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4 夏休み

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 電車を降り、二人連なって改札を潜り抜ける。
 幸か不幸か、車内の混雑は二駅程ですぐに解消を見せた。だが、玲央君は相変わらずヘッドホンを付けたままであり、私も身体の火照りが冷める事は無く、結局、終始言葉を交わす事は無かった。
 ここ最近この地域を覆っていた熱気も、今夜は大人しい。気温は高くても、心地よい風も吹いており、比較的過ごしやすい日和だった。
 玲央君は、改札を潜り抜けると、私へ一瞥もくれずに帰路へつこうとしたので、それを無我夢中で引きとめた。
 彼はこちらへ振り向いて、自身のTシャツの裾を摘んでいる女、つまり私の事を訝しげに見つめた。

「送って!」

 ヘッドホン越しでも届く程の大きな声を出した私に向け、より一層眉根を寄せる。
 だが、そこで彼の耳からヘッドホンを外させる事に成功した。

「……お前、この間は別にいいって」
「今日は、送って欲しい気分なの」
「お前の気分に俺を付き合わせるな」
「だって……」

 暫しの逡巡、そして、この際もうまどろっこしい事は止めようと、私は自分の思いをぶちまけた。

「だって、今日の玲央君なんかおかしいんだもん。打ち上げの時もずっとぶすっとしてるし、何かあったんじゃないかって、気になるじゃん!」

 そう言い放った後に、照れ隠し程度に言葉を付け加える。

「って、お姉ちゃんが言ってて……」
「キコさんが?」

 お姉ちゃんの名前を聞いた途端、訝しげに寄っていた彼の眉根は、若干の緩みを見せた。

「うん。だから、何か、悩みとかがあるんなら、話してよ」

 そこまで言った時、ふと冷静になった私は、周囲の人々の好奇の視線に気がついた。夜の駅前で、年頃の女が男に叫んでいれば、興味が無くても目を引くだろう。

「ちょっと、場所変えない?」

 彼もこの状況は本意では無いのだろう。私の提案は無事に玲央君の首肯を得て、一先ず私の家の方向へと歩みを進めた。
 暫く並んで歩いていたが、玲央君が口を開く様子は無い。だけど、ヘッドホンは首に下げられている為、彼の耳にはまだ私の言葉が届く。

「商店街抜けてすぐの所に、公園があるんだ。ちょっと寄ってかない?」

 玲央君の目を見つめながらそう言うと、彼は渋々と言った風ではあったが、首を縦に振ってくれた。
 まだ華やかさを保っている商店街の人通りは少なくない。
 先程の事もあってか、私の心臓はまだ通常時の落ち着きを見せてはいなかった。

 ――私達、どういう風に見られてるんだろう?

 熱に浮かされた頭がなせる業か、普段意識をしていなかった男の子と歩いているだけなのに、周囲の目が気になる。
 こんな些細な事で、恋の花は蕾を付けるのだろうか?
 ならば、花を咲かせず散っていく蕾は、きっと星の数ほどあるだろう。

 ――って、それじゃまるで……。

 それじゃまるで、私が玲央君を意識してるみたいじゃないか?
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