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第三章 仲間は多いほうがいい
5 日曜日の朝から大騒ぎ
しおりを挟む突然にエマの泣き声が部屋に響き渡る。
目を覚ますとゴマと子猫たちが慌てて逃げていく姿が目に映る。
「エマ、どうしたんだよ」
「みっちゃんが、みっちゃんが死んじゃった」
えっ、みっちゃんってエマの友達のことだろう。死んじゃったのか。もしかして寝ている間にみっちゃんの幽霊が天国へ旅立っていったのか。
もふもふ様を見遣るとかぶりを振っていた。
「誰も見送ってないぞ。みっちゃんとやらは来ていない」
どういうことだ。
「エマ、落ち着こうか」
「みっちゃん、イヤだよ、行っちゃイヤだよ」
エマは泣き叫ぶばかり。どうしていいのやら。
「なに、どうしたの。エマ」
「ママ、みっちゃんが行っちゃったの」
母は僕に目を向けなにがどうなっているのか訊いてきた。僕が泣かしたわけじゃなくて、ただみっちゃんが死んじゃったって叫んでいて泣き止まなくてと話した。悪い夢でも見たのだろうか。
「もしかして夢の話?」
「わかんない。そうだとしてもエマの夢って正夢になることがあるからさ」
「ちょっと朝早いけどみっちゃんの家に電話してみるわね」
母はそう話して部屋を出ていった。
「エマ、みっちゃんが本当に死んじゃったのか」
「そうだよ、行っちゃったんだよ。イヤだ、イヤだ、イヤだ」
もふもふ様はかぶりを振っている。猫たちは部屋を出て扉の陰から顔を出して様子を窺っていた。
「エマ、みっちゃんとやらは死んでなどいないぞ。おいらにはわかる。泣くんじゃない。ほら、尻尾ふりふりゆらゆらり。踊って楽しもうじゃないか」
「死んじゃったもん。見たもん」
「それは夢だろう」
「違うもん、もふもふ様なんてあっちいけ」
どうやらなにを言ってもダメみたいだ。頑なになっている。そこへ母が戻って来てエマの前にしゃがみ込む。
「エマ、よく聞いて。みっちゃんは元気だったわよ。今、電話で話したんだから間違いないわ」
「えっ、話したの」
「そうよ、それでも信用しないなら会いにいけばいいんじゃない」
ヒックヒックと言わせて母をみつめるエマ。
「エマ、行く」
みっちゃんの家は道を挟んで三軒先にある。
「じゃ、僕も一緒に行くよ」
僕はエマと手を繋いでみっちゃんの家に足を向けた。エマは目を赤くしていた。まだ少しだけ瞳も潤んでいる。
「みっちゃん、死んでいないの」
「母さんが話したんだから死んでいないさ。大丈夫だ。きっとエマは悪い夢を見ただけさ」
「そうなのかな」
「そうだよ」
みっちゃんは家から飛び出して来た。
「エマちゃん、ミチコ元気だよ。ほら、ぴぴんのぴんだよ」
「本当だ。みっちゃんがいる。ぴぴんのぴんだ」
エマの顔が明るくなってホッとした。ただ『ぴぴんのぴん』ってどういう意味だろう。エマとみっちゃんしかわからない言葉だ。まあなんとなく予想はつくけど。おそらくピンピンしているってことだろう。つまり死んでなんかいないってことだ。エマの単なる夢で予知夢でもなんでもないってことだ。きっと。
僕はみっちゃんの母親に朝からすみませんと謝り自分の家に戻った。
もうエマはニコニコしている。さっきの泣き叫ぶエマはどこへいったのやら。
「エマ、みっちゃん元気でよかったな」
「うん、よかった」
エマは家の前でスキップしていたら転んでしまった。僕は慌ててエマに駆け寄り「大丈夫か」と声をかえた。泣いちゃうかもと思っていたら、僕のほうに顔を向けてニコリとして「ころんじった」と頭を掻いた。
「気をつけなきゃな」
「うん」
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