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〜初等部
不穏な空気
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宝玉学園初等部の図書館。
「久しぶりだね、紫之宮嬢。元気そうで安心したよ」
黒い瞳に心配の色をのせて微笑む黒崎くん。
「春様、お久しぶりの学園で疲れていらっしゃいませんか?」
「体を冷やしては大変です。春お姉様、こちらをお使い下さい」
心配そうに眉を下げてくる桜ちゃんと、私の肩にストールを掛ける國近くん。
「「「・・・・・・」」」
私を挟んで決してお互いの姿を目に入れようとしない両者の様子に浮かべていた笑みが引きつるのを感じる。
もしかして、兄と桜ちゃんの顔合わせの惨事の再来ですか?
***
「お姉様?お手紙にはなんと書かれていたのですか?」
手紙を開いて固まる私に千華ちゃんが首を傾げた。桜ちゃんと國近くんの私の一挙一動を見逃さないと言わんばかりの視線が突き刺さる。
「・・・直接、私と会ってお話がしたいと」
何時かはバレることだからと、誤魔化すことを諦めて3人に告げる。この三人なら周りに言いふらす事もしないだろうし、大丈夫でしょう。
「春様と、お会いしたいと?」
「しかも春お姉様と黒崎様の2人きりで、でしょうね」
桜ちゃんと國近くんが眉をしかめて呟く。
「まぁ!黒崎様もお姉様に救われた方なのでしょうか?」
手を合わせて嬉しそうに言った千華ちゃんに、ホッとする。
桜ちゃんも國近くんもなんかピリピリしてきたから、空気が重く感じていたんだよね。千華ちゃんの発言も少し引っかかるところがあるけど。
「駄目、でしょうか?折角お手紙を頂いたのでお断りするのは申し訳ないのですが・・・」
ふと手紙に視線を落とす。
黒崎くんは攻略対象者の1人だけど、ゲームみたいな性格じゃない普通の男の子だった。家柄のせいで寂しい思いをしていた、小さい子。
私の都合で『秘密の友達』を了承してもらっているのに、会えないなんて言えるわけない。
「・・・春様、申し訳ありません。また春様の身に何かあったら、と思ってしまうのです。私達の勝手な思いで春様の行動を制限するつもりではないのです」
小さな声だった。その声に私は顔を上げる。
困った表情で眉を下げて桜ちゃんが私に微笑みかけていた。唇を震わせて瞳を潤ませた彼女に、なんて言葉をかければいいのだろうか。
「春お姉様。あの事故で春お姉様が眠られていた間、僕も、もちろん桜様と千華嬢も、とても後悔したのです。お側に居たのに春お姉様を守ることができなかったことを、お側に居たのにその身を危険にさらしてしまったことを」
黙りこんでしまった桜ちゃんにハンカチを渡して、國近くんが私に話しかける。
この一年間、3人が内に秘めていた思いを。悲しそうな顔で淡々と。私の隣で笑っていた千華ちゃんも顔を曇らせ、俯いた。
「そんな、あれは私が勝手に行動した結果です。皆さんがそんな思いをすることは・・・」
「春様は、本当にお優しいです。こんな私達に気をつかっていただいて・・・」
3人が気に病む必要はないのだと伝えるが、ますます悲しそうな顔をするので私は頭を悩ませる。
大切な友達には笑っていて欲しい。私はまだまだ幼いこの3人を友達として幸せにしてあげたいのだ。
「では、お相子様ですね。私は私自身が悪いと思っていますし、皆さんは皆さんが悪いと思っています。それなら、お相子ですよ。同じことが起きないように、お互い気を付けましょう・・・ね?」
「「「春様・・・/春お姉様/お姉様」」」
にっこり笑って首を傾げる。3人は一瞬固まって、それから嬉しそうに笑った。良かった、やっぱり笑顔が一番だもんね。
「あの、皆さんも一緒に行きませんか?」
「よろしいのですか?」
3人にバレないようにホッと息をつき、手紙を見てその言う。別に3人なら合わせても大丈夫だよね。友達同士仲良くなれば私も嬉しいし。
私の様子を伺いながら聞いてきた桜ちゃんに、頷いて笑う。
「もちろんです。私の自慢のお友達だと紹介させて下さいませ」
私の言葉に3人は嬉しそうに笑うと、大きく頷いた。
***
まぁ、そんな経緯でこのお茶会?が始まったんだけど・・・
「・・・君達は、誰なのかな?」
「貴方様も、春様の何なのですか?」
・・・なんか空気が重くない?
「あのっ、私から紹介致しますね?」
慌てて黒崎くんと桜ちゃんの間に割り込み、話題を逸らす。・・・逸らせ、てるかな?
気を取り直して、黒崎くんを手で示す。
「こちら、私のお友達の黒崎 恭様です」
「・・・よろしくね」
麗しい笑顔で黒崎くんが一礼する。
次いで私は、桜ちゃん達を手で示す。
「こちらは私のお友達の小早川 桜さんに山代 國近さん、それから佐々木 千華さんです」
「よろしく、お願い致しますね?」
「よろしくお願いします、黒崎様」
「よろしくお願い致しますわ」
桜ちゃんはにっこり笑い、國近くんは微笑みを浮かべ、千華ちゃんは優雅に一礼した。
4人の間に先程までの険悪な空気はない。私の気にしすぎだったのだろうか。と疑問に思いながらも、ホッとする。友達同士が仲悪いのは悲しいもんね。
4人の様子に安心していた私は気付かなかった。
彼等が私の見ていない所で睨み合っていたことを。
険悪な空気は消えてなどいないことを。
この会合で、私の知らない重大な事が明かされることを・・・。
「久しぶりだね、紫之宮嬢。元気そうで安心したよ」
黒い瞳に心配の色をのせて微笑む黒崎くん。
「春様、お久しぶりの学園で疲れていらっしゃいませんか?」
「体を冷やしては大変です。春お姉様、こちらをお使い下さい」
心配そうに眉を下げてくる桜ちゃんと、私の肩にストールを掛ける國近くん。
「「「・・・・・・」」」
私を挟んで決してお互いの姿を目に入れようとしない両者の様子に浮かべていた笑みが引きつるのを感じる。
もしかして、兄と桜ちゃんの顔合わせの惨事の再来ですか?
