16 / 59
2章 憶
5 身体
しおりを挟む「霧島、霧島じゃないか!きみ、俺からの連絡、絶対忘れていただろう」
花角ヨウカは顔を合わせた瞬間そう言い、笑った。
「ま、とりあえず中に入ってくれ」
小屋のなかへと案内する彼の姿は、三十台前半くらいだろうか。白い肌に茶の巻き毛を後ろに束ねている。花角が昔から好んで選ぶ素体の特徴である。
ただ、身体は以前合ったときより厚い印象で、自然な筋肉で覆われているように見えた。また服の端など、ところどころに泥が付着していることに気づいた。
霧島がかつて本人から聞いたことには、花角ヨウカは昔、医師であったらしい。すでにこの世界に人間による治療行為はなくなって久しいが、その高い順応力ですっかりこの世界に溶け込み、余生を満喫しているのである。
機械知性のおすすめするものを、とりあえず試してみようとする前向きな性格で、過去にX型素体であったこともあるらしい。
以前会ったときは、プラント外菜園に精を出していたが、どうやらいまもそれは続いているように見えた。
「……満喫してるな」
霧島が言うと、花角は部屋の片隅で用意していた嗜好性飲料を差し出しながら微笑んだ。
「逆に、きみは損じゃないかい?また、そのお気に入りの身体に交換したのだろう。……まあ、きみだとわかりやすくていいんだけど」
花角はそう言いながら、霧島の若返った皮をまじまじと眺めた。
「どうせ、前回も長いあいだ使ったんだろう?……確かに、こうして身体に筋肉が付くと肉体に愛着は湧くから、最近はきみのしていることもわからなくもないけどね。ただ、きみはこういう肉体労働的な趣味もないんだから、はやく替えればいいのに、なぜしないんだい?」
たくましくなった自分の上腕をさすりながら、花角は聞いた。
「……それは……」
霧島は言葉に詰まった。昨日と同じ問いである。ただ、いまだその理由に明確な答えは出てなかった。
なぜほかの素体系統ではだめなのだろうか。
過去に機械知性から指摘を受け、ほかの系統を選ぼうとしたこともある。しかしそのとき不意に心に浮かんだのは、「それは自分の体にならない」という不信感であった。
まるで魂が、自分が自分でなくなることを許さないように、無意識下で拒絶するように。
霧島はふと思った。
この世から消えてしまいたいと言う強い想いも、自分の魂の声であるのだろうか、と。
27
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
森永くんはダース伯爵家の令息として甘々に転生する
梅春
BL
高校生の森永拓斗、江崎大翔、明治柊人は仲良し三人組。
拓斗はふたりを親友だと思っているが、完璧な大翔と柊人に憧れを抱いていた。
ある朝、目覚めると拓斗は異世界に転生していた。
そして、付き人として柊人が、フィアンセとして大翔が現れる。
戸惑いながら、甘々な生活をはじめる拓斗だが、そんな世界でも悩みは出てきて・・・
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
鬼に成る者
なぁ恋
BL
赤鬼と青鬼、
二人は生まれ落ちたその時からずっと共に居た。
青鬼は無念のうちに死ぬ。
赤鬼に残酷な願いを遺し、来世で再び出逢う約束をして、
数千年、赤鬼は青鬼を待ち続け、再会を果たす。
そこから始まる二人を取り巻く優しくも残酷な鬼退治の物語――――
基本がBLです。
はじめは精神的なあれやこれです。
鬼退治故の残酷な描写があります。
Eエブリスタにて、2008/11/10から始まり2015/3/11完結した作品です。
加筆したり、直したりしながらの投稿になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる