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噂を聞きまして
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「じゃあいってきます」
「いってらっしゃい、冬華」
玄関でそう母に言って家を出る。組員達が送迎すると言ってくれているが、この家から学校まで歩いて十分程度の距離だ。車を使う程の距離ではない。義兄達は使っているらしいが。
「待って冬華ちゃん!僕も一緒に行っていい?」
「秋久くん。もちろん」
小走りで私を追いかけてきた秋久に頷く。嬉しそうに笑った秋久は私の隣に並んだ。実は私と秋久の学校は同じなのだ。大きな学校なので秋久に言われるまで知らなかった。
二人並んで通学路を歩く。学校に近づくにつれ、生徒達が学校へと歩いている姿がちらほらと見えてきた。ここまではいつも通りの光景だ。しかし彼等の視線は私達に集中している。
「•••?」
「どうかしたの?冬華ちゃん」
「いや、なんか視線が集中してる気が•••」
私の顔を覗き込んできた秋久に言う。
「•••そう?いつもと変わらないと思うけど」
キョロ、と辺りを見渡した秋久はそう言って不思議そうな顔をした。
「なら気のせいかも」
「ふふ、冬華ちゃんったら」
秋久が楽しそうに笑う。周りの生徒達の視線がまた集中したのを感じる。どうやら視線は秋久に向いているようだ。怖いものを見たような、恐怖や不安が滲んだ視線だったのが気になるが秋久が気にしていないなら、と学校へと足を進めた。
「じゃあまたね、秋久くん」
「•••うん。また後でね、冬華ちゃん」
どこか渋ったような秋久に首を傾げながらも私は教室の扉を開けた。
「おはよう」
「冬華っ!?あんたいつの間に佐渡秋久と親しくなったの!?」
席に荷物を置き、声をかける。私の姿を見た慈雨(入学当初からの友人だ)が詰め寄って来た。普段は落ち着いた彼女からは考えられないその勢いに驚く。
「佐渡秋久はヤバい奴だって、気を付けなさいよって散々教えたじゃない!」
「ヤバい奴•••?」
秋久に似合わない言葉に首を傾げる。家族になってからずっと優しい秋久にヤバいところなんてなかった。むしろ義兄二人の方が色々ヤバいと思う。
「私が教えたこと忘れたの!?あんなに言ったのに•••!」
慈雨が頭を抱えて唸る。ごめんね、と言いかけた口は勢いよく起き上がった慈雨に驚いて閉じた。
「もう一度教えてあげるから、しっっっかりと聞きなさいよ!」
「うん」
「佐渡秋久は性格破綻者よ。笑って人を甚振るのが大好きで、目を付けられたら最後。その相手の情報は全部ネットの海に流出して終わり。平和に生きたいなら佐渡秋久と決して目を合わせるな、気配を消せ。この学校の生徒なら皆知ってるわ」
「•••性格、破綻者?」
慈雨から聞いた内容に目を丸くする。佐渡家に引っ越してから秋久とは交流があったが今聞いたような人ではなかった筈だ。甚振られるどころか結構優しく親切にしてもらっている。
性格だって【性格破綻者】と言われるようなところはないし、何なら義兄達の方が酷い。特に長男。
「だから近付いたらダメよ。私、冬華が酷い目に合うなんて絶対に嫌だもの」
む、と睨みつけながら告げられた言葉に眉を下げる。慈雨の気持ちは嬉しいが近付く近付かないの問題ではないのだ。だって私と秋久は家族だから。
「あー、あのね、慈雨」
「それから佐渡秋久の兄達も気を付けなさい。二年の方は不良グループのトップだし、三年の方は慕われているけど何か裏がありそうだし。二人ともいい噂は聞かないわ」
真実を伝えようとした瞬間、慈雨が言葉を被せる。話された内容はまぁ、理解できるがそれよりも義兄二人も同じ学校だったとは知らなかった。家を出る時間も違うし、そもそも彼等との会話がないのだから、知らなくても仕方ないと言えば仕方ないのかも。
「いい?佐渡三兄弟には、絶対に近付かないのよ。わかった?」
指を突き立てて私に言った慈雨に、私は苦笑しながら口を開いた。
「•••ごめん、慈雨。私、佐渡家の娘になったの」
「は?」
「佐渡三兄弟と兄弟になりました。秋久くんは同い年の弟」
「••••••?」
私の言葉に慈雨は首を傾げる。
「母さんが再婚して、その相手が佐渡三兄弟の父親だった」
「••••••はぁぁあ!?」
目を見開いて慈雨が叫ぶ。大きな声にきん、と鳴った耳を触り彼女を見返す。慈雨は口を開閉させて驚いているようだった。
「心配しなくても秋久くん優しいし、まぁ、義兄達はちょっとアレだけど四季さ•••お義父さんとは仲悪くないし大丈夫だよ」
「ちょっ、本当なの?」
「本当だって」
「佐渡家ってヤクザじゃないの?」
「そうだけどみんな優しいよ?」
困惑したような、強張った表情で問いかけてきた慈雨にそう返す。とりあえず敵意があるのは義兄達だけっぽいし。
「大丈夫。何かあったらその時はその時だし、心配してくれてありがとう」
「危機感ゼロにも程があるのよ•••」
