上 下
4 / 7

引っ越しまして

しおりを挟む
 顔合わせの日から数日が経ち、いよいよ引っ越しの日になった。あの日帰ってきた母は満足そうな顔をしていたので、相当なプレイになったのだろう。三兄弟も気の毒だったな。

「付きやしたぜ、姐さん」
「ありがとう」
「足元に気をつけて下さい、お嬢」
「はい、ありがとうございます」

 佐渡組の組員が運転してくれた車から降りる。組長からの命令との事で私達を迎えに来てくれていたのだ。
 まだ会って二度目なのに彼等は母を姐さん、私をお嬢と呼ぶ。三兄弟の長男次男と違い、彼等は私達を受け入れている様だった。私達を呼ぶ声は敬意を含んでいる。
 敬われる様な事はしてないのにな、と思うが面倒なので訂正はしない。理由は気になるが。

「ふふ、いかにもヤクザの妻って感じね」
「まぁ、母さんが楽しいなら良かったよ」

 大きな門の前で母と会話する。視界の端では運転手の組員が門番に声をかけていた。彼から耳打ちされた門番は私達を見てパッと顔を明るくさせると、門に手をかける。
 門番が開いた門の先には、ずらりと組員であろう人達が並んで一斉に頭を下げていた。うわ、任侠映画で見たやつだ。

「「「お疲れ様です。姐さん、お嬢」」」
「あらあら、息ぴったりね」

 すごいわ、と喜ぶ母の隣で私は彼等に会釈をする。強面の人が多いが、敵意はない様でホッと胸を撫で下ろす。

「雪子さん、冬華ちゃん」
「四季さん」
「迎えに行けなくてすまなかった。どうしても家から離れられなくて」

 申し訳ないと眉を下げる組長に母は首を横に振る。

「気にしなくても大丈夫よ、四季さん。組員さんを迎えによこしてくれてありがとう」
「雪子さん•••♡」

 うっとりと母を見つめる組長に、コホンと喉を鳴らす。

「それ以上は二人きりの時にしてください、四季さん。理性のない獣じゃないのだから我慢出来ますよね?」
「•••、もちろんだよ、冬華ちゃん」
「ふふ、冬華ったら」

 頬を染めてゴクリと喉を鳴らした組長を不思議に思っていると母が楽しそうに笑った。

「さぁ、入ってくれ。冬華ちゃんの部屋に案内しよう」

 ふ、と息をついて頬の赤みが引いた組長が私の手を引いて言う。自分の部屋、という憧れの存在に少なからず胸が高鳴る。コクコクと頷いた私を組長は嬉しそうに見ていた。

「あら私は?」
「雪子さんは私と同じ部屋だよ。そうだよね?」
「もう、冗談よ!約束は破らないわ」

 母の問いかけに組長がそう言って不安げな表情をする。彼は私の手を掴んでいる方とは反対の手で、母を逃さまいと胸の中に囲った。一瞬の動きにキョトンとした母は、からりと笑う。
 母に頬を寄せる組長に、そんな彼の頬を撫でる母。組長に手を握られている為私は逃げられない。
 廊下や外に控えている組員達が玄関口でイチャつく二人にどうすればいいのかと困り、助けを求めるように私を見つめる。

「母さんそれくらいにして。四季さんも我慢してください」

 ため息混じりの私の言葉に組長の肩が跳ねる。

「あら、ごめんね。冬華」
「ぅ、すまない。冬華ちゃん」
「いいえ。私の部屋に案内してもらえますか?」

 くん、と組長の手を引いて彼を見上げた。前に会った時も思ったが、組長は背が高い。推定190はある彼と約160の私の身長差は30cm、見上げると首が痛くなる。

「はぁ•••♡雪子さんそっくりだ」

 うっとりと呟く組長に思わず眉が寄る。悦に浸るなら私の居ない場所にしてほしいし、いつまで玄関口に居ないといけないの?

