星になりたい

雑虫

文字の大きさ
上 下
3 / 4

エイティ

しおりを挟む

今日も僕は元気に遊びに出かけます。

いつもの住宅街を歩いていると、何やら宇宙服を着た不審な人が立っていました。

横を通り過ぎようとすると、不振な人は喋りかけてきました。
「こんにちは、僕の名前はエイティ」

「こんにちは」
見るからに怪しい人だったので挨拶をしてすぐ通り過ぎようとすると、不振な人は勝手に語りだしました。

「いつも公園に行く道はここを左に曲がって行くよね。でも今日は右に曲がってご覧。そうすれば君は急に出てきたトラックに引かれて死ぬ事が出来るよ。」

僕はとても不思議に思いました。なんでわざわざ死ぬ道を選ばなければならないんだろう。それに、この不審な人はなんでそんなことを知ってるんだろう。

「まだ死にたくないから左から行きます」
また歩き出そうとすると、不審な人はしつこく喋りかけてきます。
「本当にそっちでいいの?」

「死にたくないのはね、今のうちだけなんだよ。あともう10年もすれば君は死にたくて死にたくてたまらなくなってしまうよ。それに今ならなんの責任もなく死ねる最大のチャンスなんだ」

僕には不審な人の話が全く理解できませんでした。なんで僕はこんなに楽しいのに死んだ方がいいなんて言うんだろう。

「僕は今楽しいし、死にたいなんて思いません。それにもし僕が大人になって辛いことがあっても死ぬことはないと思います」
不審な人は無表情のまま質問します。
「どうしてそう思うんだい?」

「だって死んじゃったら辛いことも楽しいことも分からないから。10年後辛くても、20年後は幸せかもしれないから、辛い時に死んじゃったらもったいないって思います」

「20年後も、30年後も、この先ずーっと辛かったら?」
「それでも僕は死にたくないです。死んじゃったら今までの楽しい思い出も無くなっちゃうし、家族や友達とも会えない。それに…」
不審な人はピクリとも動かないまま言葉を待ちます。

「生きるってきっと、ものすごい幸せなことだから。辛いだけの人生なんて、ありえないと思います」
不審な人はしばらく黙っていましたが、また無表情のまま喋りだしました。
「…そうかい。なら左の道を進むといいよ。お話に付き合ってくれてありがとうね」

そう言うと不審な人はもう何も喋らず、僕が左の道に進むのを見送りました。

おしまい

「はぁ、またここに来ちゃったな。僕が何を言っても変わることはないのに。ん?じゃあなんで来たのかって?それはね」
じっと少年が曲がった道を眺めながら不審な人は呟きます。
「この時の彼の言葉が、とても美しいから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

せめく

月澄狸
現代文学
ひとりごと。

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

よるやことこと

小川葉一朗
ライト文芸
夜矢琴子は、とても普通の女の子だ。 友達、後輩、家族、知り合い。 人生の中で、普通の女の子、夜矢琴子と出会った若者たちの群像劇。 もし、一番印象に残っている人を挙げろと言われたら、それは彼女かもしれない。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...