上 下
83 / 86
9 学園祭

9-11

しおりを挟む
「裁縫だったら私好きだよ?」

 手を上げてくれたのは委員長だった。

「マジで!」

 紗絵の歓喜が音となって飛ぶ。

「うん、一番上の姉ちゃんがお芝居やっててさ。衣装とか持って来てるの手伝ってる内に、出来るようになった」
「じゃあ決まりじゃん? お菓子とかは、他の女子巻き込んで何とかやるから、委員長はそっちに回ってよ」

 道子の意見に、紗絵も首を縦に振る。

「うん、分かった」
「大体決まったんなら、もう帰っていいか?」

 話の腰を折るように川口君が声を出す。

「ちょっと川口、あんたもちょっとは協力的な態度見せなさいよ」
「こっちはサッカー部の方とかもあるんだから、クラスだけに構っていらんねぇんだよ」

 道子の正論に、川口君から正論が返って来る。どちらにも正義があるのだろうが、端から聞いてる限りでは、道子に分があるだろう。

「サッカー部の方とかって、他に何かあんの?」

 委員長の質問に、川口君は得意気に鼻を鳴らした。

「俺今年は、有志でバンドやろうと思ってる訳よ。俺がボーカルでよぉ、何人かもう目星付けてんだけど、そっちの練習もしなきゃいけねぇんだよ」
「あんたがバンド? しかもボーカル? うわぁ、無いわぁ~」

 道子の歯は、全裸でも全く気にしないようだ。

「おいこら佐藤!」
「だってよ? 仮にも皆の前で歌うのよ? 歌唱力はともかく、それこそそこそこのルックスはあってしかるべきじゃない? ねぇ、和葉?」
「どうして私に振るのよ?」

 道子のニヤニヤ顔の奥が、私にだけは明け透けに分かる。だけど、ここで話題に出せる訳が無いので、当然知らんぷりを決め込む。

「ねぇ川口、その有志のバンドってさ、まだ応募掛けてるのかな?」

 会話を引き継いだのは紗絵だった

「あ? さぁ、生徒会に聞いてみたら分かんじゃね?」
「つまり、生徒会に聞いてみないと分からないか。まぁ、いいや」
「紗絵、あんたバンドに興味あんの?」
「ん~、まぁね~」

 道子の問いかけに対し、紗絵は曖昧に返事をするが、あのライブの夜から、彼女の心に火が灯っていたとしても何もおかしくは無いと、私は密かに思っていた。
 玲央君の歌声が、様々な所に飛び火して行く。勿論、私にも。それが、とても嬉しい。反面、理音のような女の子もいる事を考え、苦しくもある。
 ともすればすぐ落ちそうになる弱い自分を振りほどくべく、紗絵に話しかけた。

「ところで紗絵、私は何をすればいいの?」
「友野はあれだろ? 癒し担当大臣って奴だろ?」

 茶化すように下卑た笑いを浮かべる川口君に対し、川口うぜぇと声を出したのは道子だった。

「ん~、和葉の出番は、もうちょっと後かな。衣装のモデルとか、色々考えてたけど、ちょっと、あんたの使いどころ他に出来たかも」
「使いどころって?」
「本決まりになったらまた言うわ」

 紗絵が怪しげな笑みを、珍しく手弱かに浮かべた所で、教室のドアが静かに開いた。

「和葉ちゃ~ん」

 呼ばれて振り向くと、教室の入り口に理音が立っていた。

「さ、笹村?」

 私の代わりに驚きの声を上げたのは、他ならぬ川口君だった。

「あら、川口君、お久しぶりね」
「お、おう、笹村も、元気だったか?」
「ええ」

 川口君は照れくさそうに理音に返事をしたが、理音はそんな川口君をさらりと流し、私に話しかけて来た。

「和葉ちゃん。昨日はメールありがとう。あのね、理音、お友達になった人の写真、携帯に入れてるんだ。それでね、6組の前通ったら、たまたま和葉ちゃん見つけたの。今、時間貰ってもいい? 携帯で写真撮りたいんだけど?」
「笹村さんだっけ? 見て貰ったら分かると思うんだけどさ、今うちらのクラス会議の真っ最中なんだよね? 悪いんだけど、部外者は出て行って貰えないかな?」

 柔らかい笑みを浮かべる理音に、舌鋒鋭い言葉を飛ばしたのは紗絵だった。
 理音はその言葉に一瞬戸惑うように目線を移したが、あら、ごめんなさい、気付かなかったわ、と可愛らしく笑って、悪びれもせず、楚々とした立ち居振る舞いで教室を出て行った。

「和葉ちゃん、みっちゃん、時間ある時に、またね」

 そう言ってドアが閉められた途端、紗絵が深い溜め息をつく。

「おい鈴原、あんな言い方ねぇだろ?」

 川口君が先程の紗絵の言葉使いに突っかかる。

「ああ、悪い、反省してる。流石にちょっと言い過ぎたかもしれないとは思わなくもないかもしれない」

 紗絵はあからさまな言葉だけの反応を見せると、顔をパンと叩いて、んじゃ、続きだけど、と話と空気を元に戻した。
 若干困惑したままの私にこそっと、道子が言葉を掛けてくれる。

「ねぇ、紗絵と理音、合わないって言ったでしょ?」

 その言葉に、これまたこっそりと首を縦に動かす。
 教室の窓からは夕陽が射しこみ、教室内の机や椅子の影を床に落とす。
 今後の大まかなスケジュールと、次回の会議の日程を組んで、この日はお開きとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

処理中です...