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第五章 特訓開始
第五章 第二幕
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***
そして、朝を迎えた。
「こんのぶぁっかやろう共があああああ!!」
朝一番の厩舎中に、ジラザの怒号が響き渡った。建物は大いに揺れ、周囲の木々からは小鳥が飛び立ち、草原を走る動物達は一瞬停止し、何事かと厩舎の方を一斉に見つめたと言う。
結局二人は、厩舎に戻った直後、襲って来た睡魔に敗北を喫するに至った。睡魔の強烈な魔力に屈し、夢の世界へと縛り付けられた二人を起こしに来た華瑠に対し、ルティカが寝ぼけて、
「ん~、もうちょっと寝かせてよ。一晩中飛んでて寝てないんだから」
などと言ってしまったものだから、それが巡り巡ってジラザの耳にも入ってしまったのだ。
当然の如く二人はジラザから、とてつもなく大きな目玉を頂戴する事となる。
「夜間飛行は禁止だって知ってんだろうが! 何やってんだてめぇら!」
ジラザの怒鳴り声に対し、裸足で逃げ出した睡魔達を尻目に、ルティカは赤い目のままお説教を受けていた。隣には殊勝な態度のバラクアが、同じように神妙に座り込んでいる。
「だって、バラクアが……」
「だってもクソもあるか! お前ら二人は契約交わしてんだろうが! 連帯責任だ!」
そう言うと、ジラザはルティカの頭に拳骨を、バラクアの腹部にボディーブローを食らわせた。
「すいません、オーナー……」
身悶えするバラクアは、ネイバー越しにそう呟いた。
ルティカはと言えば、悶絶して転げ回りながら、零れ落ちそうな涙と叫び声を必死で堪えている。きっとこれから3日程の間は、身長が3ミリ程度高くなっている事うけあいだろう。
「ったくよぅ。いいかお前ら、この事は絶対誰にも言うんじゃねぇぞ! 外部に漏れたら大変な事になりやがるからな。分かったな!」
二人は悶絶をしながら、首肯を繰り返す。徐々に回復して来たのか、二人とも悶絶しながら、ゆっくりと身体を起こし始めた。
「そんで、二人っきりの夜間飛行で、何か掴んだのか?」
ジラザはテーブルの上の葉巻を一本咥え、火をつける前に尋ねた。
一転して、ルティカは瞳を輝かせながらジラザに、ずいと詰め寄る。
「おっちゃんおっちゃん! 私決めたの! ベートを絶対ぶっつぶすって! だからお願いします! レースに出さしてくだむぎゅ!」
意気揚揚と迫るルティカの頭をぐりぐりと押さえつけ、ジラザは空いた方の手で悠々と葉巻に火をつけた。
「いだだだだだだ! おっちゃん、そこ駄目! 痛いったら! そこぐりぐりしないで!」
ルティカは泣きそうな声を上げながら、身長が僅かに伸びている部分にダメージを与え続けるジラザへ懇願する。
ジラザはゆっくりと吸い込んだ煙を、一つたっぷりと吐いた後に、ルティカの頭から手を放して呟いた。
「なぁルティカ、ぶっつぶすだのどうだのはいいんだよ。分かってんだろ? 問題は、どうやって、ぶっつぶすかなんだよ」
核心を突いたジラザの言葉に、ルティカは思わず黙ってしまう。
意気込みだけでは何も変わらない。
気持ちを新たにしたとしても、結局は何も策が見つかってないのが現状だ。
奥歯を噛み締めるルティカの表情を眺め、一つ鼻息を鳴らしたジラザは、何処にいるか分からない華瑠に向けて、大声で呼び掛けた
「おーい華瑠、昨日言ってたあれー、届いてるかー?」
遠くの方から、華瑠の声が微かにこちらに届く。
そして、朝を迎えた。
「こんのぶぁっかやろう共があああああ!!」
朝一番の厩舎中に、ジラザの怒号が響き渡った。建物は大いに揺れ、周囲の木々からは小鳥が飛び立ち、草原を走る動物達は一瞬停止し、何事かと厩舎の方を一斉に見つめたと言う。
結局二人は、厩舎に戻った直後、襲って来た睡魔に敗北を喫するに至った。睡魔の強烈な魔力に屈し、夢の世界へと縛り付けられた二人を起こしに来た華瑠に対し、ルティカが寝ぼけて、
「ん~、もうちょっと寝かせてよ。一晩中飛んでて寝てないんだから」
などと言ってしまったものだから、それが巡り巡ってジラザの耳にも入ってしまったのだ。
当然の如く二人はジラザから、とてつもなく大きな目玉を頂戴する事となる。
「夜間飛行は禁止だって知ってんだろうが! 何やってんだてめぇら!」
ジラザの怒鳴り声に対し、裸足で逃げ出した睡魔達を尻目に、ルティカは赤い目のままお説教を受けていた。隣には殊勝な態度のバラクアが、同じように神妙に座り込んでいる。
「だって、バラクアが……」
「だってもクソもあるか! お前ら二人は契約交わしてんだろうが! 連帯責任だ!」
そう言うと、ジラザはルティカの頭に拳骨を、バラクアの腹部にボディーブローを食らわせた。
「すいません、オーナー……」
身悶えするバラクアは、ネイバー越しにそう呟いた。
ルティカはと言えば、悶絶して転げ回りながら、零れ落ちそうな涙と叫び声を必死で堪えている。きっとこれから3日程の間は、身長が3ミリ程度高くなっている事うけあいだろう。
「ったくよぅ。いいかお前ら、この事は絶対誰にも言うんじゃねぇぞ! 外部に漏れたら大変な事になりやがるからな。分かったな!」
二人は悶絶をしながら、首肯を繰り返す。徐々に回復して来たのか、二人とも悶絶しながら、ゆっくりと身体を起こし始めた。
「そんで、二人っきりの夜間飛行で、何か掴んだのか?」
ジラザはテーブルの上の葉巻を一本咥え、火をつける前に尋ねた。
一転して、ルティカは瞳を輝かせながらジラザに、ずいと詰め寄る。
「おっちゃんおっちゃん! 私決めたの! ベートを絶対ぶっつぶすって! だからお願いします! レースに出さしてくだむぎゅ!」
意気揚揚と迫るルティカの頭をぐりぐりと押さえつけ、ジラザは空いた方の手で悠々と葉巻に火をつけた。
「いだだだだだだ! おっちゃん、そこ駄目! 痛いったら! そこぐりぐりしないで!」
ルティカは泣きそうな声を上げながら、身長が僅かに伸びている部分にダメージを与え続けるジラザへ懇願する。
ジラザはゆっくりと吸い込んだ煙を、一つたっぷりと吐いた後に、ルティカの頭から手を放して呟いた。
「なぁルティカ、ぶっつぶすだのどうだのはいいんだよ。分かってんだろ? 問題は、どうやって、ぶっつぶすかなんだよ」
核心を突いたジラザの言葉に、ルティカは思わず黙ってしまう。
意気込みだけでは何も変わらない。
気持ちを新たにしたとしても、結局は何も策が見つかってないのが現状だ。
奥歯を噛み締めるルティカの表情を眺め、一つ鼻息を鳴らしたジラザは、何処にいるか分からない華瑠に向けて、大声で呼び掛けた
「おーい華瑠、昨日言ってたあれー、届いてるかー?」
遠くの方から、華瑠の声が微かにこちらに届く。
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