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1章 隣の席の変な人
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しおりを挟む季節は春。
桜が舞い散る中、私立玲欧学園高等部の一年二組の教室で高島透哉はひとり舞い上がっていた。
身につけたばかりの制服が格好いいことも、寮がとんでもなく綺麗だったこともその理由のひとつだ。しかし何よりも透哉が楽しみにしていたのは、今まさに自由な高校生活がはじまることだった。
この学校は県内でも有数の私立校だ。敷地内には高等部以外にも中等部と大学があって、地元では名門と名高い。そう呼ばれる理由のひとつは高い進学実績だが、それに加えて自由な課外活動を認めていることが大きい。
一般的な運動部や文化部はどれも全国大会常連だ。野球部、サッカー部、テニス部、合唱部……挙げていけばきりがない。加えてプログラミング部やデジタルアート部などの珍しいものや、研究活動などの専門活動も推奨されている。
何よりこの課外活動の結果が、成績に反映されるというのが人気の理由だった。
そもそもこの学園では部活動への所属が必須となる。
「学問だけでは人は育たぬ」
そんな初代学長の信念のもと、誰もが何かのグループに所属し評価を受け、内申に大きく反映させようと努力しているのだ。
透哉が自己紹介前の教室でうずうずその時間を待っているのも同じ理由だった。
彼は知っていた。
すでに出来上がっているグループに入るのもいいけれど、一年生による創部を学校が評価することを。
この学校では新入生が創部を申請すると、問答無用で仮の部が立ち上がる。そしてその内容がよっぽど変なものでなければ先生に止められることもないのだ。
教室には続々と人が集まり始めた。
よく見ればすでにグループで楽しそうに話し合っている者もいる。
―おそらく内部進学生だろう。透哉はそう思いながら、賑やかに話すクラスメイトを見た。
あの中に入っていけば仲間に入れてもらえるかもしれない。ただそこに入る勇気はなかったし、すでに出来上がっているところに入って何かすることも考えてはいなかった。
彼は何よりもこの学校で気の合う誰かを見つけて、何かをやり遂げたかった。
透哉は未だ空席の右隣の席へと視線を向けた。
―この席に現れた人―初めての隣の席の人にまずは声をかけるんだ。
そして仲良くなって、一緒に頑張る仲間も見つけて、中学のときにできなかった花の学校生活を送るんだ!
あとになって考えれば、別に隣の人にこだわる必要はなかったのだが。
このときは入学したばかりで頭がお花畑だったのだろう。透哉は自分が思っている以上に、ロマンチストの素質があった。
彼は再び右隣の席を眺めた。そろそろ予鈴が鳴る時間であるにも関わらず、そこはいまだ誰も座っていなかった。
―まさか⋯⋯。
そう思った時にはすでに遅かった。
担任となる先生が現れても、入学式が始まる直前になっても。結局、最後まで隣の席に誰も座ることはなかった。
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