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9 学園祭

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 ――不思議な子だな~……。

 悪い子だとは思えない。
 だけど、彼女と仲良く、スムーズにお話ししている自分を想像する事は、残念ながら今の私には難しかった。

 ――けど、ああ言う女の子が、男の子は好きなのかな?

 思わず、大きな溜息が出た。
 何だか疲れた、もう帰ろうと、ふと顔を上げた瞬間、実用コーナーに置かれていた、一冊の本のタイトルが目に飛び込んできた。

『必見! 男を手玉に取る100のテクニック』

 実用コーナーに置いてあると言う事は、実用するべき事柄なのだろうか?
 一瞬手を伸ばしかけて、やっぱり手にするのをやめた自分を、今はまだ、賢明だと思いたい。



『ふんふん、成程ね。それで、紗絵ちゃんが珍しく気落ちしてるって事か~』

 帰宅後、どうしても心の靄を払い切れなかった私は、まるで助けを求めるように、順哉さんに電話を掛けた。
 一通り事情を説明したのだが、私の思いとは裏腹に、携帯の向こう側の順哉さんは、随分と楽しそうな口ぶりである。

「事か~、じゃないですよ~。紗絵があんなに凹んでるのなんて初めて見たし、何とか、不自然にならないように元気づけてあげて貰えませんか?」
『ん~、上手く出来るかは分からないけどね、とりあえず、後で一本メール打っておくよ』
「お願いします」
『それより、普段クール気取ってる癖に、熱くなると暴走しちゃうなんて、紗絵ちゃんも随分可愛いとこあるんだね』
「それは是非本人に言ってあげて下さい。きっと喜びますよ」
『え~? 紗絵ちゃんに、可愛いって言って喜ぶかな~?』
「喜ぶに決まってるじゃないですか、紗絵だって女の子なんですよ。口では何言ってても、可愛いって言われて、喜ばない女の子はいません」

 どんなに表面とのキャラが違っていても、可愛いと形容されたり、女の子扱いされたりして、心の底から嫌がる女の子なんて、ほぼ皆無と言っていい。この辺りを理解していない男の子が世の中には多過ぎる。誠に遺憾である。
 ましてや相手は紗絵なのだ。順哉さんに言われたら、嬉しいに決まってるじゃないか、と言う言葉は、後々の紗絵の名誉の為にも、私の口からは控えておく事にする。

『それもそっか。そんじゃ、和葉ちゃんの期待に添えられるように、何とか頑張ってみますか』
「よろしくお願いします」

 電話口から祈りの電波を送り込み、携帯を切る。

「……はぁ~あ~」

 身体をうんと伸ばし、溜息を思いっきり吐きながらベッドに倒れ込んだ。そのまま、枕を抱え込んでベッドの上で丸くなる。
 紗絵の落ちた気を持ちあげられるよう、私なりに色々考えてみたのだが、結局順哉さんに協力を要請する事しか思いつかなかった。
 他人任せになってしまい非常に申し訳無いが、順哉さんが上手くやってくれる事を切に願う。
 それと同時に、何も出来ない不甲斐無い自分にますます溜息が出る。
 沈んだ気持ちを紛らわせる為、買って来た文庫本に手を伸ばし、ゆっくりとページを繰ってみる事にする。だけれども、文章を流して読む事は出来ても、内容はさっぱり頭に入ってはこなかった。

「和葉~、ご飯出来たわよ~」
「は~い! 今行く~」

 階下から聞こえて来た母の呼び声に返事をする。
 読み始めた文庫本は栞を挟まずに閉じ、携帯だけを持って居間へと向かった。
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