うさぎのぬいぐるみのロン

みなみ美咲

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うさぎのぬいぐるみのロン

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 青色の綺麗なうさぎのぬいぐるみのロン。
 今から昔のロンのことについてお話をしていきます。




 4年前、ロンはもともと綺麗な真っ白の口角が上がったうさぎのぬいぐるみでした。おもちゃ屋の窓側に外が見えるように置かれていたのでした。




 外では子供たちの楽しそうな様子が見えます。
 ロンはまだ子供に遊んでもらったことが無いぬいぐるみでした。




 ある日、1人の小さな女の子がロンの方に寄ってきて、外からじーっとロンを見つめていました。




 女の子は数秒間ロンを見つめた後、どこかへ行ってしまいました。
 ロンはまた気に入ってくれなかったかと思っていると、さっきロンを見つめていた女の子が、1人の女性の手を引っ張りながら戻ってきました。




 女の子はその女性に何かを話しかけながらロンを指さしていました。
 女性は最初困った顔をしていましたが、途中から笑顔になっておもちゃ屋の店主を呼んで何か店主に話しかけていました。




 店主が店の中に戻ると、僕は店主にひょいと持ち上げられ店内の台へ置かれました。
 ロンは自分はもう売れ残りだから処分されるのかと思い、内心ビクビクしていました。




 すると、ロンは先ほどの女の子の腕に抱かれながら外の世界にいました。
 ロンはその女の子のぬいぐるみになったのでした。




 ロンは女の子と一緒に家に着きました。    女の子は小さな家に住んでおり先ほどの女性は母親だったのです。
 女の子の名前はルンちゃん、3歳の明るい子です。母親と2人暮らしでした。




 ルンちゃんの家は母子家庭だったため、母親が毎日お仕事をしていました。保育園へ行っていましたが、母親は夜も働いていたため、ルンちゃんは夜にお家で1人でいることが多かったのでした。
 ルンちゃんは毎日ロンを抱いたりロンに話しかけたりして、いつもロンのそばにいました。




 2年が経ったある日、母親は1人の男性を連れて家に帰ってきました。ルンちゃんは玄関へ母親を迎に行くと見知らぬ男性が家にやってきたので驚きました。
 母親はルンちゃんに新しい父親だと紹介されました。




 しかし、ルンちゃんはその男が自分のお父さんではなかったため、3人で一緒に暮らしてもその男に懐くことはありませんでした。
 男はなんとかルンちゃんに懐いてもらおうと優しくしていましたが、ルンちゃんが男に甘えることはなかったのでした。




 ある日母親が仕事で家にいなかったため、ルンちゃんは男と2人きりでした。
 男はルンちゃんと遊ぼうとロンを掴んでルンちゃんに近づきました。
 すると、ルンちゃんは
「私の大事なロンを触らないで!」
と男に怒りロンを男から奪い取りました。




 その時、今まで優しかった男が急にルンちゃんに怒鳴り散らしました。
「うるさいんだよ!こっちはお前の母親と2人で暮らしたいのに、お前が邪魔なんだよ!」
と男はルンちゃんに手を出そうとしたところ母親が帰ってきました。




 ルンちゃんの母親が帰ってきてびっくりした表情で
「大きい声出してどうしたの?外まで聞こえてたけど。」
と彼氏に聞きました。
 ルンちゃんは黙って逃げるように自分の部屋へ行きました。
 男はルンちゃんの母親に
「いや少しルンちゃんに注意しただけだよ。大したことないよ。」
少し動揺していましたが、上手く誤魔化しました。




 ルンちゃんはその夜、母親とお風呂に入りながら一緒に住んでる男のことについて母親に話そうとしました。
 しかし、ルンちゃんは今まで母親が男と楽しそうにしていた姿をことを思い出し、今日の男との出来事を話すことができませんでした。




 3人で暮らし始めてから1年経った頃、ルンちゃんの母親と男は喧嘩することが多くなりました。
 しばらくルンちゃんに対して怒ることがなかった男でしたが、また最近になって母親がいない時に怒鳴ることがありました。それはルンちゃんが悪いことをしたわけでもないのに理不尽にルンちゃんを怒鳴っていたのでした。




 もともと男と3人で暮らすようになってから、男が家でルンちゃんの面倒をみることになったため、ルンちゃんは保育園も辞めてしまいました。
 そのため、ルンちゃんは男からの嫌がらせを母親以外に誰にも相談する相手がいませんでした。母親に相談しようか何回も悩みましたが、男と喧嘩しても仲の良い日もあったため、心配かけたくない思いから相談できませんでした。




 ルンちゃんは、母親に男のことを相談できないまま日が経っていきました。
 男のルンちゃんに対する嫌がらせはエスカレートしていきました。
 いつしかルンちゃんはロンと2人きりの時に、ロンに対して男の愚痴や相談事を話すようになりました。
 しかし、ロンはぬいぐるみであるためルンちゃんを助けることができませんでした。話を聞くことしかできないロンは悔しい思いしかありませんでした。
 ロンに話しかけていたルンちゃんの表情は悲しくて辛そうで、怯えているような声でした。




 ある日ルンちゃんの母親は、仕事に行ったきり他に新しい男を作って家に帰って来なくなりました。
 ルンちゃんは男と2人暮らしになったことで、男からの嫌がらせは怒鳴りだけでなく暴力も増えました。




ルンちゃんは毎日、母親の元彼氏からの暴力により、体はボロボロになっていきました。それでもルンちゃんは毎晩ロンをギューと抱きしめながら
「ずっと一緒だからね。」
とロンに話しかけていました。
 ロンはそんな姿のルンちゃんを見て、悲しみと何もできない自分に腹立たしさが心に残る日々でした。




 次の朝、ロンを抱いて眠っていたルンちゃんを見て、男は突然ルンちゃんからロンを取り上げたのでした。
 男は近くにあった大きなハサミを持って「このぬいぐるみ汚ねえんだよ。」
と小声で言い、ロンを切り刻みました。




 ルンちゃんはそれを見て
「やめて!私の友達を傷つけないで!」
とロンを助けようと泣きながら男に近づきました。
 その時、男はハサミを持っている手でルンちゃんを払い除けたことで、ハサミの先がルンちゃんの喉に刺さってしまいました。




 ルンちゃんはその場で倒れて動かなくなりました。
 男は持っていたロンをルンちゃんに投げつけて、家を飛び出しどこかへ逃げてしまいました。




 その夜もルンちゃんを助けてくれる人は誰も来ませんでした。
 ロンはルンちゃんを助けることができないことに悔しさと悲しさを感じました。
 そして、不思議とロンの目から一粒の大きな涙が溢れました。
ルンちゃん、助けてあげることができなくてごめんね…。




 3日後、数人の大人が家の中に入って来て、ルンちゃんを連れてどこかへ行ってしまいました。
 ロンは別の大人に黒色のビニール袋に入れられてしまいました。




 その後ロンが気づいた頃には、以前とは別のおもちゃ屋さんで青色のうさぎのぬいぐるみとして綺麗になり売られていました。
 あのあとルンちゃんがどうなったかも男が見つかったかも分かりません。
 ロンはまた新しいぬいぐるみとして、新しい人を待っています。
 口角が下がったぬいぐるみを愛してくれるのでしょうか?
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