私の言葉に慈雨はため息を吐いて頭を抱える。彼女の言葉に心外だと口を尖らせるも、慈雨は何も言わずにまたため息を吐いた。
「いってらっしゃい、冬華」
玄関でそう母に言って家を出る。組員達が送迎すると言ってくれているが、この家から学校まで歩いて十分程度の距離だ。車を使う程の距離ではない。義兄達は使っているらしいが。
「待って冬華ちゃん!僕も一緒に行っていい?」
「秋久くん。もちろん」
小走りで私を追いかけてきた秋久に頷く。嬉しそうに笑った秋久は私の隣に並んだ。実は私と秋久の学校は同じなのだ。大きな学校なので秋久に言われるまで知らなかった。
二人並んで通学路を歩く。学校に近づくにつれ、生徒達が学校へと歩いている姿がちらほらと見えてきた。ここまではいつも通りの光景だ。しかし彼等の視線は私達に集中している。
「•••?」
「どうかしたの?冬華ちゃん」
「いや、なんか視線が集中してる気が•••」
私の顔を覗き込んできた秋久に言う。
「•••そう?いつもと変わらないと思うけど」
キョロ、と辺りを見渡した秋久はそう言って不思議そうな顔をした。
「なら気のせいかも」
「ふふ、冬華ちゃんったら」
秋久が楽しそうに笑う。周りの生徒達の視線がまた集中したのを感じる。どうやら視線は秋久に向いているようだ。怖いものを見たような、恐怖や不安が滲んだ視線だったのが気になるが秋久が気にしていないなら、と学校へと足を進めた。
「じゃあまたね、秋久くん」
「•••うん。また後でね、冬華ちゃん」
どこか渋ったような秋久に首を傾げながらも私は教室の扉を開けた。
「おはよう」
「冬華っ!?あんたいつの間に佐渡秋久と親しくなったの!?」
席に荷物を置き、声をかける。私の姿を見た慈雨(入学当初からの友人だ)が詰め寄って来た。普段は落ち着いた彼女からは考えられないその勢いに驚く。
「佐渡秋久はヤバい奴だって、気を付けなさいよって散々教えたじゃない!」
「ヤバい奴•••?」
秋久に似合わない言葉に首を傾げる。家族になってからずっと優しい秋久にヤバいところなんてなかった。むしろ義兄二人の方が色々ヤバいと思う。
「私が教えたこと忘れたの!?あんなに言ったのに•••!」
慈雨が頭を抱えて唸る。ごめんね、と言いかけた口は勢いよく起き上がった慈雨に驚いて閉じた。
「もう一度教えてあげるから、しっっっかりと聞きなさいよ!」
「うん」
「佐渡秋久は性格破綻者よ。笑って人を甚振るのが大好きで、目を付けられたら最後。その相手の情報は全部ネットの海に流出して終わり。平和に生きたいなら佐渡秋久と決して目を合わせるな、気配を消せ。この学校の生徒なら皆知ってるわ」
「•••性格、破綻者?」
慈雨から聞いた内容に目を丸くする。佐渡家に引っ越してから秋久とは交流があったが今聞いたような人ではなかった筈だ。甚振られるどころか結構優しく親切にしてもらっている。
性格だって【性格破綻者】と言われるようなところはないし、何なら義兄達の方が酷い。特に長男。
「だから近付いたらダメよ。私、冬華が酷い目に合うなんて絶対に嫌だもの」
む、と睨みつけながら告げられた言葉に眉を下げる。慈雨の気持ちは嬉しいが近付く近付かないの問題ではないのだ。だって私と秋久は家族だから。
「あー、あのね、慈雨」
「それから佐渡秋久の兄達も気を付けなさい。二年の方は不良グループのトップだし、三年の方は慕われているけど何か裏がありそうだし。二人ともいい噂は聞かないわ」
真実を伝えようとした瞬間、慈雨が言葉を被せる。話された内容はまぁ、理解できるがそれよりも義兄二人も同じ学校だったとは知らなかった。家を出る時間も違うし、そもそも彼等との会話がないのだから、知らなくても仕方ないと言えば仕方ないのかも。
「いい?佐渡三兄弟には、絶対に近付かないのよ。わかった?」
指を突き立てて私に言った慈雨に、私は苦笑しながら口を開いた。
「•••ごめん、慈雨。私、佐渡家の娘になったの」
「は?」
「佐渡三兄弟と兄弟になりました。秋久くんは同い年の弟」
「••••••?」
私の言葉に慈雨は首を傾げる。
「母さんが再婚して、その相手が佐渡三兄弟の父親だった」
「••••••はぁぁあ!?」
目を見開いて慈雨が叫ぶ。大きな声にきん、と鳴った耳を触り彼女を見返す。慈雨は口を開閉させて驚いているようだった。
「心配しなくても秋久くん優しいし、まぁ、義兄達はちょっとアレだけど四季さ•••お義父さんとは仲悪くないし大丈夫だよ」
「ちょっ、本当なの?」
「本当だって」
「佐渡家ってヤクザじゃないの?」
「そうだけどみんな優しいよ?」
困惑したような、強張った表情で問いかけてきた慈雨にそう返す。とりあえず敵意があるのは義兄達だけっぽいし。
「大丈夫。何かあったらその時はその時だし、心配してくれてありがとう」
「危機感ゼロにも程があるのよ•••」
私の言葉に慈雨はため息を吐いて頭を抱える。彼女の言葉に心外だと口を尖らせるも、慈雨は何も言わずにまたため息を吐いた。
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