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8話 彼氏の本性(知らない彼の一面)
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「見られちゃった・・・・・・」
私の目の前には、暗く淀んだ瞳の高橋くん。
雨に濡れ、顔に張り付いた髪が酷く邪魔だった。
その日は曇りだった。
天気予報では、午後から雨が降るらしい。教室の窓の外から空を見る。
雨は嫌いだ。
「真木さん?」
外を見て眉を寄せる私を、高橋くんが覗き込む。心配そうな彼の声。
「どうかした?」
「何でもないよ、大丈夫」
私は高橋くんの頭を撫でる。それだけで彼は嬉しそうに笑うのだ。
最初は高橋くんに脅迫されて付き合う事になったけど、今ではそんな彼の不安定さも愛おしく思ってしまう。
──あぁ、高橋くんが好きだ
彼に絆され、かけがえのない大切な存在になっていく。
格好良くて、だけど本当は可愛い高橋くん。すり寄ってきた彼を抱きしめる。
──これから先も、ずっと一緒に。
「じゃあまた明日」
「・・・うん」
私の家の前。離れるのを毎回渋る高橋くんに苦笑し、額にキスをする。
「明日また会える。だから帰ろう?」
彼の頬を包み込んで言い聞かせる。
何度も何度も私の姿を振り返りながら帰路につく高橋くんに、小さく手を振る。
パァッと笑顔を浮かべた彼に笑い、私は家に入った。そして気づく。
──あれ?
私の手には高橋くんの傘。
私の鞄を持つという彼に、じゃあ傘は私が持つと言って預かっていたままだった。
外を見れば今にも雨が降りそうな空。
「まだ、間に合うかな」
私と彼の傘を手に持ち、家を出た。
辺りを見渡し高橋くんの姿を探す。
──居た!
彼に駆け寄ろうとするも、路地裏に入り込んで行く彼になかなか追い付けない。
人の気配を全く感じない、暗い路地。
──何でこんなところを通るんだ?
不思議に思いながらも、足を進めた。
「ぐっ、がぁ」
何かを殴打した鈍い音に、男の呻き声。
ドサリと人の倒れる音が聞こえた道を覗きこんだ。
私と同じ制服を着た男子が地面に倒れ伏し、その背後に居たのは・・・・・・
「・・・高橋くん?」
ポツリ、ポツリと降り始めた雨が、私達の体を濡らしていった。
高橋くんの手には、へこんだバット。雨で体が冷えたのか、声が震えた。
「何を、してるの・・・」
聞かなくても本当はわかっていた。高橋くんが男子生徒をバットで殴ったのだと。
カラン。彼の手から滑り落ちたバットの音が、響いた。
ふらつきながら、私に近づいてくる。
「・・・こいつが悪いんだ」
「真木さんを、好きって言うから」
「僕から真木さんを奪おうとするから・・・」
「・・・だから!」
段々と強くなっていく、高橋くんの口調。
彼の口から吐き出されるのは私に対する、異常なまでの執着。
「だから、こいつがいなくなれば」
「・・・真木さんはずっと僕のもの」
「そうでしょう?」
まるで底なし沼のような、淀んだ瞳。
狂気を滲ませた、歪んだ笑み。
「真木さんを傷付ける奴も、僕から真木さんを奪おうとする奴も」
「皆、皆、痛めつけないと」
「そうしたら、誰も、僕らを引き離さない」
どこまでも純粋な、子供のような残酷さ。
「・・・・・・ねぇ、真木さん。僕を誉めてくれる?」
高橋くんの狂気は何回も見ていたし、知っていた。それも彼の一面だと受け入れた。
でも、私は知らなかったのだ。その狂気が私の周りに暴力という形で牙を向くなんて。
冷えきった高橋くんの手が私の頬を撫でる。
降り続ける雨が、私達の体に強く突き刺さる。
