げた国王なんかよりもずっと、頼もしい女性になる。
「グルニスランのために、最善を尽くして下さっているヴァシリカの皆様に、感謝しないといけませんわね」
泣きながら、なんとか笑おうとしているのに救われた。
(この国はきっと大丈夫)だと、確信めいたものを感じた。
その後、俺とetherはしばらくの期間王女様のために城に滞在することが決まった。
後から到着したサミュエルさんとジョシュアも、王女様の世話役としてここにとどまると申し出たらしい。
その間は誰もが然るべき行動を取って過ごした。忙しくて寂しさを感じる暇もなかったが、その方が良かった。
ジョシュアは王女様相手でも態度を変えたりしない。それが王女様は嬉しかったらしく、二人一緒によく笑っていた。
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