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第三章 仲間は多いほうがいい
4 チナの退院(2)
しおりを挟む「チナちゃーーーん、ちたよー」
エマは駆け出そうとしてすぐに立ち止まった。
チナの傍に女の人がいた。母親だろうか。
「あっ、エマちゃん。来てくれたんだ。うれしい」
「うん、あのね。お兄ちゃんがね。どーーーしても来たいっていうからついてきたの」
チナと目が合った瞬間、顔が熱くなった。まったくエマは余計なことを。
「侑真くん、ありがとう」
「いや、その……」
なにを言っていいのかわからなくなって言葉が出てこなかった。
「君たちだったのね。いつもお見舞いに来てくれてありがとうね」
「だって、エマ、チナちゃんのことだーーーいスキなんだもん」
「ふふ、ありがとうね。エマちゃん」
「おい、それ渡さなくていいのか」
もふもふ様に促されてハッとした。そうだった。
「あの、これ退院祝いに」
僕はアニマルオーナメント付きのアレンジメントを差し出した。
「うわっ、猫ちゃんがいる。かわいい。侑真くん、ありがとう。お母さん見て、見て。かわいいよね」
「そうね。退院祝いまで本当にありがとうね」
チナの母親は優しい感じの人だった。前回、お見舞いには来ていないのだろうかと疑ったことを恥じた。
そう思っていたらエマが袖を引っ張ってきたのでしゃがみ込むと耳元で「チュッチュクチュ―は」と囁いてきた。
な、なにがチュッチュクチュ―だ。そんなことできるわけがないだろう。チナの母親もいるのに。いなくてもできないけど。
「ああ、お兄ちゃんがゆでだこみたいになっちった」
小声でチナが母親に「ねっ、かわいいでしょ」と話していたのが微かに聞こえてきた。『かわいい』って誰のことだ。僕のことか。いや、エマだ。そうだ、僕のわけがない。ああ、なんだか恥ずかしい。
「おい、それはいいのか」
なんだよ、もふもふ様。それって。あっ、たい焼きか。母親がいるし、ひとつしかないしきっと冷めてしまったかもしれないし、もうあげなくてもいい。
「あげないんならさ、おいらが食べてもいいか」
なんだよ、もふもふ様は。
『いいよ、食べたきゃ食べなよ』
そう心の中で呟くともふもふ様は袋からたい焼きを取り出してまたしてもひと吞みしてしまった。
「じゃ、そろそろ行きましょうか」
チナの母親の言葉にチナは頷き「今日はありがとうね」と微笑み病室をあとにした。僕たちも一緒に病室を出たが、退院手続きがあると言って受付のほうへと向かった。
「じゃ、おいらたちも帰るか」
「えええ、チュッチュクチュ―は」
「エマ、静かに」
エマは残念そうな顔をしていたが僕の手を取り病院を出た。
「エマ、まだまだチャンスはあるぞ。それに楽しみはあとにとっておくものだ。なぁそうだろう侑真」
もふもふ様までそんなこと言って。
「そっか、そっか。ワクワクドキドキだね。楽しみ、楽しみ」
なんでエマはそんなに楽しみにしているのだろう。僕とチナのキスがそんなに見たいのか。ああ、もういい加減にしろと言ってやりたい気分だ。言わないけど。
駅に着くとエマが「ねぇ、ねぇたこ焼きもあるよ」と袖を引っ張ってきたが買う金はもうない。あるにはあるが、それは帰りの電車賃だ。使ったら帰れなくなる。エマにはそう伝えると納得してくれた。泣き出すのではと思ったから納得してくれてホッとした。
*
その日の夜、突然チナから電話があった。僕はドキドキが止まらなかった。後ろでエマがニヤニヤしていたが気にすることなく電話に出た。
僕はチナの言葉にさらに心臓の鼓動が速まってしまった。好きだともデートのお誘いでもなくチナが話した言葉は「私ね、言おうかどうか迷ったんだけどね。どうも気になっちゃって言おうと思うの。侑真くんと一緒になぜか狐さんが見えるの。あれ、きっとお稲荷さんの狐よ。知っていた?」だった。
チナもまた霊感が強いみたいだ。
エマはチナと手を取り合ってニコニコしていた。
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