***
「お姉様?お手紙にはなんと書かれていたのですか?」
手紙を開いて固まる私に千華ちゃんが首を傾げた。桜ちゃんと國近くんの私の一挙一動を見逃さないと言わんばかりの視線が突き刺さる。
「・・・直接、私と会ってお話がしたいと」
何時かはバレることだからと、誤魔化すことを諦めて3人に告げる。この三人なら周りに言いふらす事もしないだろうし、大丈夫でしょう。
「春様と、お会いしたいと?」
「しかも春お姉様と黒崎様の2人きりで、でしょうね」
桜ちゃんと國近くんが眉をしかめて呟く。
「まぁ!黒崎様もお姉様に救われた方なのでしょうか?」
手を合わせて嬉しそうに言った千華ちゃんに、ホッとする。
桜ちゃんも國近くんもなんかピリピリしてきたから、空気が重く感じていたんだよね。千華ちゃんの発言も少し引っかかるところがあるけど。
「駄目、でしょうか?折角お手紙を頂いたのでお断りするのは申し訳ないのですが・・・」
ふと手紙に視線を落とす。
黒崎くんは攻略対象者の1人だけど、ゲームみたいな性格じゃない普通の男の子だった。家柄のせいで寂しい思いをしていた、小さい子。
私の都合で『秘密の友達』を了承してもらっているのに、会えないなんて言えるわけない。
「・・・春様、申し訳ありません。また春様の身に何かあったら、と思ってしまうのです。私達の勝手な思いで春様の行動を制限するつもりではないのです」
小さな声だった。その声に私は顔を上げる。
困った表情で眉を下げて桜ちゃんが私に微笑みかけていた。唇を震わせて瞳を潤ませた彼女に、なんて言葉をかければいいのだろうか。
「春お姉様。あの事故で春お姉様が眠られていた間、僕も、もちろん桜様と千華嬢も、とても後悔したのです。お側に居たのに春お姉様を守ることができなかったことを、お側に居たのにその身を危険にさらしてしまったことを」
黙りこんでしまった桜ちゃんにハンカチを渡して、國近くんが私に話しかける。
この一年間、3人が内に秘めていた思いを。悲しそうな顔で淡々と。私の隣で笑っていた千華ちゃんも顔を曇らせ、俯いた。
「そんな、あれは私が勝手に行動した結果です。皆さんがそんな思いをすることは・・・」
「春様は、本当にお優しいです。こんな私達に気をつかっていただいて・・・」
3人が気に病む必要はないのだと伝えるが、ますます悲しそうな顔をするので私は頭を悩ませる。
大切な友達には笑っていて欲しい。私はまだまだ幼いこの3人を友達として幸せにしてあげたいのだ。
「では、お相子様ですね。私は私自身が悪いと思っていますし、皆さんは皆さんが悪いと思っています。それなら、お相子ですよ。同じことが起きないように、お互い気を付けましょう・・・ね?」
「「「春様・・・/春お姉様/お姉様」」」
にっこり笑って首を傾げる。3人は一瞬固まって、それから嬉しそうに笑った。良かった、やっぱり笑顔が一番だもんね。
「あの、皆さんも一緒に行きませんか?」
「よろしいのですか?」
3人にバレないようにホッと息をつき、手紙を見てその言う。別に3人なら合わせても大丈夫だよね。友達同士仲良くなれば私も嬉しいし。
私の様子を伺いながら聞いてきた桜ちゃんに、頷いて笑う。
「もちろんです。私の自慢のお友達だと紹介させて下さいませ」
私の言葉に3人は嬉しそうに笑うと、大きく頷いた。
***
まぁ、そんな経緯でこのお茶会?が始まったんだけど・・・
「・・・君達は、誰なのかな?」
「貴方様も、春様の何なのですか?」
・・・なんか空気が重くない?
「あのっ、私から紹介致しますね?」
慌てて黒崎くんと桜ちゃんの間に割り込み、話題を逸らす。・・・逸らせ、てるかな?
気を取り直して、黒崎くんを手で示す。
「こちら、私のお友達の黒崎 恭様です」
「・・・よろしくね」
麗しい笑顔で黒崎くんが一礼する。
次いで私は、桜ちゃん達を手で示す。
「こちらは私のお友達の小早川 桜さんに山代 國近さん、それから佐々木 千華さんです」
「よろしく、お願い致しますね?」
「よろしくお願いします、黒崎様」
「よろしくお願い致しますわ」
桜ちゃんはにっこり笑い、國近くんは微笑みを浮かべ、千華ちゃんは優雅に一礼した。
4人の間に先程までの険悪な空気はない。私の気にしすぎだったのだろうか。と疑問に思いながらも、ホッとする。友達同士が仲悪いのは悲しいもんね。
4人の様子に安心していた私は気付かなかった。
彼等が私の見ていない所で睨み合っていたことを。
険悪な空気は消えてなどいないことを。
この会合で、私の知らない重大な事が明かされることを・・・。
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