「こら、四季さん。冬華が怒るわよ」
「別に怒んないよ。ただ呆れるだけ」

 腰に回された組長は腕を叩きながら言った母にそう返す。口からは無意識にため息が溢れていた。

「す、すまない。すぐに案内するよ」
「•••よろしくお願いします」

 そう言ってぎゅっと握り締められた組長の手の力に苦笑して、私は頷いた。しゅん、とした彼が可哀想になったからじゃない。だから母は私を微笑ましそうに見ないで欲しい。

「ここが冬華ちゃんの部屋だよ」
「わぁっ•••!」

 長い廊下を歩いて案内された部屋に、私の口からは感嘆の声が漏れた。
 和室に慣れない私を気遣ってくれたのか床は殆どがフローリング貼りになっており、部屋の片隅に二畳程の畳が敷かれている。庭に面する小窓の障子に貼られた和紙は小花の透かしが入っていた。昔から密かに憧れていた天蓋付きのベッドも置いてある。
 和と洋が混ざっているのに可愛らしくまとまった部屋。甘すぎず、けれど殺風景ではない様に工夫が施された私の部屋に頬が緩む。

「素敵な部屋•••」
「気に入ってもらえたかな?」

 不安げに私に問いかける組長に頷く。

「はい!すごく嬉しいですっ、ありがとう四季さん!」
「良かったわね、冬華」
「うん!」

 力の抜けた組長の手を離し、私は部屋に足を踏み入れた。微かに香る井草の匂いに気持ちが落ち着く。

「雪、雪子さん、冬華ちゃんが•••!」
「満面の笑みだったわね。あの子昔からこういう部屋に憧れていたからよっぽど嬉しかったみたい」

 私の反応に感動した様子の組長と母の会話を他所に、私は小窓の障子を開ける。小窓からは立派な庭にある大きな池がよく見えた。

「ほんとうに素敵•••」

 柔らかく吹いた風が私の髪を撫でる。なんとか上手くやっていけそうだ。根拠はないが漠然とそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

素直になれない平凡はイケメン同僚にメスイキ調教される

天野カンナ
BL
「俺は旭が童貞で良かったと思ってるよ。このビンビンに膨らんでるピンク色の可愛いの、触るの俺が初めてだろ」 ※素直になれない小さな尻穴平凡受けと受けを溺愛している巨チン美形攻めのラブストーリー。 ♡喘ぎ、淫語、言葉責め有り。 ハッピーエンドです。 【あらすじ】ウエディングプランナーをしている南山旭は7年間同僚の北尾敦に片思いをしている童貞だ。 容姿端麗で交流範囲も広い敦にはすでに恋人くらい居てもおかしくはないし、恋愛対象に男性が含まれているのかも分からないため、旭はずっと告白せずにいた。 しかし、どんどん好きになっていく気持ちに耐えられなくなり、敦に恋人か気になる人がいるか聞いているのなら、この不毛な恋を諦めてしまおうと決心する。 ところが、酔って目が覚めると裸で寝ている敦が隣で寝ていて…。 ※第10回BL小説大賞にエントリーさせていただきました。よろしくお願い致します。

カントな男娼は4人の主人に愛される

白亜依炉
BL
「君に、俺たちの子を孕んでほしい」 高級娼婦の子として生まれたルイ(ルウ)は、 終わりのない男娼としての日々を静かに受け入れ、諦めながら過ごしていた。 「この生活は死ぬまで終わらない」。 そう考えていた彼にある日突然『身請け』の話が舞い込む。 しかも、それは当人の知らぬところで既に成立していて…… 貴族階級の商家跡取り息子4兄弟 × カントボーイな元・男娼 「世継ぎのために子供を産んでほしい」と頼まれ、なかば強制的に始まった4兄弟との同棲。 妊娠させたいだけの冷ややかな契約婚かと思えばなぜか4人とも優しくて…??? そんな感じのカントボーイのお話です。 なんか最近ずっと男性妊娠ものを書いてる気がする。 趣味なのでどうか許してください。楽しんでもらえたらhappy. 娼館や諸々の階級制度についてなどは ふんわりご都合設定で形にしてますので、 いっそファンタジーとして見てもらった方が多分楽しいです。 カントボーイがいる世界だからね。 pixiv・アルファポリスで活動しています。 双方とも随時更新・投稿予定。 ――【注意書き】―― ※この作品は以下の要素が含まれます※ 〇全体を通して〇 カントボーイ・男性妊娠・未成年者との性行為・輪姦 〇話によっては〇 攻め以外との性行為・ ※この作品は現実での如何なる性的搾取をも容認するものではありません。 ※注意書きは随時加筆修正されます。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー

光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。 誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。 私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。 えぇ?! 私、仙人になれるの?! 異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。 それなら、仙人になりまーす。 だって、その方が楽しそうじゃない? 辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。 ケセラセラだ。 私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。 まぁ、何とかなるよ。 貴方のこと、忘れたりしないから 一緒に、生きていこう。 表紙はAIによる作成です。