──まだ、雨は止みそうにない。
彼氏の本性(知らない彼の一面を知ってしまいました)
私の目の前には、暗く淀んだ瞳の高橋くん。
雨に濡れ、顔に張り付いた髪が酷く邪魔だった。
その日は曇りだった。
天気予報では、午後から雨が降るらしい。教室の窓の外から空を見る。
雨は嫌いだ。
「真木さん?」
外を見て眉を寄せる私を、高橋くんが覗き込む。心配そうな彼の声。
「どうかした?」
「何でもないよ、大丈夫」
私は高橋くんの頭を撫でる。それだけで彼は嬉しそうに笑うのだ。
最初は高橋くんに脅迫されて付き合う事になったけど、今ではそんな彼の不安定さも愛おしく思ってしまう。
──あぁ、高橋くんが好きだ
彼に絆され、かけがえのない大切な存在になっていく。
格好良くて、だけど本当は可愛い高橋くん。すり寄ってきた彼を抱きしめる。
──これから先も、ずっと一緒に。
「じゃあまた明日」
「・・・うん」
私の家の前。離れるのを毎回渋る高橋くんに苦笑し、額にキスをする。
「明日また会える。だから帰ろう?」
彼の頬を包み込んで言い聞かせる。
何度も何度も私の姿を振り返りながら帰路につく高橋くんに、小さく手を振る。
パァッと笑顔を浮かべた彼に笑い、私は家に入った。そして気づく。
──あれ?
私の手には高橋くんの傘。
私の鞄を持つという彼に、じゃあ傘は私が持つと言って預かっていたままだった。
外を見れば今にも雨が降りそうな空。
「まだ、間に合うかな」
私と彼の傘を手に持ち、家を出た。
辺りを見渡し高橋くんの姿を探す。
──居た!
彼に駆け寄ろうとするも、路地裏に入り込んで行く彼になかなか追い付けない。
人の気配を全く感じない、暗い路地。
──何でこんなところを通るんだ?
不思議に思いながらも、足を進めた。
「ぐっ、がぁ」
何かを殴打した鈍い音に、男の呻き声。
ドサリと人の倒れる音が聞こえた道を覗きこんだ。
私と同じ制服を着た男子が地面に倒れ伏し、その背後に居たのは・・・・・・
「・・・高橋くん?」
ポツリ、ポツリと降り始めた雨が、私達の体を濡らしていった。
高橋くんの手には、へこんだバット。雨で体が冷えたのか、声が震えた。
「何を、してるの・・・」
聞かなくても本当はわかっていた。高橋くんが男子生徒をバットで殴ったのだと。
カラン。彼の手から滑り落ちたバットの音が、響いた。
ふらつきながら、私に近づいてくる。
「・・・こいつが悪いんだ」
「真木さんを、好きって言うから」
「僕から真木さんを奪おうとするから・・・」
「・・・だから!」
段々と強くなっていく、高橋くんの口調。
彼の口から吐き出されるのは私に対する、異常なまでの執着。
「だから、こいつがいなくなれば」
「・・・真木さんはずっと僕のもの」
「そうでしょう?」
まるで底なし沼のような、淀んだ瞳。
狂気を滲ませた、歪んだ笑み。
「真木さんを傷付ける奴も、僕から真木さんを奪おうとする奴も」
「皆、皆、痛めつけないと」
「そうしたら、誰も、僕らを引き離さない」
どこまでも純粋な、子供のような残酷さ。
「・・・・・・ねぇ、真木さん。僕を誉めてくれる?」
高橋くんの狂気は何回も見ていたし、知っていた。それも彼の一面だと受け入れた。
でも、私は知らなかったのだ。その狂気が私の周りに暴力という形で牙を向くなんて。
冷えきった高橋くんの手が私の頬を撫でる。
降り続ける雨が、私達の体に強く突き刺さる。
──まだ、雨は止みそうにない。
彼氏の本性(知らない彼の一面を知ってしまいました)
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