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定 2024.6月下旬コミックス1巻刊行 2024.1月下旬4巻刊行 2023.12.19 コミカライズ連載スタート 2023.9月下旬三巻刊行 2023.3月30日二巻刊行 2022.11月30日一巻刊行 寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。 しかも誰も通らないところに。 あー詰んだ と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。 コメント欄を解放しました。 誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。 書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。 出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。 よろしくお願いいたします。

【完】大きな俺は小さな彼に今宵もアブノーマルに抱かれる

唯月漣
BL
「は? なんで俺、縛られてんの!?」  ゲイである事をカミングアウトの末、ようやく両想いになったと思っていた幼馴染みユウキの、突然の結婚の知らせ。  翔李は深く傷付き、深夜の繁華街でやけ酒の挙げ句、道路端で酔い潰れてしまう。  目が覚めると、翔李は何者かに見知らぬ家のバスルームで拘束されていた。翔李に向かってにっこり微笑むその小柄な彼……由岐は、天使のような可愛い外見をしていた。 「僕とセフレになってくれませんか。じゃないと僕、今すぐ翔李さんを犯してしまいそうです」    初めての恋人兼親友だった男から受けた裏切りと悲しみ。それを誤魔化すため由岐に会ううち、やがて翔李は由岐とのアブノーマルプレイの深みにハマっていく。 「お尻だけじゃないですよ。僕は可愛い翔李さんの、穴という穴全てを犯したい」    ただのセフレであるはずの由岐に予想外に大切にされ、いつしか翔李の心と体はとろけていく。  そんなおり、翔李を裏切って女性と結婚したはずの親友ユウキから、会いたいと連絡があって……!? ◇◆◇◆◇◆ ☆可愛い小柄な少年✕がたいは良いけどお人好しな青年。 ※由岐(攻め)視点という表記が無い話は、全て翔李(受け)視点です。 ★*印=エロあり。 石鹸ぬるぬるプレイ、剃毛、おもらし(小)、攻めのフェラ、拘束(手錠、口枷、首輪、目隠し)、異物挿入(食べ物)、玩具(ローター、テンガ、アナルビーズ)、イキ焦らし、ローションガーゼ、尿道攻め(ブジー)、前立腺開発(エネマグラ)、潮吹き、処女、無理矢理、喉奥、乳首責め、陵辱、少々の痛みを伴うプレイ、中出し、中イキ、自慰強制及び視姦、連続イカセ、乳首攻め(乳首イキ、吸引、ローター)他。 ※アブノーマルプレイ中心です。地雷の多い方、しつこいエッチが苦手な方、変わったプレイがお嫌な方はご注意ください。 【本編完結済】今後は時々、番外編を投下します。 ※ムーンライトノベルズにも掲載。 表紙イラスト●an様 ロゴデザイン●南田此仁様

50代後半で北海道に移住したぜ日記

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
まあ結局移住したので、その「生活」の日記です。

ソーダの魔法〜ヘタレな溺愛初彼氏は炭酸飲んだら人格変わってドSになっちゃうやつでした〜

緒形 海
BL
真野深月(まの・みつき)20歳、最近自分がゲイであることを自覚し始めた大学生。 ある日のバイト帰り、深月は居酒屋ホールスタッフ仲間・篠原蒼太(しのはら・そうた)から突然の愛の告白を受けてしまう。 デカい図体に似合わず気弱で優しすぎるヘタレ気味な蒼太。はっきり言ってあまり好みのタイプではなく……考えた末、深月はお試しとして1週間の期間限定で交際okの返事をすることに。 ただ、実は…蒼太にはある秘密があった。 彼は炭酸の飲み物がめちゃくちゃ苦手で、一口でも飲んでしまうと人格がチェンジしてしまうという謎体質の持ち主だったのである…。 受け⚪︎真野 深月 まの みつき MM 攻め⚫︎篠原 蒼太 しのはら そうた SS 人格豹変もの&ソフトSMチックな話が書きたくて生まれた作品です。 R18指定。過激描写のシーンがあるエピソードには▽マークが入ります。背後にご注意くださいませ。 いろんな炭酸が出てくる予定…です。 ヘタレでドSでヤンデレ気味な溺愛攻めに愛されるといういろいろてんこもりのよくばりセット☺︎ハピエン保証♡

処理中です...